勇者11
「魔力なして手合わせしよう」笑顔のアオが突然言い出した。
基本、魔力に頼って生きているカナタにとってソレがなくなるのは五感をふさがれるようなものだ。
すぐに断ろうとしたが……。
「魔力封じにもあったらどうする?」
「……」
そんな事が出来るなんて聞いた事はないが、絶対にないと言えないため彼の提案を受け入れた。
カナタは深呼吸をしてから魔力探知を解除した。その瞬間、目の前いるアオが認識できなくなった。見えているのに存在を認められない。
アオだけではなく、勇者村の内部や村全体の人々を認識できなくなり世界に自分一人でいるような感覚に陥った。
カナタは戸惑ったが楽しくなってきた。
「僕も剣使わないからさ」
アオはそう言うと、剣を切り株の上に置いた。彼はカナタを見ると地面を蹴り走ってきた。その速さに追いつけずに脇腹に蹴りを食らった。
手合わせはこれが始めてではないが、彼の動きについていけないのは始めてであった。次の攻撃を読むことができず腹、顔と拳や蹴りをもろく食らった。
「あはは」アオはいつになく楽しそうであった。「魔力なしだと、お前も凡人だな」
彼の言葉にカナタは腹が立った。
魔力探知が使えない以上、アオの魔力を見て攻撃を避けることができない。
――魔力以外で動きを見るには……。
カナタはアオの攻撃を受けながら、彼の身体の動きに集中した。すると、筋肉の動きや血液の流れが見えてきた。その動きによりアオの存在がカナタの中でハッキリと感じられて次にくる攻撃が段々と予想ついてきた。
「よし」
アオの足を掴むことに成功した。彼が驚いて動きを止めているうちに足を自分に引き寄せると、彼の背中に蹴りを入れた。
「うぅ」鈍い声を上げた。
更に数発蹴りを入れたところで、手からアオの足が抜けた。
「短期間ですごいね」アオは座り込むと首や手を動かした。「疲れた」
そう言って、アオは地面に仰向けになって転がった。カナタも彼の横に転がった。
アオの攻撃で全身が痛かったが、魔力探知を展開したため周期の状況が明確になり精神的に安定した。しばらくすると、身体全体が温かくなり痛みがひいてきた。
――治癒効果もあるんだったなぁ。
物理攻撃を普段ほとんど受けないため、自動的に魔力治癒することを忘れていた。
しばらく何も言わずに、空を見上げていると額の上に黒いモノが上ってきた。
「え……」と驚いていると、それはカナタの顔の上をふらふらと歩いていた。
「あ、おい」
アオは声をあげると、カナタの顔の上にいた黒いモノを両手でそっと抱き上げた。
「おい、それ」
カナタがアオの方に顔を向けると、彼は座り肩に黒いモノを乗せた。カナタは起き上がり黒いモノを指さした。
「カナタに貰った魔力人形だよ」アオが優しい顔をしてそれを見ているのを見ると複雑だった。
カナタは魔力人形をアオから奪いソレの腹部を握りしめた。するとソレは手足をばたつかせた。
それが面白くて更に強く握ると……。
「わぁ」鋭い牙を出してソレが噛み付いた。
振り落そうと手を振ったが牙が食い込み離れない。次第に、血が出てきて痛みが強くなった。
「こいつ」引っ張っても叩いても離さない。段々、力が抜けていくのを感じた。「なんだこれ」
魔力探知を解いてないはずなのに周囲の状況が分からなくなった。
「クソ」カナタは噛まれていない方の手で、魔力の塊を作ろうとした。しかし、魔力が集まらない。
「はぁ?なんで?」
魔力が集まらないのではなく、身体から魔力がなくなっていた。
「おいで」と優しい笑顔でアオは魔力人形を呼んだ。それは、すぐに手から口を離すと嬉しそうに尻を振ってアオの元へ戻った。彼は、魔力人形を撫ぜると手の上に乗せた。
「カナタ、お前さ」アオは魔力人形を肩に乗せるとニヤリと笑いながらカナタを見た。「魔力ないでしょ」
「……なんで」
「アハハ」焦るカナタをアオは楽しそうに笑いながら見た。「こいつ魔力食べるんだよ」
「はぁ?」
「お前の魔力なのに、別個体みたいだね」
笑顔でアオは構えた。
嫌な予感しかしなかった。
「さっきコイツに僕の魔力もあげたんだ」
