第1話―④ 水底へ沈める津田の覚悟 第1話―⑤ 実現させる覚悟
第1話―④ 水底へ沈める津田の覚悟
西村は、札束を置いたまま、念を押すように言った。
「貴様は村長だが、県庁や県議連中には、まだ顔が知られていない。それが、最大の武器だ」
津田は黙って聞く。その言葉が、甘い誘いではないことを理解していた。
西村は続ける。「義弟の西村土木社長と組め。裏工作は、お前達2人でやるのだ」
“裏工作”――その響きに、津田の背中が冷える。
だが、目の前の札束は温かい。人を現実に引き戻す、重さがある。
第1話―⑤ 実現させる覚悟
県議トップ当選。ダム位置変更。そして――101部隊痕跡の永遠の水没。
すべてを同時に実現する覚悟を、この瞬間、津田は固めた。
鬼火谷の道路拡張で、軍の金を握り、村を動かし、村長の椅子を手に入れたあの日。
あのとき掴んだ糸が、今、さらに太い縄になって首に回ってくる。
津田は、静かにうなずいた。「……分かりました。“位置変更”の件。動きます」
西村は、表情ひとつ変えない。勝利の笑みも、安堵の息もない。
ただ、淡々と告げた。「よし。これで――沈む」
その言葉が、津田の耳の奥に、冷たい鉛のように残った。
沈むのは、101部隊の痕跡だけではない。自分の過去、村の記憶。そして、罪を知る者の沈黙。
すべてが、水底に押し込められていく。
次回予告
ダム計画は“公共事業”の顔をして進み、水没は“未来のため”と称賛される。
だがその裏で、西村はさらに深い保険を打つ。
「沈めても終わらない。万一に備えろ」――密約は、第二段階へ。




