第8話 影と光、SNSに試される勇者
深夜零時。
客足が途絶えたコンビニで、美咲がタブレットを広げた。
画面いっぱいに、昨夜の戦闘映像が拡散されている。
#深夜勇者
「これ本物じゃね?」
「影の巨人見たんだけど!?」
「特撮スタッフ乙」
「再生数、もう百万超えてる……」
美咲の声は震えていた。
佐久間さんはため息をつき、コーヒー缶を一気にあおった。
「バズるのはいいが、勇者業ってのは宣伝向きじゃねえな」
俺は胸ポケットを押さえた。
魔王の角の破片が、熱く、苦しげに脈打っている。
「……影法師は、人の“注目”を力にする。
動画が拡散すればするほど、奴らの居場所も広がっていく」
「まさかSNSで影が強くなるの?」
美咲が目を見開いた。
「そうだ。異世界では“噂”が魔物を生み出すこともあった。
この世界では、リツイートや再生数がその役割を果たしているのかもしれない」
そのとき、外から悲鳴が響いた。
「やめろ! スマホが勝手に……!」
飛び出すと、街角に数人の若者が立ち尽くしていた。
彼らのスマホ画面に“深夜勇者”の動画が勝手に再生され、目が虚ろに染まっていく。
影が画面から滲み出し、彼らの足を絡め取った。
「……影法師がネットを使い始めた!?」
俺は札を取り出し、全力で投げ放つ。
白い光が画面を覆い、若者たちの瞳が揺らいだ。
「どうぞ――」
「ありがとう……」
呟きと共に、彼らは意識を取り戻した。
だがすぐに別の場所から新たな悲鳴が響く。
街の至るところで、スマホを媒介に影が人々を操り始めていた。
佐久間さんが懐中電灯を握りしめ、低く唸った。
「チッ、現代の戦場ってやつは面倒だな……」
美咲は顔を上げ、決意の色を宿した瞳で言った。
「悠真。私がSNSを“逆利用”する。勇者の正しい姿を広めれば、影の噂を上書きできるはず!」
「危険だ。影が逆にお前を狙う」
「それでも、黙って見てるよりマシでしょ」
勇者バイトチームは、今度は“街”ではなく“ネット”を戦場にしなければならなかった。
俺は札の束を握りしめ、強く頷いた。
「よし――SNSの拡散合戦だ。
影の噂か、俺たちの“どうぞ”か。どちらが街を動かすか、勝負だ」
胸ポケットの破片が熱く震え、まるで応えるように赤黒く光った。
(※次回:第9話「ネットの影、拡散の罠」へ続く)