「これで、本当に対等だね」アオは嬉しそうに軽くジャンプした。「僕らは魔力差があるから実力差がよくわからないじゃん。ソレ知りたいだよね」
「なるほど」
カナタは面白いと思った。
「常に魔力で自動的に身体能力を上げている勇者様の実力ねぇ」
「アハハ、魔力で自動的に身体能力を上げているのはお互い様でしょ。僕と違って意識的に魔力を使える分なくなるとヤバいじゃない?」
「どうかな」
カナタは頷くと、構えるアオはじっとみた。いつものシゴキではなく純粋な戦いにカナタは心を躍らせた。
ニヤリと笑ったアオは、地面を蹴るとカナタに突っ込んできた。右足が左の脇を狙ってきたが、左腕で難なく防いだ。
普段のアオよりも速度は遅く、蹴りの重さがないがそれはカナタも同じであった。彼の動きを目で追えるが身体がついていかない。
――さっき手合わせで魔力を控えたがやっぱり自動で使ってなのか。
防いだ腕からは強い痛みを感じた。しかし、それに臆することなくカナタはアオに腹を殴りつけた。アオが蹴った足を地面に降ろす前に殴ったため彼はふらつきながらカナタから距離をとった。
すぐにカナタに近づくと頬を殴りつけた。カナタはよろけながら、アオの足を蹴り飛ばした。
もはやただの喧嘩であったが、カナタは楽しくて仕方なかった。アオも同様にようでいい顔をしている。
それは数時間続き、お互いが体力切れで倒れたところで終了した。
「結局、勝負つかなかったな」
カナタの突然のぼやきに、ユキノは目を大きくした。
「続けよう」そう言った瞬間、魔力が減っていく感じがした。
アオは目を細めて、自分の左手を見た。すると、左手はカナタの意思とは無関係に自由に動きまわっている。
「ねぇ、その左手はあんたの言うこと聞かないん?」
ユキノはカナタに攻撃しながら聞いた。カナタは彼女の攻撃を軽くかわしながら頷いた。
「コレなぁ」
ピースの形を作りなめた態度をとる自身の左手を見てカナタはため息をつた。
「俺の魔力で作ってんだけど別個体なんだ」
カナタは身体が重くなるのを感じて、ユキノの攻撃に集中した。かろうじて魔力感知が出来ているが、自動で行われている身体能力強化はなくなっていた。
これはカナタの意思とは関係なく発動されている効果であるため制御は不可能だ。魔力が減れば消える。
――意識して自分に能力強化魔法は掛けられねぇんだよなぁ。
「アレ?速度遅くなってんね?」
楽しそうなユキノの声にカナタは目を細めた。
「左腕が魔力吸ってんだよ。でもまぁ」カナタはニヤリと笑った。「それくらいのハンデねぇ面白くねぇしな」
「あーねぇ」
ユキノは頷くと、攻撃の速度を上げた。今までもかなり速く動いていたのに更に速度を上げた事にカナタは驚いた。
「流石、赤の勇者仕込みだな」
魔力が完全になくなり、魔力探知もできなくなるとカナタは額から汗を流した。
ユキノの攻撃を避ける余裕がなくなり、全て腕で防いだ。腕に痛みがあったがカナタは気にせずに攻防を続けた。彼女とは体格差と力の差があるため何とかなっている。
――ヤバいな。
そろそろ終わりにしたくて、彼女向かい足を飛ばした。足は彼女の脇腹にあたり、鈍い声を上げて倒れたがすぐに立ち上がった。それから即座にユキノが殴りつけてきたが手を盾にして防いだ。
魔力が使えないため身体速度が遅くなり彼女の魔力の流れが読めない。しかし、筋肉の動きから彼女の行動を先読みできるため攻撃を防ぐことは造作もない。
――分かっても身体がついていかねぇから避けられないけどな。
彼女の攻撃を防ぎながらかなり数打ち込んだが、立ち上がる彼女を見てカナタは目を細めた。
「しつけぇ」
ユキノは額を流れる血を腕で拭くと、構えた。
「諦めるなっていったんカナタじゃん」
「そーだけど」
カナタは後方に飛びやる気満々の彼女から少し距離をおいた。小さいゆっくりと息を吐くと地面を蹴り、勢いをつけるとユキノの腹に拳を埋め込んだ。
「うぅ……」
鈍い声を上げて、ユキノはその場に倒れ込んだ。それを確認するとカナタは彼女に横に膝を立てて座ると後ろにあった木に寄り掛かった。
