凱旋の時
ついにあの約束を果たす時が来た。
内乱を先導した罪でお取りつぶしとなっていた幾つかの家門。
王となったオズヴァルトはそれらを復活させ、特に当主が処された家門に関して、西に居る元嫡男たちが爵位を授与されるよう取り計らったのだ。
大きな地図を広げ、リュティガー様と何度も検討を重ね、新たな当主となった彼らに配分された領地は、全て国の中央部西寄り。
どこも高位貴族にしてはこぢんまりとした小さな領だが、大きな問題もなく運営されていたそれらの領は、若い彼らの初統治にはピッタリだろう。
なによりこれは、西の辺境を守る盾となれ!
悪しき存在を一人たりとも通すな!とオズヴァルトが直々に配置した信頼の証だ。
それを聞けばむしろ歓喜に震えるに違いない。
首都サンクトリウムを有する西辺境だが、ここは神の地だけに、どの領主も大した軍事力を持たないのが悩みの種でね…
西の辺境は山岳の多い何もない田舎だ。
が、これから西の地は主都サンクトリウムを有することになる。
いくら軍事を東に任せるといっても牽制としての防衛力は必要になる。
だからこその防衛ライン。
新しい領主となる元嫡男たちは、内乱の折にも剣を握った勇気ある雄たちだ。
きっと期待に応えてくれることだろう。
そうそう。フォルスト領は降爵に伴い領地を半分以下に減らされている。
これを機にオズヴァルトのお母さん、ゾフィー夫人の生家であるシャルム子爵家も西への移動が決まっている。
シャルム子爵家は広大なフォルスト侯爵領内で一地区の管理をしていた子爵家である。
その侯爵領が再編成になったんだからお役御免だ。
けれどシャルム子爵は娘ゾフィーの件でかなり冷遇されていた。
むしろ、これでようやく解放された…ってとこじゃないだろうか。
明日は帰還という夜。
僕とオズヴァルトは王都での日々を振り返っていた。
「オジーにとってシャルム夫妻はもうひとつの祖父母になるんだよね?」
「ああ。先日挨拶にいらしてくださったが気持ちの良いお方だった。二人には神殿都市に入っていただくよ」
「いつ来るの?」
「祖父を慕う使用人と既に向かっていると聞いたが…」
ということは…
代理を任せてきたのは折りしもゾフィー夫人。
親子は二十年ぶりに再会を果たすわけか。
ジーン…「感無量だね…」
「ああ。これもまたウーリのおかげだ」
「僕は別に…」
個人的な恨みで復讐しただけだよ、って言おうとしたけど、思いのほかオズヴァルトが真顔でおもわず口をつぐむ。
「ウーリ、癒しの神子は再生の神子。君が言ったのだ。このやり直しの運命で神は再生を望まれたと。だが神の望みは何も国の再生だけとは限るまい」
「まあ…」
オズヴァルトは言う。
バルデルスの神は再生と崩壊を司る。
崩壊が様々な意味を持つように、再生にもまた様々な形があるのだろう…と。
「これまでの王家が壊しウーリが此度再生したもの…それは健全な心、人々の尊厳、正しき道義と安寧な営み…、そして絆だ」
「絆…」
なんだか腑に落ちる。
「そういったもの全てを神は望まれていたのだろう。古の君主はそれに応えようとし、だが愚かな狂信の前につまずいた。それを再生したのがウーリ、君だ」
「…大袈裟だって」
「いいや。君がこの二年半で成し遂げたことはそういうものだ。もちろんまだ道半ばだが」
僕にそんな力があるなんて少しも思わない。けど…それでもこれからオズヴァルトとそんな国を作るのなら悪くないなって、そう思った。
「陛下、ウルリッヒ様、出立の準備が整いました」
声をかけてきたのは騎士ブルクハルトだ。
オズヴァルトの護衛として執事の命を受け、西に付き従った王妹殿下の騎士たち五人。
彼らはこの帰還で自ら所属の変更を申し出、改めてオズヴァルトに誓いを捧げ王の専属近衛になっている。
それも誰一人欠けることなく。
「さあ行こうウーリ。私たちの凱旋だ」
「うん!派手に行こう!」
王城に滞在したのは約半年。
やることが多すぎて長かったような、でもあっという間だったような。
新しい王の出門を見送るため、副王となったリュティガー様も外郭門まで同行される。
僕と新王の婚礼もすっかり告知され、城下は祝福ムード一色である。
「新王オズヴァルト陛下ばんざーい!」
「神子様ー!お幸せにー!」
少し照れくさい…
「ウーリ、ご覧」
「あ…リンデンの旦那様…」
貴族家の馬車が並ぶ一角の中にその姿はあった。
笑うでもなく、かといって険しい顔でもなく、じっと目をそらさず通り過ぎる僕を見ていた。
「前回の出発時には居なかったのに…」
「心境の変化があったのだろう。良い変化であればいいのだが…」
思えば旦那様は、ウル様が王城入りのためにリンデンの屋敷を離れる時も、形ばかり見送りに来たけど声すらかけずウル様が馬車に乗るなり踵を返したっけ…
あ…目が合った…
ウル様に教えてあげなくっちゃ。
旦那様が初めて自分の意思で僕の様子を見に来たよって。
もしかしたらその目が見ているものは息子ではないのかもしれないけど…
それでも僕を、神子ウルリッヒを、今度こそ馬車が見えなくなるまでずっとずっと見送ってた…って。




