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勇者12

朝日の光でミサキは目を覚ました。身体を伸ばし黒いローブを羽織るとベッドにしていた木から降りるとアカはすでに目を覚ましていた。

「おはようございます。アカ様」

逆さまになっていたアカは返事をしながら、飛び上がり地足をつけた。

「ここから動かずに、我の位置を確認し常に回復魔法をかけておれ」

毎朝同じ指令が出されるのでミサキは驚くことなく「はい」と返事をした。

回復魔法はユキノの件があってからかなり上達した。

ミサキはアカの見えなくなると魔力探知で彼女の居場所を確定した。両手を広げて黒い魔力の塊をだすと彼女のいる位置まで飛ばした。

回復魔法を連続でかけ続けることで、常にアカは回復し無敵状態になる。

長時間、回復し続けるのはかなりきつく、魔力探知もアカを探すことしかできなくなる。最初は周囲の様子が分からなくなり不安であったがアカがアリ一匹ミサキに近づけなかったので今は不安をない。

回復魔法開始から数十分経つと立っているのが辛くなりその場に座り込んだが魔法の精度は落とさなかった。

「はぁ、ふぅ」

一時間を超えると魔力探知が途切れ途切れになり、アカの場所が曖昧になった。

――マズい。

回復魔法を止めて、魔力探知を行い、顔を青くした。

「あ……」

アカはミサキから数メートルの所にいた。彼女は担いできたオオカミの魔物を地面に投げ捨てるとミサキに背を向けた。

「え……まさか」

ミサキはアカの他に大きな魔力を感じていた。それがアカの前に現れた。

アカの数十倍ある蛇の魔物だ。長い舌をシュルシュルと出して、アカを狙っていた。

「ミサキ魔法」

大きな声で叫ばれ、ミサキは両手をアカに向けて回復魔法を発動しようとしたが魔力の塊が手から出てこなかった。

少し悩んでから魔力探知を解除して再度手に力を込めると魔力の塊が出てきた。ミサキはほっとしてそれをアカに投げた。

「よし」

アカはつぶやくと、拳をにぎり飛び上がると魔物の頭部に乗り、何十発と連続で殴った。魔物は頭部を殴られ、ふらふらに揺れ始めた。

アカは腕を後ろに引き力を込めると、全力で魔物の頭部を殴りつけた。その衝撃で、魔物は地面に顔をつけた。アカは首を左右にふりながら魔物から降りてきた。

そのカッコよさにミサキは目を輝かせた。

その時……。

「わぁ……」

背後でうなり声が聞こえたと思うと、オオカミ型の魔物が飛び出していきた。逃げようとしたが立ち上がれず、恐怖で目を閉じた。

一向に噛まれる痛みがないためミサキは恐る恐る目を開けた。すると、目の前にアカがおり彼女の手に魔物が噛みついていた。

ミサキは青ざめて、回復魔法を掛けようとしたが手に力が入らなかった。

「戯け」アカは鼻で笑った。「これくらい平気だ」

そう言うと、腕に噛みついていた魔物を殴りつけた。その勢いで、魔物の頭部が破壊されて血が噴き出た。頭がなくなった魔物はどさりと地面に落ちた。

「カ、アカ様」

真っ赤に染まったアカはニヤリと笑ってミサキを見た。

「申し訳ございません」ミサキはアカの傷を治そうと、手を広げたが魔力の塊は出てこなかった。「そ、そんな」

泣きそうになっているミサキにアカは「平気だ」と言って歩み始めた。ミサキは彼女の心配をしながらも後を追った。

街に着くと、勇者であるため歓迎された。

「赤の勇者様ようこそおいでくださいました」村長だと名乗った男が頭を下げて現れた。「その血は魔物でしょうか?すぐに宿屋を用意致します」

そう言って、案内されたのは街で一番いい宿屋の最古級の部屋であった。

アカは街中の宿屋の空いている部屋を全て予約した。勿論泊まるわけではないため宿屋は他の客を泊めて二重に金をとっていた。

不思議な制度だとミサキは感じた。

宿屋に着くとすぐにアカにもとへ行ったが身なりを整えろと言われたため自室の洗浄室を使い着替えた。

血がべっとりとついていた黒いローブも洗浄室にいれたらすぐに綺麗になったが、アカの部屋へ行くだけであるため部屋に置いていった。

