第1話ー④奥野鋳物での再出発――戦後の混乱と、新しい居場所
斎藤は、銀行で任されていた仕事内容を、ひと通り説明したー為替業務、帳簿管理、そして英語での簡単なやり取り。
それを聞いた奥野は、身を乗り出し、真剣な眼差しで言った。
「和ちゃん、だったら俺の工場で働け!小さい工場だが、注文は増えてるんだ。
戦前は職人が5人いたが、3人は戦死した。
2人は戻ってきてくれてな。それに加えて、若い新人を4人雇った。
あいつらが一人前になれば、もっと仕事はさばけるようになる。
それに――」
奥野は少し言いよどみ、続けた。
「以前、オヤジの弟が経理や帳簿をやってくれてたんだが、そいつも空襲でやられた。
俺も静江も、経理はからっきしダメでな……ずっと困ってたところなんだ。
和ちゃんが手伝ってくれたら、本当に助かる」
横で聞いていた静江が、すかさず口を添えた。
「アンタ、それにね。英語ができるんなら、もっと助かるんでしょ!」
「そうだ、それだよ!」 奥野は、手を打った。
「注文は増えてるが、肝心の鋳物の材料が手に入らなくてな。
英語ができるんなら、進駐軍から材料を払い下げてもらえるかもしれん。
頼むよ、なぁ和ちゃん!」
戦後の職探しに不安を抱えていた斎藤にとって、これほどありがたい話はなかった。
「俺で役に立てるかどうか分からんが……よろしく頼む」斎藤は、深々と頭を下げた。
奥野は嬉しそうに振り返り、静江に声をかける。
「静江、物置になってる二階を片付けてくれ。
和ちゃんが寝起きできるようにしてやってくれ」
静江も、ぱっと顔を明るくして、嬉しそうにうなずいた。
こうして斎藤は、奥野鋳物で「住み込み」として働くことになった。
次回予告
「進駐軍と英語」生きるための仕事が、やがて
封じられた過去へと、斎藤を引き戻していく。




