Episode31 人類を救う勇者
『――『Ring Karma』戦闘モード作動。ロックオン機能を開始します』
無機質な機械音声がエリサの耳――脳内に響いた。
一体どういう原理なのか。疑問に思う間に、前方の敵がぱっと散った。
四方に散った敵を思わず目で追いかけた先に、先ほどチェレスが説明してくれた円環がいつの間にか姿を変えていた。
コックピットの周囲を回っていたはずの白い輪っかはいくつかの矢じりのような形になって敵へと狙いを定める。
瞬間、エリサの視界――いや、脳内で標的が視認できた。鮮明に。
「チェレ――」
一体エリサの体に何が起こっているのか、エリサが問おうとした矢先にチェレスから返答が返ってきた。
「今、君は俺と感覚を共有している。この機体は俺の体みたいなものだから、俺が見えている――認知できているものは全てエリサにも共有される仕組みになっている」
元々は人間が及ばない認知や機能を機械で補い、機械が補えない勘や直感といった不確実性要素を人間が補うという機械兵器、らしい。
エリサの脳にチェレスの声ともいえる情報が瞬時に浮かび、エリサは目を瞬かせた。
その間に、戦況が動く。
矢じりへと変形した円環が敵機の一機へと素早く飛んでいく。
否、チェレスの意思で飛ばした。
同時にエリサが乗る機体は矢じりとは反対方向へと旋回。もう一機へと。
「――これが一番やりやすい」
脳内にチェレスの意思が響く。
左手にはいつの間にか機体に合った長剣。
近接攻撃を仕掛けつつ、右手で矢じりを操る。
それが、彼の戦い方だと知った。
エリサの頭では追いつかない。けれど、データである――機械であるチェレスだからこそできる戦闘方法だった。
矢じりが敵機を追う。
1、2、3、と敵機は矢じりを避け、くるりと身を翻す。
攻撃が当たらない。焦るエリサとは対照的にチェレスは落ち着いていた。
「大丈夫、これでいい」
一体何が、と問う前にガツンッ、と衝撃が走る。
思わず視線を前に戻すと、もう一機が目の前に。
「――ッ」
思わず息が詰まった。
振るった剣を、敵機もまた腕の装甲で防いでいた。
ビリビリとした感覚がエリサの腕にも伝わる。これが感覚共有……!
「――エリサ。しばらくは掴まっていて」
チェレスの指示に従い、手元にあるひじ掛けのような場所を掴む。
次の瞬間には機体は敵機を蹴り、くるりと宙を舞う。
視界の裏で敵機が腕の銃器を起動する様がまざまざと見えた。
背後から打たれる、間に合わない。そう思ったのはエリサだけだった。
チェレスが右手を繰る。
矢じりとなって飛ばした輪っかの余りから、偏光する盾を張る。
ほぼ同時に光弾が放たれる。それを盾で防いでいく。
一方複数の矢じりに追われる敵機は間一髪で避けていたものの、あるひとつの矢じりを避けた際に二対の矢じりの挟撃にあう。
追い込まれた敵機は矢じりをかわそうとして、脚部を損傷。
態勢を立て直そうとした矢先に反転した矢じりに胸部を貫かれる。
機体の最重要機関ともいえる箇所を損傷した敵機はエネルギー循環の機能を失い、高負荷に耐えられず爆散する。
同時進行で進む戦況に、視界がバチバチする。
それなのに目を閉じても動向が分かるのは感覚を共有しているから。
ひじ掛けを掴む手に力がこもる。
エリサはぐっと奥歯を噛み締め、顔を上げて敵を睨んだ。
くるりと身を翻したエリサの機体は手にしていた剣を敵機へと投げ飛ばす。
けれども大ぶりな攻撃はいとも容易く避けられる。
これも誘導だと、エリサは直感で理解した。
機体の各部位にある加速機を使い、敵の弾幕を華麗にかわしていく。
