第1話―② 奥野との再会 ―――生きていたという事実―――
奥野は、蒲田駅近くで小さな鋳物工場を営んでいた。
入口には、「奥野鋳物」と書かれた、かまぼこ板の表札。
声をかけると、次の瞬間、奥野が飛び出してきた。
「和夫……お前、生きていたのか!」 半ば涙声だった。
居間に通された斎藤は軍用カバンから、大切にしまっていた砂糖を取り出した。
静江は、心から喜んでくれた。
昼近く、3人で分け合ったうどん。それは、斎藤にとって、生涯忘れ得ぬ味となった。
それぞれの喪失
奥野は語った。斎藤の家族全員が、東京大空襲で死亡。
幼馴染の宇野清吉は、南方戦地へ向かう途中で乗っていた輸送船が台湾沖で撃沈され、
乗員1200名が全員死亡。
宇野の両親も妹も空襲で死亡し、宇野の家は一家全滅だった。
さらに、奥野の母……病死。父……空襲で焼死。
しかし奥野自身は、鋳物技術を買われ、航空機工場に徴用されていたため兵役を免れ、
生き延びたのだった。
一方で、3月の大空襲では、下町一帯がほぼ壊滅。
焼け出された人々の遺体が川へ殺到して逃げ場を失い、そのまま命を落とす者も多数だった。
この近くでは、360余名の遺体を小学校の校庭へ運び、運動場に穴を掘って仮埋葬。
運動場の新しい土は、そのためだった。
斎藤は昨日見た光景の意味を、ようやく理解した。
これほどの惨劇が、戦時中の日本各地で起きていたのだ。
戦争の終わりとは
戦争は終わった。だが――終わっただけで、何も清算されてはいない。
焼け野原の東京で、斎藤は、その現実を痛いほど思い知らされていた。
次回予告
沈黙か、告白か。斎藤和男が、ついに選ぶ「戦後」。




