第9話 ネットの影、拡散の罠
深夜一時。
美咲は控室でノートPCを広げ、必死にキーボードを叩いていた。
「“深夜勇者は人を救った”ってタグで拡散してる。みんなが『ありがとう』って書き込めば、影の噂を上書きできるはず!」
画面には、次々とコメントが流れていく。
「昨日助けてもらった。ありがとう!」
「コンビニの前で勇者見た!」
「本当に人を救ってた」
数分もしないうちに、タグはトレンドに乗った。
だが、異変はすぐに訪れた。
新しい投稿が混ざり始めたのだ。
「ありがとう……ありがとう……」
「どうぞ……どうぞ……」
不自然に同じ言葉を繰り返すアカウント。
数百、数千。ボットのように増殖していく。
「……影が、SNSの中に入り込んでる!」
美咲の顔色が青ざめた。
画面のコメント欄が黒い靄に覆われ、赤い文字でこう浮かび上がった。
“勇者を見よ。仮面を外せ”
胸ポケットの破片が熱を放ち、脈打った。
「……俺の正体を晒そうとしているのか」
佐久間さんが顔をしかめ、机を叩いた。
「ネット越しに魔族が人を操るだと!? ふざけんな!」
俺は目を閉じ、【真偽看破】を発動した。
美咲の画面越しに、黒い糸のような情報の鎖が見えた。
――投稿の“迷い”に影が絡みつき、言葉を操っている。
「影法師は……人の“発信”に寄生してる。
『どうぞ』『ありがとう』を無限に繰り返させて、真実をかき消そうとしてるんだ」
そのとき、外から複数の足音が聞こえた。
自動ドアが開き、数人の若者が虚ろな目で入ってくる。
手にはスマホ。画面には同じ言葉が並んでいた。
「どうぞ……どうぞ……」
影が床に滴り落ち、黒い鎖が広がっていく。
「来たぞ!」
佐久間さんが懐中電灯を構える。
「悠真!」
美咲が必死に叫ぶ。
「このままだと、ネットも街も同時に呑まれる!」
俺は札を握り、声を張り上げた。
「どうぞ、止まれ!」
札が光り、若者たちの足元の鎖が切れる。
だが切れた瞬間、別の影がネットの画面から溢れ出した。
スマホ画面に映った俺の姿が、歪んだ仮面をつけた“偽の勇者”へと変わっていた。
「これが……拡散の罠か」
偽物の勇者が画面越しに笑い、囁く。
「勇者は仮面を被っている。真実を見よ――」
美咲が震える声で言った。
「このままだと、ネットの中に“偽の勇者像”が作られて広まっちゃう……!」
俺は奥歯を噛みしめ、札を強く握りしめた。
――本物と偽物。
影は情報を歪め、俺の存在そのものを利用しようとしている。
都市伝説はもう止められない。
だが、ならば――俺が自分の手で“正しい物語”を広めるしかない。
「戦場はもう、画面の向こうだ。
勇者バイトチームで――影の情報戦に挑む!」
(※次回:第10話「偽勇者VS本物、拡散戦争」へ続く)




