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青い霧  作者: 田中元一


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第2話 妊娠している彼女の正体

工場へ戻るなり、奥野は怒鳴った。「静江! 静江! 急いで風呂を沸かせ!」                その怒鳴り声で、二階の寝室で休んでいた斎藤は目を覚ました。

静江は急いで、女の濡れた髪を拭き、熱い茶を飲ませ、そして湯へ入れた。

その間に、斎藤は奥野から事情を聞く。

「今夜は静江とこの部屋で寝かせて、 明日、落ち着いてから話を聞こう」そう決まった。

翌朝。

女は、まだ眠っていた。

奥野夫婦と斎藤は、隣の部屋で朝食を囲みながら話していた。

そのとき、静江がぽつりと言った。「アンタ…… あの娘、妊娠してるよ」

箸が止まった。奥野も斎藤も、思わず顔を見合わせる。

「間違いないわ。 それなのに入水自殺なんて…… よっぽどの事情があったんだと思う。

 可哀想に……」

奥野も、低い声でつぶやいた。

「俺たちは子宝にも恵まれねえのになぁ…… 子供をはらんでるのに、 死のうなんてなぁ……」

昼過ぎ。

静江が、女から事情を聞き出した。

女の名は、早苗。年齢は、22歳。

そして静江は、言い添えるように言った。「……私の勘だけどね。 あの娘、日本人じゃないわ」

――そう。彼女は、朝鮮人だった。

川崎で暮らしていた男・菅野と同棲していたが、妊娠を伝えた途端、男は言った。

「子供はいらない。堕ろせ」

早苗が「産む」と答えると、男は吐き捨てるように言った。

「勝手にしろ」

それきり、男は3か月、戻って来なかった。

金も尽き、身寄りもなく、一人で育てる自信もなく――

彼女は、子を道連れにしようと、川へ向かってしまったのだ。

静江の声は、震えていた。



―――――――――――― 次回予告―――――――――

語られ始める、彼女の過去。

なぜ彼女は、妊娠した身で川へ向かったのか。

そこには、戦争が残したもう一つの「傷」があった。


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