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青い霧  作者: 田中元一


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第2話 宇野の胸中 ――復讐は、まだ序曲にすぎない

宇野の胸には、どうしても消えない思いがあった。

――戦友・畑中を巻き添えにして死なせた。

――早苗の両親と兄を殺したのも、自分が関わった部隊だ。

――幼馴染で恩人の奥野までも、結果として死に追いやった。

一方で、今もなお権力を振りかざし、「改革派」「信頼される指導者」として生きている男たちがいる。

101部隊で軍需物資の隠匿に関わった山曽根康路。西村勝男。天野真。                   そして、古舘村出身の津田弘毅。

――自分の命があるうちに、あいつら4人だけは、この世から消し去らなければならない。

そう決意しても、現実は重かった。彼らは高い地位にあり、自分の手の届かない場所にいる。

それでも――宇野の中で、何かが静かに動き始めていた。

ここは、敵の「懐」そのものだった。

緑風会という医療法人。老人ホームという「死と老いの現場」。

そこに集められていく、過去を背負った人間たち。

「橘昭一という男の“老後”」復讐の歯車が、静かに噛み合い始める。


失われた命。守れなかった約束。

背負ったまま、生き延びてきた時間。

それでも――時は止まらず、誕生日は巡ってくる。

1989年――宇野の、73歳の誕生日。

JNL航空の国際線スチュワーデスとなった娘・千鶴が、パリ便から元気に帰宅した。

「世界三大珍味だよ。」 そう言って、フォアグラとキャビアをテーブルに並べ、

慣れた手つきでシャンパンの栓を抜く。

久しぶりに、家族3人だけの、ささやかだが温かな誕生日祝いだった。

そのとき――玄関のチャイムが鳴った。届いたのは奥野静江からの花束と、

小さなメッセージカード。

「急な夜勤になってしまって、伺えずごめんなさい」、「いつまでも、お元気で!」

奥野が亡くなって、すでに19回忌を迎えている。

――自分だけが、こんなふうに祝福されていていいのだろうか。

宇野は、胸の奥にじわりと広がる、申し訳なさにも似た感情を、しばらく噛みしめていた。

静かな幸福の中で、宇野の胸には、言葉にできない重みが、確かに残り続けていた。

――――――――――― 次回予告―――――――――

運命を変える一本の電話。それは、この穏やかな日常を

静かに、しかし決定的に変える――運命の知らせ だった。

―――――――――――――――――――――――――


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