「ミサキ、ローブはどうした」アカの顔を見た途端に注意された。「アレは、就寝以外は外すな」

ミサキは慌てて部屋に戻ると黒いローブを羽織り、アカの元へ戻った。

アカの腕には包帯が巻かれて、血が滲み出ていた。

「アカ様、申し訳ございません。手当てをします」

ミサキは両手を広げると、アカに傷にかざした。すると魔力が回復していたためすぐに魔力の塊がでてアカの傷口に入っていった。

「失礼いたします」ミサキは、アカの包帯をそっと外した。そこには傷がなく以前通りの綺麗な手でミサキは安心した。

その時、部屋の扉を叩く音がした。返事をすると店主が現れて何やら話始めた。アカは口角を上げて頷いて聞いていた。

長い話が終わると店主は大量の馳走を給仕に並べさせると頭を下げて去って行った。テーブルの上の美味しそうな料理を見るとミサキの腹は音をたてた。

アカはクスリと笑うと「一緒に食べようか」と食事を進めた。ミサキは礼を言うと大量に食べたはずであったが、まだ料理は残っていた。

「もういいのか?」と言うアカにミサキは頷くと、残りを全て彼女は完食した。

食べ終わり少し経つと、宿屋の人間が現れて全てを片付けていった。

部屋にアカとミサキにだけになると「もう休め」と言われた。

太陽が沈みかけていたが就寝の時間には早いような気がした。それを伝えると「休める時に休め」と言われ自室に戻った。

ベッドに横になると今日の事を思い出した。すると、悔しさが込み上げてきた。

全てはミサキの実力不足が招いた結果だ。それなのにアカはミサキを責めることはなかった。

アカの年齢を聞いたことはないが、ミサキよりも遥に幼い。そんな彼女の負担になり負い目を感じた。

「寝ている場合じゃないわ」ミサキは頷くと、魔力探知を展開した。「これは常に展開しているべきだよね。その上で回復魔法を使えないと……」

ミサキはアカの場所を確認すると、森の時のように魔力探知の範囲を狭めなかった。アカに魔力感知を固定しないと動いている彼女に回復魔法をかけるのは困難であった。固定すると周囲に状況がわからなくなる。

ミサキは魔力探知の範囲を街全体に設定して、魔力の塊を出しアカに投げた。投げ続けると辛くなってきた。

そこで、一度魔力の塊を出すのをやめた。

――続けた結果、魔力切れになった。

ミサキは額に手を考え込んだ。手のひらに魔力の塊を出すとそれをじっと見て考え込んだ。

「投げると消費すんのよね」

うなりながら考えること一時間。ミサキは投げずに魔力をアカの中に固定する方法を考えていた。

その時、隣の部屋にいるアカに動きがあった。

「え……」目を大きくて、顔を青くした。

――アカ様が消えた。

アカは瞬歩を使いミサキの魔力探知の範囲から出た。魔力探知の範囲は街に全体に設定しているためミサキは焦った。

少し前に、青の勇者に捨てられたパートナーの姿を思い出した。

――そんな……。

今日の失態を考えれば、捨てられるのは当然であった。

回復しか能がないのに、怪我をしたアカを即座に回復する事ができなかった。そもそも、魔力探知を解除せざる状況になり魔物に気づかなかった事がアカの怪我原因だ。

ミサキは自己嫌悪に陥った。

――捨てられたの……?

信じられなくて、ゆっくりと立ち上がると部屋を出て、アカの部屋の前に立ち小さくため息をついた。

青の勇者のパートナーの辛さを理解出来た。彼は罵倒されても勇者を追ったが、ミサキは戸惑いがあった。追って、否定されたら生きては行けない。

ミサキの人生は全て勇者と共に魔王討伐に行くであった。それ以外の事を考えた事はない。

――部屋に入り荷物がなかったら……。

何度もため息をついて何度も扉のノブを触ろうとして手を引いた。

どのくらいの時間そこにいたが分からないが、窓の外は真っ暗になり星が輝いていた。

「何をしておる」

突然、背後から声を掛けられ振り向くとアカがいた。驚きの余り、心臓が口から飛び出るかと思った。

――あれ?

 ミサキは魔力探知を展開していたはずであるのにアカが近づいたことに気づくことが出来なかった。今も彼女の魔力をとらえることができない。

――なんで?

