第2話―③ 西村土木と津田弘毅 ――「公共事業のドン」の誕生
熊本県庁の裏手。
駐車場の詰所に座る管理人・本庄は、横尾の問いに、少し考えるそぶりを見せたあと、
意外なほど淀みなく語り始めた。
「基礎工事をやったのは、西村土木だよ」
本庄の記憶では、下毛ダム工事は二段構えだった。
基礎工事:西村土木、本工事:竹村建設 (実作業は、西村土木と加瀬組が担当)
当時の西村土木は、ダンプが数台、あとは日雇い人足で回す、ごく小さな土木業者に過ぎなかった。
ところが――ダム工事が始まる直前から、西村土木は様相を変える。
人が増え、重機が増え、仕事が途切れなくなった。
そして、わずか2年後。同業他社を丸ごと買収 するまでに成長している。
「普通じゃない」本庄は、はっきりそう言い切った。
さらに不可解だったのは、工事費だった。当初予算の――ほぼ倍。
通常なら、問題にならないはずがない。だが、不足分は「なぜか」埋められた。
それを“まかなった”人物の名を、本庄は静かに口にした。「津田弘毅だよ」
津田弘毅。当時、県議になったばかりの男。その経歴は、あまりにも出来すぎていた。
元小作人。戦時中、軍に気に入られ村長へ。そして終戦後、異例のスピードで県議へ。
「どう考えても、出世が早すぎる」本庄は、そう断じた。
調べを進めるほど、2つの名前は、常に並んで現れた。津田弘毅と西村土木(のちの西村総業)
公共事業。用地買収。予算超過…そのたびに、この2者が、同じ場所にいた。
偶然ではない。単なる癒着でもないー長年にわたる、共犯関係。
横尾は、背中に冷たいものを感じながら、確信していた。
下毛ダムは、「農民のための公共事業」などではない。
――――――――― 次回予告――――――――
ダム湖で起きた“魚の大量死”。
そして、浮上する枯葉剤原料・埋設疑惑。
下毛ダムは、水を貯めるために造られたのか。
それとも――「何かを沈めるため」 だったのか。
闇は、さらに深く、湖の底へと続いていく。
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