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青い霧  作者: 田中元一


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第20話 秋山整備兵との再会 ――――療養所の異変――――

8月9日。

長崎市への原子爆弾投下のあと——斎藤が収容されていた療養所からも、医師や看護婦、          そして食事や洗濯を担当していた女学生の一部が、被爆者救護のため市内の救護所へ

と出向いていった。

その結果、療養所は深刻な人手不足に陥る。

動ける患者たちが、他の入院者の配膳や雑用を手伝うことになった。

1棟に収容されていた斎藤は、松葉杖を使えば歩行が可能な状態だった。

自ら進んで、配膳と雑役を申し出る。

その日。

2棟の配膳をしていたとき、斎藤は、思いがけない人物と再会する。

秋山整備兵との再会

3月1日。

大刀洗基地から畑中少尉と共に出発する前、崎山上等兵と行動を共にしていた、あの男。

秋山整備兵だった。

斎藤の姿を認めた瞬間、秋山は目を見開いた。「斎藤中尉殿…… 生きておられたのですね」

言葉を失ったように、秋山は続ける。

「自分は……崎山上等兵と共に、帰投予定時刻を一時間過ぎても基地に戻られず、            何の連絡もなかったので……お二人とも、事故で亡くなられたのだと……」

斎藤は静かに答えた。

「帰投途中でエンジンが止まり、そのまま海に突っ込んだ。

 畑中少尉は機と共に沈み、自分だけが、近くで漁をしていた漁師親子に助けられた。

 だから、こうして生きている」

斎藤は言葉を切り、秋山の様子を見た。「……君も、負傷しているようだな」

秋山は、ゆっくりとうなずいた。

大刀洗基地・空襲の記憶

秋山によれば、斎藤と畑中を見送った直後、「現隊には航空整備士は不要」との理由で、         101部隊から大刀洗基地へ転属となったという。

そして——3月27日。米軍B29、70機余りによる大刀洗基地への大規模空襲。

秋山は、その日のことを、まるで昨日の出来事のように語った。

午前10時頃、警戒警報――ラジオは「B29編隊、豊後水道を西進中」と伝えていた。

だが基地では、どこか他人事の空気が漂っていた。

「どうせ、どこかの町だろう。大刀洗には来きらん。飛行機があるけん」

しかし——

空襲警報のサイレンが鳴ったとき、すでにB29の大編隊は基地上空に達していた。

爆弾の風切り音。続く炸裂音。地鳴り。

格納庫、航空廠、兵舎、隊舎が次々と破壊され、炎上した。

駐機していた爆撃機46機が失われ、航空廠だけで死者125名。

基地関係者と周辺住民を含め、犠牲者は約1000人に及んだ。

秋山自身は整備工場で作業中、爆弾の破片を背中と腰に受けて負傷。

崩壊した工場から助け出され、手術後すぐこの療養所へ移された。

そのおかげで、3月31日の第二次大刀洗空襲には遭わずに済んだのだという。

「飴玉」と告白

斎藤は、1棟の配膳を務める傍ら、下級兵が収容されている2棟にも足繁く通い、秋山を含む兵士たちの世話を欠かさなかった。

その誠実な態度に、下級兵たちは次第に斎藤を慕うようになっていく。

秋山もまた、斎藤の姿に触れるたび、自らが背負った「罪」の重さに耐えきれなくなっていった。

ある日。斎藤が、「飴玉が手に入った」と、秋山にそっと1つ差し出したとき——

秋山は、堰を切ったように泣き崩れた。

そして、3月1日の斎藤抹殺計画の一部始終を、すべて打ち明けたのである。

共犯の命令

あの日。

秋山は崎山上等兵と共に、天野少尉に付き添われ、西村少佐の部屋へ呼び出された。

告げられた命令は、ただ一つ。「崎山と共に、斎藤中尉を抹殺せよ!」

方法は、すでに決まっていた。

その場で崎山には、こう突きつけられた。

朝鮮人の母親と関係を持っていたこと。その娘を犯そうとしたこと。現場を斎藤中尉に見られたこと。

だが今回の計画を実行すれば、一切を不問にする——と。

さらに西村は言った。

「斎藤中尉は、敵のスパイと親しくしている。非国民だ」

秋山は、その言葉を信じてしまった。

「自分が……燃料タンクに細工をしました……」声を震わせ、秋山は続ける。

「今でも……

畑中少尉が、あの時に笑顔で”それは良かった”とおっしゃった言葉が、忘れられません……」

帰投時刻を過ぎても戻らなかったことで、2人は計画どおり墜落死したと確信した。

秋山は基地司令を通じ、西村少佐に「成功」を報告した。

その後、崎山は言い放った。「共犯になったんだ。他言無用だぞ」

秋山は、自分に言い聞かせ続けた——上官命令だから、仕方がなかったのだと。

だが、罪の呵責は消えなかった。

一粒の飴玉をきっかけに、秋山は、ついに真実を斎藤に告白したのである。


―――――――――――― 次回予告―――――――――――――――――――

秋山の告白で、斎藤は確信する。自分は「事故で生き残った」のではない。

殺されかけて、生き残ったのだ。そして、もう一つの疑問が立ち上がる。

——西村少佐は、なぜそこまでして自分を消したのか。

——第101部隊の「本当の目的」とは何だったのか。

斎藤は“証拠”を求めて動き出す。

それは、戦後の闇の中で——誰かが必死に消そうとしている記録だった。


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