東の決着 ②
一時間後、意識を取り戻し事の経緯を説明された二人が別室に居た僕の前へと連れてこられた。
二人が僕やオズヴァルトに剣を向けたことは誰にも報告していない。(爆破の件とかバレたら困るからね!)
王妃は知っていただろうけど、その王妃はもういない。
だから二人はあくまで、賊に遭遇したうえ山崩れにあって死にかけていた不幸な護衛でしかない。
あ、これはオットーによる宮廷への表向きな報告ね。
なので二人の罪はフォルスト侯、王妃のもとで命を受けた過去のあれやこれやになる。
「何故我々をお助け下さったのですか…」
「神に背いた愚かな我らを…一体なぜ…」
跪く彼らからは強い畏怖を感じる。以前のような見せかけじゃない、本物の畏れを。
「罰ならこの一年でもう十分受けたと思ってる。もう聞いたね?この王城に誰が残り誰が消えたか」
ゴクリ…「信じられない…あのオットーが…」
「そのうえまさか両陛下までもが身罷られるとは…」ブルッ
「神は居る。奇跡はある。神の怒りに触れれば必ず天罰は下る。僕はあの時あなたたち二人にはまだ救済の余地があると思ってた」ハァ…「一年前のあの日、おとなしく西の神殿で労役についていればこうはならなかったのに」
「うぅぅ…」
「い、今では心底後悔しております」
「これからは神に仕えるとここで誓うか!」
「誓います!」
「二度と御心を裏切ったりはいたしません!」
平身低頭の彼らは心底天罰を恐れ震えている。二度の裏切りはないだろう。
ここまでこればあとはオズヴァルトの出番だ。
「よしいいだろう。お前たちは過去の所業に対して刑罰がくだされる。だが全ては主の命によるもの。神に恭順を誓いフォルスト候の悪行全てを証言するなら減免を約束しよう」
「ありがたきお言葉!」
「仰せのままに!」
「では王の名代たる王子オズヴァルトが命じる。お前たちは侯爵家が関わる全ての悪行を証言したのち北の神殿へ入れ。そこで監視と不届きなものが近寄らぬよう警護をせよ。対象はお前たちの旧知であるエマニエルだ」
「ははっ!」
神子に反目を示したその翌日にフォルスト侯が破滅したことから、反オズヴァルト派はあっという間に静まり返った。
「あの豪傑なフォルスト候がこのような…」
「だが何故殿下は神子の居場所がハノーファーの倉庫だとわかったのだ!」
「聞いたか。神子は何もない地下に炎を出現させたらしい」
「怒らせてはならぬ!こ、今代の神子を怒らせては…」
ってな感じ。ようやく神の怒りを信じる気になったらしい。
もともと王弟本人に玉座を求める強い意欲はない。
この時点でオズヴァルトの王位継承はほぼ決まったと言える。
さて、僕たちはフォルスト侯の裁判を見届けてから帰るつもりだ。
だけど大貴族フォルスト侯の審理は容易じゃない。
なので、滞在中に簡易の継承式と民への御披露目を済ませてしまうつもりだ。
何故簡易かって?一応年内は喪に服しているし、本物の継承式は西の神殿でするからだよ。
事の次第をしたためた書簡は早馬ですでに西へ向かっている。
僕たちが戻る頃には式典の準備も少しは進んでいることだろう。
ここまで往路に二か月…王城での滞在が数か月…帰路はいろんな領に寄るから三か月はかかるとして…帰る頃にはすでに一年中近くの月日が流れている。
「母上はどのように西の宮廷を整えてくださったかな」
「近隣貴族家から子女たちを募るって言ってたよ?」
「禁忌の地という縛りが消え領主たちはこぞって助力を願い出てくれている。きっと大きく変わっていよう」
「楽しみしかないよ!」
「同感だ。そしてウーリ。その先に待つのはなんだと思う」
「ん?」
「君の成年。そして私たちの婚姻だ」
ポ「そうだね」
「…これで晴れて君の未来を伸ばし私たちは共に齢を重ねられる」
どう返事をすればいいのやら…
こうして、西の都サンクトリウムへの遷都が漸く認められたわけだが…
実際問題、この広く大きなアードラスヘルムにおいて、西だけで全てを統治するのは無理というもの。
「リュティガー様。今後外交及び財政に関しては私が道を示します。ですが理念を共有できるのであれば東の地はあなたを副王として全面的にお任せしたいと考えておりますが…いかがか」
「オズヴァルト。君とはお互いあの囚われの宮で長い時間論じ合ってきたね。王家のあるべき姿、国の進むべき道、様々なことを。私と君の思想はとても似ている。何も問題は無かろう。だが私に無く君だけが持つ力がある。それは実現のために動こうとする力だ」
「リュティガー様。その力の名は〝ウルリッヒ”と言うのですよ」
「ははは、それは重畳。私は君の手となり足となろう。歓迎するよ。新王オズヴァルト」
帰還当初のギスギスしさがウソのようだ。宮廷会議は和やかに進んでいく。
副王リュティガー様によって、新しい大臣が選出され朝廷が改められていく。
この国において、法、教育、そして医療といった文化面は教会の管轄になる。
なので大臣の仕事とは簡単に言うと王の補佐。
リュティガー様が己の動かしやすい手足を選ぶことは当然のことだ。
王様とは望みのままに目指す国の姿をを示すだけ。
その命を受け実際動くのは大臣である。
もっと正確に言うと、財務だったり外交だったり軍事なんかを担う王の手足たる大臣から、さらに命を受け手足の指である下位官吏がせっせと働くのである。
新たなる朝廷において、フォルスト候派閥だった、爵位を継いだばかりの若い当主たちは(といっても三十代から四十代)要職からは外され無難な役職へと移された。
完全排除とはいかないのが貴族社会の厄介なところだ。
代わりに要職を任されたのは、冷遇されていた志高き家門の当主たち。
なかにはあのゲルハルトの父親、バルテル伯爵もいる。
またこれら抜擢による社交界の不平不満は、ナンナー伯爵がその威光で抑えてくださっている。
さて、そんな中確実に進む某裁判だが…
フォルスト候も弁護人をたてたが、続々揃う物証、証人の前に名門大貴族であっても抗う事は困難を極めていた。
そして質素な継承式と城下城中へのお披露目行列が終わる頃、長かった審理を終え、ようやくフォルスト候の裁判が結審した。
読み上げられる主文。
「判決を言いわたす。被告には公金横領、神子殺害教唆、そして…証人により明らかになった新たな罪、今は亡き王兄殿下の襲撃事件における背任罪により…降爵のうえ塔牢獄への禁固百年に処す」
「う、うぅぅ…、あああああ…」
頑強な身体を折り曲げ崩れ落ちるフォルスト候。
けど命があっただけ侯爵は強運といえる。
フォルスト候のつけた弁護士はかなり有能で、減刑が一切利かなかったのは実質横領罪だけ。
宮廷会議中のあれやこれやは議論における熱意とされ不敬に問われなかったし、神子殺害教唆…は未遂で済んだし、王兄の襲撃事件を指示したのは娘のエメリンであって候はポロリと情報を漏らしただけだし、三人の亡き官吏についてもエーリヒたちは関与してなかったし。(多分オットーかグスタフだね)
なんだかんだで求刑の半分にまでなったんだから。
精々冷え切った牢で頭を冷やしながらバルデルス聖書でも書き写して静かに余生を過ごすがいい。
なーに、たった百年だよ!
頑張りたまえ!




