第1話ー⑤GHQ占領下の日本と英語の力
GHQの占領政策の一つに、空爆で壊滅した都市の遺族たちの反感を和らげるため、
インフラ事業を優先的に進める方針があった。
……「ようやく安住の地を手に入れた」と感じられる出来事だった。
上下水道の復旧、戦後に蔓延しつつあった伝染病の予防。
それらは、最優先事項だった。
その余波で、奥野の鋳物工場にも、上下水道用配管の注文が次々と舞い込むようになっていた。
奥野は、斎藤を伴って役所に出向いた。
窓口で示されたのは、GHQから出された英語の指示書と仕様書だった。
斎藤はそれを読み込み、その内容に沿って、材料提供を申請する英文書類を作成した。
ほどなく役所から連絡が入り、鋳物材料の払い下げが正式に承認された。
工場は大喜びだった。
奥野夫婦、戻ってきた職人たち、新しく雇われた若者たち――皆が笑顔になった。
斎藤にとっても、それは、「ようやく安住の地を手に入れた」と感じられる出来事だった。
第2話―➀ 白いマフラー
一年は、あっという間に過ぎた。
斎藤が買ってきて植えた梅の木に花が咲き、昔懐かしい香りが、風に乗って工場の一角に漂い始めた頃
――斎藤は、そっと白いマフラーを取り出した。
戦友・畑中少尉の遺品だ。
白いマフラーに大切に包まれていたのは、畑中があの旅館で見せてくれた新妻・順子の写真だった。
写真を見つめるうちに、「順子を探し出し、このマフラーと写真を届けなければならない」
という思いが、日に日に募っていった。
4月。
斎藤は奥野夫婦に事情を打ち明け、こう頼んだ。
「工場の花見休みに、畑中の妻を探しに、神戸へ行かせてほしい」
奥野はしばらく考え、うなずいた。当面の材料は十分に確保されているし、経理も当座は立て込んでいない
「よし。1週間なら何とかなる。行ってこい」
こうして斎藤は、神戸の地を踏んだ。
街は焼け爛れていたが、山の手にはかろうじて戦前の面影が残っていた。
市庁舎、町村役場を一つひとつ回ったが、手がかりはなかった。
何度足を運んでも、成果は得られなかった。
そんなある日。静江が新聞を手に言った。「この“尋ね人欄”に載せてみたら?」
最初は神戸新聞。それでも連絡はなかった。




