帰還と変化 ②
カーステン、フェリクスを始めとした元嫡男たちには家門の復活が告げられている。
歓びに湧く元嫡男たち。彼らはようやく《《元嫡男》》から《《嫡男》》、または《《当主》》へと進化したのだ。
そこで、当主が存命の貴公子はこのままここに、新たに当主となった貴公子は、それぞれが新たな自領へ向かう事になった。
「カーステン、宰相が宮廷を離れるわけにはいかないでしょ?領地運営の方はどうするの?」
「ご心配ありがとうございますウルリッヒ様。ですが母は本来父と共に家門を支えておられた気丈な女性。さっそく当時の使用人に手紙をだしたようでございます」
亡き当主はずいぶん慕われていたという。夫人の手紙に応え戻ってくる使用人は多いんじゃないだろうか?特に旧知の執事が戻ればどれほど心強いか。
「あとは弟と…いずれ私の妻となる人が私の不在を補ってくれるでしょう」
ふーん、未来の妻か…
彼らが辛酸を舐めて早や六年。内乱、つまり神子の代替わりから六年もたった。(うち三年がこの僕ね)
当時いまのオズヴァルトと同じ歳か少し上くらいだった社交界の若き獅子たち。
彼らは全員すでに二十代後半から三十代前半の年齢になっている。
古の都市という名称に反し、古き慣習俗習に囚われないサンクトリウムを支えるのにはうってつけの年齢。
それでも本格的に統治の手伝いを始め、騎士としても充実する、もっとも輝くべき六年を失った彼らを思うと実に不憫だ。
だって、本当なら彼らこそ社交界の花として、右手に左手に華やかな蝶がわんさか集まって、それはもう嫁なんて選びたい放題だっただろうに。
不憫な…ふび…ん?
んん?
「あの…、カーステン、隣に居る美しい女性は?」
「あ、ああ。私の妻となる予定の婚約者です」
「はじめましてウルリッヒ様」
「あ、え?ああどうも。って、ええ!!!いつの間に?って言うか…誰!」
「彼女はエアハルトの妹です」
「リーゼロッテと申します。どうぞお見知りおきを」
「ど、どうもね…」
「彼女は激務の私に代わり母の話相手をしてくれていまして、その優しさに心惹かれました」
家門と当主を失った彼らの家族は親類縁者のもとに身を寄せていた。けれど逆臣の家族というそしりを受け、ずいぶん肩身の狭い想いをして暮らしていたという。
そこでサンクトリウム開放に伴いここへ呼び寄せていたのだが…
増えた神殿部の人口密度…そこに新たな出会いが生まれたと言うことか…
「お、おめでとう…」
「ありがとうございます」
恋愛、結婚に性差のないアードラスヘルム国ではあるが、後継者問題を抱える嫡男たちは令嬢を娶ることが多い。
感情の赴くままウル様にぞっこんのユストゥス君十五歳(ホーフェン男爵家嫡男)はまだ若いってことだね。
チラ…「あ…ユルゲン…」
ホラ…「うっ!堅物のフェリクスまで…」
よく見れば令嬢比率のあがった神殿部ではあっちでもこっちでもなんかいい雰囲気が漂っている。
「大侍従の職務についたフェリクスにも領地を任せる妻が必要になるでしょう。彼は「己がもう少し成長するまで」とアルノーの姉君に気持ちを伝えることを躊躇していましたが…恐らく早急に求婚するのではないでしょうか」
「え、ええーーー⁉ 」
結婚ラッシュになりそうである。
「まあめでたい話だからいいんだけど…」
その先陣を切るのがまさしく僕とオズヴァルトだし。テレ…
「我々にこのような未来をくださったウルリッヒ様、オズヴァルト様に感謝を」
「どういたしまして。国への奉仕で返してくれたらいいよ」
なんにせよ彼らは一度自領へ行く予定である。領民が領主の顔も知らないんじゃ困るからね。
僕たちが居ないうちにゾフィーさんが募った近隣領からの貴族子たちは、それぞれサンクトリウム宮廷の官吏としてすでに働き出している。
カーステンもフェリクスも今では補佐となる部下が居るため、しばらくなら留守にしても問題無さそうだ。
ここまで見事に朝廷を整えてくださったゾフィーさんには感謝しかない。
ゾフィーさんと言えばオズヴァルトのおじいさんにあたるシャルム子爵だが、年かさなシャルム子爵は、この若者比率の異様に高い神殿部における、官吏たちの相談窓口となっている。
分かりやすく言うと指導教官とでも言おうか。職務名は〝顧問”ね。
彼はあのゾフィーさんの父でありオスヴァルトの祖父に相応しく、物腰の柔らかい実直な老紳士だ。
フォルスト候の下で長年耐え続けるぐらいの人格者だけに、皆の信頼を得るのはすぐだったって。
蛇足だけど、年の近い神官長とも茶飲み友達になったらしいよ?
そうそう。ゾフィーさんは時々自領に帰ってたみたいで、平原部の自邸に居る夫、ホーフェン男爵は寂しさに枕を濡らさず済んだみたいだ。どうでもいい情報ね。
ゾフィーさんはまだ王都に居た若かりし当時、カーステンたちのお母さんとは社交界での面識があったみたいで、この九か月でかなり友好を深めたそうだ。
統治者であるオズヴァルトの母、ゾフィーさんが居たことは、まだ洗練されているとは言い難いサンクトリウムにおいて、ご婦人たちにとってはかなりの安心だったに違いない。
「ですが彼女たちも息子が与えられた土地へそれぞれ入領することでしょう。わたくしも戴冠の式典を機にここを引き上げたいと考えております」
「一年ありがとう。オジーのお母さんがあなたで本当に良かった」
心底真剣にそう思う。だって一歩間違えば…
あの王妃が義母になってたんだからね!!!