 街に人間の魔力は感じるのにアカだけは分からなかった。

彼女の顔を見て不安でいっぱいになり言葉がでなかった。

「ミサキ」少し強めの声でアカに名前を呼ばれた。

「……はい」

返事をするのが精一杯だった。アカに手を引かれ彼女の部屋に入った。

部屋の中は昼間に入った時と変わり映えはなかった。ミサキは入口に立ち止まると下を向いた。

「あの、申し訳ございません」膝に額がつくほど、深く頭を下げた。「わ、私これから努力しますから……」

「うん?」

アカはソファに腰掛けると首を傾げ、ミサキに向かって手招きをした。ミサキは小さく返事をすると、アカの足元に膝づいた。すると顎に触れられ顔をあげられた。

「アカ様」

 ミサキは赤の腕からの出血を見て驚きさっきませあった不安が吹き飛んだ。

「血が……」

「あぁ」アカは自分の腕を見て頷いた。「平気だ」

「そんな訳ありません」

 傷からは黒い靄が出ていた。それが魔力であることがミサキはすぐに理解してた。

「アカ様、何に噛まれたのですか?」

「魔物だ」

――こんな魔物がいるなんて。

 ミサキは「失礼します」と言いアカの手を取ると手から黒い魔力を出し傷に入れた。いつもの魔物から負った傷だったらすぐに消えるはずだがこの傷は消えなかった。

「回復魔法が効かない」

 ミサキは焦り、何度も黒い魔力をいれた。次第にミサキは頭の靄が掛かったようになった。そして、視界がぼやけた。

「ミサキ、もうやめろ」

 アカの声が遠くの方で聞こえたが、ミサキは回復魔法を止めなかった。

 気づくと、ベッドの上で寝ていた。隣には勇者仮面を外し、目をはらしたアカがいた。

――アカ様の魔力がある。

 ミサキは安堵すると、アカの髪に触れた。寝ているアカは幼くミサキは妹を思い出した。

真夜中、自分を呼ぶ声が聞こえた。眠い目をこすりながら、窓の外を見ると妹がいた。

「どうしたの?」

驚いて聞くと、妹は目にたくさんの涙を浮かべて「寂しい」と言いながら部屋に入ってきた。

彼女は小さな声で「……勇者様のパートナーになりたくない」とつぶやいた。見れば全身痣であった。

勇者のパートナーとしての修行の厳しさを物語っていた。

彼女を抱きしめると一緒にベッドに入り、彼女が寝るまで子守歌をうたった。

こんな事しかできない自分が情けなく思ったがどうしようもないことであった。

翌日、妹の師が迎えに来て彼女は涙ながらに師の家に向かった。その日の夜も妹が部屋にきた。

夜中に部屋を訪れて一緒に寝ることで彼女の負担が減るならいいと思っていた。

ある日、両親にそれを注意された。その日の夜から窓に鍵をかけカーテンを閉めて寝るように言われた。

夜、窓を叩く音がしたが布団をかぶり聞こえないふりをした。心が痛かったが両親の言いつけであったため必死に耐えた。

それが何日も続いた。

余りに辛かったので両親に相談すると「勇者様のパートナーとしての務め」と言われた。

しばらくすると、窓を叩く音がなくなった。妹が修行の生活に慣れたのだと安心していると、両親の様子がおかしかった。

突然部屋に入ってきて顔を見るなり「ミサキ」と妹の名前を呼んだ。それを否定したが、両親は嬉しそうに何度も「ミサキ」と呼びミサキの師の家に連れていかれた。

師は「妹には劣るが、魔力数値的にはパートナーとして勤められるだろう」と言うと両親は大喜びした。状況把握が出来なくて、何度も『ミサキ』の居場所を聞いたがミサキは自分だと言われた。

『ミサキ』になってから、本当のミサキには会っていない。

窓を開けなかったことを後悔しない日はなかった。だからこそ、がむしゃらに『ミサキ』をやった。彼女を見捨てた戒めだと思えば勇者のパートナーの修行は辛くはなかった。

ミサキはアカを妹と重ねた。

――今度は見捨てない。

ミサキはアカを抱きしめた。

「うぅ……」

 アカは目をこすりながら、ミサキを見た。

「ミサキ」アカは大きな声で名前を呼んだ。「何をしている」

「え……?」

 大きな赤い目で見つめられて、ミサキは心臓を大きく動かした。

「魔力を使い切るなどバカか」アカの声は震えていた。「魔導士の魔力切れは死を招くことがあるのだぞ」

「死って……」ミサキは眉を下げた。「意識を失うくらいですよ」

「目を覚まさないこともあるんだ」

 アカの赤い瞳からポロリと涙がこぼれた。

「私はアカ様のためでしたら、この命差し上げますよ」

 優しく微笑むミサキの笑顔を見ると、アカは心が痛んだ。

 魔王討伐に勇者の命が必要だと知ってから、アカは優秀な勇者に魔王討伐をさせて終わった頃魔王城に向かうつもりであった。

 死ぬのが怖かった。

 そんな自分に命をささげるというミサキがアカには眩しすぎた。

「我にそんな価値はない」

「私はアカ様が大好きです。だから、一緒に頑張りたいです」

――大好き。

 彼女の言葉がアカの胸を熱くした。

 競い合い、罵り合い、期待されてきたアカには無縁の言葉であり感情であった。

 ミサキと共になら『勇者』を最後までまっとうしてもいいかと思った。

「ミサキ、これから厳しい旅になる」

「これからも努力します」ミサキは眉を下げた。「本日の戦闘では失態を犯し申し訳ありませんでした」

「失態……?」アカは首を傾げた。「そんなものはない。我はミサキを信頼している」

「ありがとうございます。おやすみなさい」

そう言うと、ミサキに抱きしめられた。自分よりも頭一つ以上大きいミサキは安心感があった。

『勇者』を最後までやりとげたいと思ったが彼女は殺人者にしたくなかった。

――やはり、青の勇者に魔王討伐をやってもらうのが一番いいな。

非道な考えであるが、アカにとって自分とミサキが大切であった。


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