第2話―② 県庁資料室と「焼失」の二文字
熊本県庁旧館。薄暗い資料室で、初老の職員・仲田が分厚い台帳をめくっていた。
背表紙には「昭和20〜30年度 県下土木事業」と記されている。
「下毛ダムは…… 確か昭和21年だったのう……」
横尾が、着工年と完成年を告げると、仲田は目次を何度も行き来し、やがて、眉をひそめた。
「……おかしいのう」仲田は、ページを戻し、もう一度確かめるように指を走らせた。
そして――ぽつりと、こう告げた。「……おかしいのう」一瞬の沈黙のあと、
仲田は紙面を指さした。
そこには、黄ばんだ紙の余白に、赤字で二文字が記されていた。「焼失」
横には、淡々と、こう補足されている。
昭和32年。古舘村役場失火により下毛ダム建設工事関連資料焼失
「偶然にしては、出来すぎている」横尾は、思わず息を呑んだ。
ダム建設の経緯。予定地変更の理由。用地買収の詳細。――それらすべてが、
「役場失火」 という一言で跡形もなく消えている。
偶然にしては、あまりにも出来すぎている。
横尾の背中を、汗とは別の、冷たいものが伝った。
だが――横尾は、ここで引き下がらなかった。
仲田が、資料を閉じながら言った一言が、新たな道を示す。
「工事を請け負った業者なら、 何か残しているかもしれん」
行政の記録が消えても、工事を担った側の記録まで完全に消すことはできない。
横尾の視線が、次の“入口”を捉えた瞬間だった。
―――――――――― 次回予告――――――――――
下毛ダム工事を請け負った企業名。
そこから浮かび上がる、「西村土木」そして――一人の県議の名。
闇は、組織から、個人へ。物語は、さらに核心へ近づいていく。
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