第8話 清の決断
「経済的なこと……?」奥野が、思わず聞き返した。
清は、少し間を置いてから、静かに言葉を選びながら説明を始めた。
「東大は国立で授業料は安くても、 東京での下宿代、食費、教材費、通学費がかかります。
祖父母も高齢ですし、母も、いつまでも若くはありません。 茶園だけでの家計は、正直、楽ではないと思うのです」
「防衛大だって、 似たようなものじゃないのか?」
奥野の問いに、清は首を横に振った。
「いいえ。 防衛大学校は全寮制で、 制服や寝具は貸与、食事も支給されます。そのうえ、毎月“学生手当”が支給され、
6月と12月には、期末手当まで出るんです。 仕送りはいりません。 貯金もできるくらいです」
その“夢のような待遇”に、奥野も、宇野も、思わず目を丸くした。
清はさらに、卒業後の任官の流れ、パイロットへの道、そして――自分の成績なら、推薦入学の可能性が高いことを、
丁寧に説明した。
2人は顔を見合わせ、しばらく無言のまま、ゆっくりとうなずき合った。
こうして清は、翌年9月、防衛大学校のわずか8名しかない推薦枠に挑戦し、10月中旬――合格通知を手にした。
仲間たちが進路に悩む中、清は、最も早く自分の道を決めた受験生となった。
やがて防大生となった清は、月に一度、真新しい制服姿で、奥野家と宇野家を訪ねてくるようになった。
言動は落ち着き、立ち居振る舞いも、どこか凛々しく堂々としてきた。
千鶴は、そんな清に、ますます憧れを募らせていった。
そして宇野夫婦は、心の内で、そっと願うようになっていた。
――いつか、千鶴と清が、一緒になってくれたらと。
――――――――― 次回予告―――――――――――
やがて訪れる、「夢を追う者」と「それを支える者」の試練。
静かに張られた伏線が、少しずつ、動き始める。




