第7話 受け継がれる時間
高校生になる頃には、清の面差しが父・畑中に瓜二つだと、祖父母から何度も言われるようになっていた。
そのたびに宇野は、仏壇に飾られた畑中の学生時代の写真と、戦闘機の前で微笑む軍服姿の写真を見つめ、
心の中で、そっと語りかけた。
「畑中……貴様も、安心だな。 お前のおかげで、俺もこうして幸せな人生を
送らせてもらっている。 お前の分まで、もう少し、頑張って生きてみるからな」
清は、母親孝行な少年だった。学校から帰れば、茶畑を手伝い、地元でも1、2を争う進学校の公立高校で、
常に5番以内の成績を保っていた。
祖父母にとって、清は、何よりも誇らしい孫だった。
そして――彼らの前では、宇野は今なお、自分を「斎藤」と名乗っていた。
清が高校二年の夏休みを迎えた頃、一通の手紙が届いた。
「奥野のおじさんと、斎藤さんに、相談したいことがあります」
その夜。いつものように奥野家で夕食を共にしたあと、奥野の部屋で、3人だけの話し合いが持たれた。
清の相談は、進路についてだった。
清は、静岡県でもトップクラスの進学校に通い、成績は常に5番以内。
祖父母も、担任教師も、口を揃えて「東大進学」を勧めていた。
だが――清の胸には、幼いころから抱き続けてきた別の夢があった。
清は、静かに言葉を選びながら語った。「僕は…… 小さい頃から、父のようなパイロットになりたいと思っていました。
それに、東京オリンピックの開会式で、空に五輪を描いた航空自衛隊・松島基地のブルーインパルスにも憧れていて……
だから、東大ではなく、防衛大学校に進みたいのです」
宇野は、黙ってうなずいた。
「そうか……。 君の父さんは、 戦時中、 長崎・大村基地でパイロット養成の教官を務めていたほどの優秀な飛行士だった。
その血を引いているなら、きっと大丈夫だ」
一方、奥野は腕を組み、しばらく考えたあと、ゆっくり口を開いた。
「清の気持ちは、分かる。 だがな…… もう、 お前の親父さんの時代とは違う。
戦争は、二度と起きてほしくない。
それなら、東大の法学部へ行って、官僚となり、別の形で国に尽くす道もあるんじゃないか?」
清は、深く頭を下げた。「奥野のおじさんのお話も、よく分かります。 でも…… 経済的なことも考えると、
防衛大の方が 現実的なんです」
その言葉に、部屋の空気が、わずかに張りつめた。
――――――――――――― 次回予告――――――――――――
清が口にした「現実」とは、何だったのか。
理想と、現実。夢と、責任。清はさらに、自分の胸の内を語り始める。
――――――――――――――――――――――――――――――