「お前、一般人だよなぁ」とカナタはユキノに向かって言ったが彼女からは返事はない。
意識を失っているユキノを見てカナタは頭をかいて左手を睨みつけた。しかし、ソレはビクリとも動かない。
「あっ」
ユキノが魔力の塊を食べて回復したことを思い出して、カナタは魔力の塊を出そうとしたが何もでない。
「あー、ねぇもんはだせねぇよな。結局自分に使えねぇじゃん」
カナタは大きなため息をついて、空を見上げた。木々の隙間から青空が見えた。
その時、周囲から魔物の声が聞こえた。
「マジか……」魔力探知の使用ができないため、魔物の位置把握ができない。「今、めちゃくちゃ疲れてんだけど」
チラリと横を見るとユキノは規則正しい寝息を立てて起きる気配がない。
「魔力も空だしよ。ピンチじゃねぇか」
周囲の草むらの動きから、オオカミくらいの大きさの魔物が数体いることが推測できた。
「チィ」舌打ちをして、立ち上がるとカナタは左手を見た。「お前のせいで魔力ねぇんだけど」
大きく左手を振ると、ソレはピクリと動いた。
「お前、アイツらの魔力吸えねぇの?」
カナタは左手を顔の前に持ってきて睨みつけると、ソレは手のひらを上にして『わかりません』と言うようなポーズを作った。
「あぁ?」
ダイに勇者のパートナーとして『感情的になるな』と言われていたが左手には腹が立った。右手で左手を掴むと、ソレにユキノを見せた。
「ここままじゃユキノもやられんぞ」
すると、左手は大きく頷くように動き魔物を指さした。
「はぁ?」ソレの態度の変わりようにカナタは眉を寄せた。「お前、姉貴のためなら働くのかよ」
カナタは横で眠るユキノをじっとみた。真っ黒な髪はカナタよりも少し長いが短髪の部類だ。顔はカナタに似ており瞳の色も同じ顔だ。胸は大きい方かもしれない。それがなければ男に見える。
「俺と同じようなもんじゃねぇか」カナタは左手を睨んだ。「なら俺の言うこと聞けよ」
左手はカナタの言葉を否定するように、左右に動いた。
「チィ」舌打ちをするとカナタは周囲を見た。「まぁいい。ここは手伝えよ」
左手を離すと手は何度か手を開いて握りしめた。それをやる気とカナタはとらえると魔物の気配を探った。
魔力は追えなくても、これかけ近ければなんとなくわかる。
小さく息を吐くと、草むらに飛び込んだ。すると、すぐにオオカミの形をした魔物が飛び掛かってきた。ソレに左手をつけると、真っ黒であった魔物が茶色くなり赤かった瞳は黒くなった。
「くぅーん」と魔物か悲しげな声を上げるとトボトボと草むらの奥に行ってしまった。
「なんだ?」
カナタは眉を寄せながら、周囲にいた魔物全てに触れた。すると、どれも同じよう茶色い毛並みに黒い瞳になると悲しげな鳴き声を上げて去って行った。
しばらくすると身体に魔力が戻ってくる感覚があったが、違和感があった。自身の魔力とは違う気がした。
「魔物の魔力が俺の中に入ったのか」
不思議に思いながら、自分自身を見て顔を歪めた。手足が真っ黒になっている。
「マジかぁ」カナタは左手を見た。「お前だけ俺の肌の色のままじゃねぇか」
カナタは服の中をのぞき、手足だけではなく左手以外全身が黒くなっていることを知り、肩を落とした。
「見えねぇけど、顔もか?」
自身の顔に触れながら、ユキノも元へ戻った。彼女は同じ場所で眠っていた。
――こんなん見たら驚くか。
カナタはユキノの隣に座り木に寄り掛かると手足を見た。すると、それはまだら模様になっておりまるで何の病気を患ったような気持ち悪さであった。更に時間が経つと全身にあった黒い模様が消えてそれと同時にカナタ自身の魔力が回復していた。
「俺の魔力が魔物の魔力を打ち消したのか?」
ユキノが気付く頃には太陽がいなくなっていた。
「あ……、寝すぎた」
ユキノが申し訳なさそうに言うと、気絶させた張本人であるカナタは首を振った。
今思えば、口で『終わり』を告げればよかったのだ。一般人であるユキノの強さにムキになった自分を恥じた。
「暗いから今日はここで一泊」
「……うん」




