同好の士
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
僕のお目当ては王の庶子である幻の王子…オズヴァルト様だ。
彼は王妃の侍女ゾフィー嬢に王が手を出す、という、たった一度の性被害で身籠り産みおとした、正真正銘王の血をひく王の子である。
王妃の侍女と言えば当然身分は貴族位。
当時王妃はまだ後継者アルトゥールを身籠っては居ない状況下。侍女の妊娠は非常にセンシティブな問題を抱えていた。
何故なら、王の直系血族のみが後継者となるこの国では、万一に備え王は多妻が認められている。そしてここが重要なのだが、最初に産まれた王子こそが(何事も無ければ)王太子となるため、娶った順序に関わらず、第一王子を産んだ妃こそが正妃となる。
この国の王、リカードは、最初の結婚、つまり現正妃である第一妃エメリンとの結婚からわずか数年で三人の妃を王城に入宮させている。これは第一妃エメリンがなかなか孕まないため、一年ごとに第二妃、第三妃、と増えていったためだ。
結果、第二妃は入宮してすぐに懐妊したが、お産まれになったのは姫…。が!
…実はここだけの話…
第二妃が出産を終えた直後、…焦るエメリンを尻目に第三妃にはご懐妊の噂があったのだとか。
これは第二妃宮の洗濯メイドが洗い物にお腹に巻く帯があるのを見て気付いた話なので信ぴょう性が高い。
それがある日を境になくなり…ふさぎ込む第三妃の姿に第三宮付きの使用人は何かを察し、誰もその件には触れなかったそうだ。
そしてその頃、時を同じくして第一妃に仕えるメイドが数名職を辞している。
…その意味わかる?
というわけで。
己の侍女如きに先をこされ黙っている第一妃ではない。
もし懐妊が王の知るところとなれば、侍女は正式に第四妃となり、ましてや生まれるのが男児だったならば…互いの序列は逆転する。
それまで第一妃として崇められてきた彼女が二番手の立場に甘んじることが出来るだろうか…?答えは否だ!
当時を知る雑役婦の証言では、第一妃の怒りは言葉で言い表せられないほど凄まじいものだったらしい。(毎日割れ物壊れ物の山で大変だったって)
聡明なゾフィー嬢には分っていた。このままでは恐らく自分とお腹の子に明日は無いだろう。
そこで彼女は第一妃に交渉を持ちかけた。
「身の安全と引き換えにわたくしは黙って王宮を去りましょう」と。
ゾフィーの生家は己が生家の領内で任を持つ子爵家。制御は容易と思えたのだろう。
第一妃にしては珍しく「わたくしの慈悲深さに感謝なさい!」と、大した恩給も持たせず彼女を追い出し矛を収めたのだとか。
だが生まれたのはよりにもよって男児、それがオズヴァルト様だ。
王の血を引く《《初めての男児》》。これは大きな危険性をはらんでいる。
ゾフィー嬢は出産後、何度となく身の危険を感じたという。だが彼女は約束を反古にされ黙っているような女性ではない。彼女は直ちに第一妃の天敵へと手紙をしたためている。
ここからは王城のメッセンジャーに大変珍しいお菓子を振舞って聞きだした話だからよく聞いて欲しい。
第一妃の天敵、それは王妹ブリッタ様だ。
これは何があったとかそういう問題でなく、この二人は同じ時期に社交界デビューを果たしている。
歳の頃も近いのだが、とにかく性格が合わないらしい。
水と油、犬と猿、独善的な王の伴侶に相応しい利己的な第一妃、それに対し王妹ブリッタ様は、兄を反面教師として人道的にして自己抑制に長けている。(この辺は神官による人物評ね)
ゾフィー嬢の手紙には「どうかあなたの甥をあなた様の手元で保護して欲しい」と書かれていたとか。
経緯を知った王妹殿下は、「このままでは王の系譜たるこの子は生きて成人を迎えられないでしょう」と、快く後見役をかってでたという。
こうしてオズヴァルトは王の庶子としてだが、同じ城内に宮殿を持つ王妹殿下に引き取られた。そして母親であるゾフィーは子爵家への影響を考え、王都からかなり離れた男爵家に後妻として嫁がれていったという。
この頃ようやくご懐妊となっていた第一妃は、「尊き王の血に無慈悲をすればお腹の子に障りが出ましょう」と、大司教、神官長、そして当時の神子(マルレーン様の前任)から三人がかりで説得され、渋々オズヴァルトが王妹宮で庇護されることを了承したという。
だが王妹ブリッタ様は王妃をみくびらない。これは王の名のもと正式な誓約書によって確定された。
この国において教会を介した誓約は絶対の拘束力をもつ。
だが王妃も負けてない。オズヴァルトの王城暮らしには王妃によって一つの条件が出されたのだ。
それが〝禁足令”
あろうことか、王妃はオズヴァルトが王族宮以外を出歩く自由を禁じたのだ。
これにより、命令を破った際には誓約書の効力も失うことが決定された。だが王妹は「オズヴァルトの安全確保のためにはそれもよかろう」と受け入れたようだ。
王族宮の区画は王弟宮まで含めれば十分な広さ。森もあれば馬場もある。籠の鳥でも不自由はない。
実際はそれ以外にも王とオズヴァルトの面会をただの一度も許さなかったりしたらしい。
え?王は何も言わなかったのかって?
その頃第一妃はついに念願の出産を迎えていた。
産まれたのは執念の男児だ!
後継者である王子の誕生に、王の関心愛情は庶子のオズヴァルトなんかより、血統書付きのアルトゥールに全振りされたってさ。ひどい話だよ。
けれど晴れて後継者となる第一王子を産み、名実共に正妃となった王妃エメリンはオズヴァルトへの憎しみをほんの少しだけ鎮火させたらしい。恩赦…的な?
さて、ここで簡単な全体図だが、城内の敷地はとてつもなく広い。何しろ絶対王政の城。城の広さは権威の証明。
森林と言う天然の城壁に囲まれた、王都を見下ろす小高い丘陵地一帯全てが王城となる。
その中に王の住まう本宮殿があり、正妃宮、第二妃宮、第三宮、そして礼拝堂は長い回廊でつながっている。(ここだけの話、使ってない宮殿もまだいっぱいあるんだよ)
そして僕が居る〝癒しの神殿”の他、兵舎、王族用の墓所、王妹の宮殿、王弟の宮殿なんかも同じ王城内にあるのだが、それらは全て植樹によって整えた人口の林、ところによっては天然の森によって一画一画が区切られている。(あ、もちろん生活付属設備も色々あるよ。割愛するけどね)
僕とウルリッヒ様は王宮に行くときは裏庭で飼ってるロバに乗って行くのだが(ロバでニ十分ほど。歩いてもほぼ一緒)、王宮は神殿から見ると正面側だ。
難事の際に必要なのが〝癒しの神子”、あまり離れていても困るのだろう。
そして王妹王弟の宮殿は、神殿から見て裏手になる。
位置関係的には王宮→林→関連施設→林→神殿→小高い森→墓所→小高い森→傍系王族宮だ。
つまり本宮殿と王妹の宮殿は神殿と墓所を挟んで、かなり離れてるってことだね。
オズヴァルトは母と子爵家、そして自身の未来を歪めた王妃に対し小さな憎しみを抱いている。
そして王妃は自分のプライドを粉々にしたオズヴァルトに尋常じゃない憎悪を抱いている。
彼はこの憎悪がゆえに身の破滅を迎えることになるのだが…
彼に何があったか、僕はその全てを知っている。
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