弾幕は目の前の敵機だけでなく、上空に待機していた敵機からも飛んでくる。
その軌道すら予測して、目の前の一機へと距離を詰める。
右手を操り、いくつかの小さな輪を作る。
至近距離からの光線攻撃。それも、投げ飛ばした剣すらも同じ輪を敵機へと。
交差する青い閃光。刹那、エリサの機体は高速で上空へと舞い上がる。
『――敵残数3、高エネルギー反応感知』
機械音声が状況を知らせる。
視線を動かすまでもない。後ろで敵機2機が照準をこちらへ定めている。
上空から放たれる弾幕は変わらず。
機体は速度を緩めることなく上空から攻撃してくる敵機へと迫った。
追われれば逃げる。どうやらそれは機械とて同じなようだ。
敵機は引きながら光弾を打ち放っていく。こちらもまた、輪っかを変形させて光弾を敵機へと打ち放つ。
こちらも向こうも綺麗に光弾をよけていく。
エリサが眉間に皺を寄せた時、ハッとした。
残りの2機が光を放つ。
いや、あれは、高火力な――
「――悪いが利用させてもらう」
チェレスは追っている敵機の方へ盾を張り、光弾を防ぎつつ剣を作り出す。
同時に敵機2機から放たれた高威力のレーザー光を、剣が弾いて縦に割る。
その先に、追っていた敵機が。
高速展開された剣の動向に敵機はついていけず、弾かれたレーザー光によってその身を散らせた。
残るはあの2機。
遠目なのにはっきりと敵機を認識できる。機体の望遠機能がエリサにも影響していた。
敵機は先ほど放ったレーザー光の装置を捨て、二段目の武具を展開する。
遠距離型のようだ。
一方が弾幕用の銃を左腕に展開し、こちらへと光弾を飛ばす。
その間にもう一機が別の武器を準備し、こちらから距離を取る。
「誘導して一撃技で仕留めるみたい。……無駄なのにね」
「え……?」
チェレスの言葉にエリサは目を瞬かせた。
つまり、高威力の攻撃がもう一撃来る、ということ。
それなのに、ふ、と余裕そうに鼻で笑うチェレスにエリサは驚いた。
「……こちらに勝率が1%でもある限り、向こうに勝ち目なんてないのにね、って話」
「それってどういう……」
言葉を言い切る前に、機体が加速した。
見れば前方で分かたれる2つの敵機。
「向こうがその気なら、こちらもそれに応えよう」
エリサが乗った機体は一定の距離まで詰めると、光弾を避けつつ2機に狙いをつける。
射程圏内に入った。『Ring Karma』を剣から別のなにかへと変形させる。
それはリング状の、高速回転する刃のような……。
エリサが疑問に思う隙も与えず、その刃は変則的に敵2機へと空を切る。
刹那、死角から閃光。
光弾を放っていた敵機と分かたれていたもう一方の敵機が光線を放つ。
それを、空へと身を翻してかわす。
間一髪、ふわりと浮き上がった機体の端、視界の隅で刃が一機を捕らえる。
もう一機は刃から逃げつつも、その速度に敵わず捕らわれる。
僅差で刃に捕らわれた2機が身じろぎ、同時にチェレスが右手を振る。
瞬間、刃が収斂し――弾けた。
白い光とともに刃が縮み、敵機2機が同時に粉々に砕け散る。
一体どういう攻撃なのか。理解する間もなく機械音声が戦闘終了を告げる。
『――標的消失。戦闘モードを解除します』
終わった……?
理解する暇もなく、エリサはいつの間にか詰まっていた息を吐いた。
エリサはただ見ていただけ。それだけなのに、なぜだかどっと疲れた。
目の前の敵が居なくなりどこかホッとするエリサの耳に、チェレスのものではない、無機質な機械音声とはかけ離れている声が響いた。
『――貴様のその機体――防衛部隊を退けるとは、さすが『EXCEEDER』と言ったところか……』




