■早苗との再会■ 第1話 真夜中、運命を分けた叫び声
初めて畑中順子母子と出会った年の、11月。
その真夜中に、斎藤にとって、その後の運命を分ける出来事が起きた。
奥野は職人一人を連れて、小型トラックで千葉の得意先へ製品を届けていた。
そのトラックは、斎藤の仲介で進駐軍から払い下げてもらったものだった。
納品先での歓待が長引き、帰路についたのは夜半過ぎ。
二子玉川の土手に差しかかった頃、職人が小用を足したいと言い、
トラックを停めて河原へ降りた。
その時だった。
「親方〜! 親方〜〜!」川面に響く、切羽詰まった叫び声。
奥野が駆け寄り、職人の指差す先に目をやると――月明かりの中、女が一人 、肩まで水に浸かり、さらに深みへ進もうとしていた。
「てめえ、何やってんだ! 早く助けろ!」
奥野が怒鳴ると、職人は震える声で叫んだ。
「すんません……俺、金槌で……」
奥野は泳ぎに自信があった。迷うことなく服を脱ぎ捨て、冷たい川へ飛び込んだ。
月に照らされた水面に、女の白い肩が浮かぶ。奥野は怒鳴りながら必死に泳ぎ、
もみ合った末に女の首を片手で抱え、片手泳ぎで岸へ戻った。
職人に女をおぶわせ、トラックへ戻る。
濡れた服を脱がせ、製品を包んでいた古毛布で、冷え切った体を包む。
奥野はその体を抱くように助手席へ座り、そのまま工場へと連れ帰った。
次回予告――――――――――――――
救い上げた命は、偶然ではなかった。
あの夜、斎藤と早苗を結びつけたのは、10年前、山奥で交わされた
「沈黙」と「約束」だった。




