第8話 視察団、正式決定
1990年3月。
厚生省主導による米国・カナダ老人ホーム視察団の参加施設が正式に発表された。
選ばれたのは――「なごみ老人ホーム」そして「櫻老人ホーム」。
名簿を手にした宇野は、しばらく言葉を失った。
そこには、自分と早苗、 そして奥野静江の名前が並んで記されていた。
人数。役割。付き添いの配置。すべてが、まるで最初からこの形になることを
前提に組まれていたかのようだった。
理事長は、宇野の参加に一度は難色を示した。だが――英語ができること。妻が同行すること。
経理と世話役を兼ねられること。それらが評価された。
宇野は、名簿を静かに見つめながら、胸の奥で確信した。――もう、偶然ではない。
運命は、何かに導かれるように、確実に「特別便」という一点へ収束している。
密室。逃げ場のない空。選ばれた者だけが乗る舞台。
復讐は、準備段階を終え、実行の地平へと足を踏み入れた。
特別便という「密室」
移動は、JNL航空の特別チャーター便。搭乗予定者は、222名。
政財界の重鎮。マスコミ関係者。そして――山曽根厚生大臣。西村総業西村会長。
東和電機産業天野社長。
さらに――早苗を捨てた男で千鶴の父でもある、菅野の名も、そこにあった。
名簿を見た瞬間、宇野の胸の奥で、何かが静かに、しかし確かに音を立てて動いた。
同じ機体。同じ時間。同じ空間。
これほどの条件が揃うことが、人生に、いったい何度あるだろうか。
その夜。帰宅した千鶴が、何気ない調子で言った。
「できれば…… 私が、その便に乗務できたらいいな」
宇野と早苗は、揃って微笑み、頷いた。
だが――心の底では、2人とも同じことを思っていた。
――「この子だけは、 絶対に、巻き込まない。」
密室は、すでに用意されている。残るのは――そこに何を持ち込むかだけだった。
――――――――― 次回予告―――――――――
準備は、誰にも気づかれぬまま、静かに始まる。
偶然を装い、日常に紛れ、復讐は“形”を持ち始める
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