攻防初戦
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
エミル(ウルリッヒ様)を見送って半月後、要するに婚約式から一か月後、ついに仇敵のお出ましである。
言わずと知れた第一王子ね。現時点で優しい王子の仮面はまだ脱ぎすてていない。
奴らの悪しき企て、それは全てこのアルトゥールを通してウルリッヒに届けられる。
何故なら小さな暴君ウルリッヒが唯一大人しくなる相手、それが婚約者のアルトゥールだったからだ。
さて、生存への戦いはこいつとの婚約をどうにかしなきゃ始まらない。
かと言ってこの婚約はウルリッヒ様、つまり僕から言い出したことで、婚約式まで済ませた以上、いくらワガママを振りかざしても簡単には解消できないだろう。(沽券にかかわるってやつね)
さてどの手で行くか…
ウルリッヒ様の前では大人しくしていた僕だが、実を言うと、お屋敷では大人たちから「このクソボウズ!」と呼ばれていた茶目っ気たっぷりのいたずらっ子である。
悪知恵勝負なら負ける気がしない。
偽物の神子と偽者の色男が過ごす偽物の逢瀬…ああ…不毛の一言。
「やあウルリッヒ。健勝かい?」
「日々生命力を搾取される僕に向かって嫌みですか?」
おっとついうっかり。けどこれで方針は決まった。先ずは僕の懐柔は易しくないと肌で感じてもらう!
「…そんなつもりではなかったのだが…すまない、軽率だったね」
カキカキ「デリカシーの欠如、マイナス10点」
フリーズする婚約者。アルトゥールは混乱している。あれほどウットリと自分を見つめていたウルリッヒが、いきなり別人のような冷めた目で自分を見るのだから。別人だけど。
どうも目の前でウルリッヒ様が死にゆくところを見てしまっただけに、こいつには例え演技でもいい顔なんかできないね!
そう、今日は第一王子アルトゥールが初めて暗殺行為に手を染める日。
つまり…神官を欺き極秘の患者を初めて連れてくる予定の日だ。それもたかが下痢くらいで…
何が「疫病の始まりだとすれば大変だ」だ。
本物の疫病を見せてやろうか!まぁいずれその日は来るんだけど…
あんな顔色の良い太った病人が居るものか!ましてやこの日の男は、宮廷で重責を担う大臣でも辺境の護り手でもない、何の変哲もない、ただ王妃の知り合いってだけの一貴族じゃないか。ふざけてんの?
僕は読み書きを習い始めた幼少の頃より欠かさず日記をつけている。ウルリッヒ様(本物)に手渡したのはそのほんの一部、『幼年の章』だ。つまりここへ来てからの五年間分、『監禁の章』は今も手元に残している。
そう!この神殿へ奇跡を求めてやって来る人物の詳細は裏(王子ルート)も表(正規患者)も全てこの手の内にある。
ほくそ笑む僕に気づかず、偽色男の舌は滑らかに回り続けている。汗ばんでいるのは後ろ暗い所があるからだろう。
「というわけでね。どうしても断れない筋からの内密の頼みなのだよ。治してやってくれないか」
「いいですよ」
「ああ!ウルリッヒ、そう言ってくれると思っていたよ」
「その代わりこの問診票書いてください」
「問診…票?」
この日のために自作した渾身の問診票。
年齢、身長、体重、熱、心拍数、食欲の有無から睡眠時間、ここ数年の病歴薬歴まで!
「これで軽く確認して一般治療で治る見込みの方には神官長から良いお医者様を紹介します」
医事薬事は教会の管轄、まさに十八番。
「ウルリッヒ…、その御仁は神の奇跡をご所望なのだよ…」
「アルトゥール様は神の奇跡を珍しい大道芸かなんかと思ってます?」
「あ、いや」
自分を神とのたまう王家のトップは歴史的にも往々にして本物の神を軽視する傾向にある。実に由々しきことだ。
「わかった。次回からはその問診票とやらを用意しよう。だが今回はすでに彼を待たせているのだ。可愛いウルリッヒ、私の頼みを聞いてくれるね?」クイッ
「あ…殿下ってばイケない人…」ウルウル…
当時も内心思ったものだが…ちょっとあごを持ち上げられたくらいでチョロすぎだろウルリッヒ様…
スン「第一王子が自ら規則を破っていいと思ってるんですか?」ペシッ
「えっ?」
「王族って国民の模範となるべき立場かと思ってましたけど…違うんですね」
「あ、いや…そう言う事ではないのだよ」
「そう言う事じゃないならどういうことですか?幻滅ぅ~。見損ないました」
「ま、待つんだウルリッヒ!」
「あ!もしかして殿下って賄賂とか大丈夫な口ですか?そういうルートですかこれ?」
「まさか違う!これは重要筋からの頼まれごとだと言ったじゃないか!」
「王家の重要筋なら正規の依頼で問題無いですね。シンカーン!神官長ー!」
「ウルリッヒ黙れ!」
「黙れ?」
ほっほーん…、これが素か。
国の中心となる二本の柱、それが王家と教会だ。
王家に対し唯一おもねないでいられる存在、それが〝再生の力”を管理する神殿トップの神官長と、神の代弁者であり伝道師である教会トップの大司教。
その比翼の一人である神官長にチクられたらさすがの王子もたまったものではないだろう。
神官長はすでに改心済み。現在、正規ルートで許可を得るのは王との謁見よりも難易度高いから!
「待てウルリッヒ、さっきから何を書いている?」
「婚約者の評定を。公私混同、マイナス30点…合わせてマイナス50点と」
「なんだと!今すぐ消さないか!」
「将来の夫を採点して何か悪いですか?」シレッ
「っ…」
ほんの一瞬見せた忌々しそうな表情。すぐに取り繕ったが…僕は見逃さない。
ニコリ「…おかしな散文でも読んで影響されたのだね?ウルリッヒ、私はこれでも忙しい。あまり時間がないのだよ」
「じゃあまたの機会ってことで」
「つれないのだね…、私が好きではなかったのかい?」
「好きですよ。でも僕…釣った魚にエサは上げない主義なので。こういうのって手に入れるまでが醍醐味なんですよね~」
ガタン!「な!なんと無礼な!聞きしに勝る傍若無人さだ!」ワナワナ…「本日はこれで失礼する!」
ドカドカドカ、バン!
本性見たり!
ウルリッヒ様はアルトゥールのどこが良かったんだろう?僕ははじめっからいけ好かないと思っていた。
顔か?顔なのか?確かに顔だけは良い。王妃が冷酷系美女なだけにがっつりその容姿を受け継いでいる。けどあの親子の最も強い遺伝はその腐った性根だ。
「失礼しますウルリッヒ様」
「何の用?掃除なら今はいらないよ」
自分でしたから。巨大なゴミ掃除を。
「その…依頼のあった身の回りを世話する小間使いですが少々お待ちいただけますか」
「いいけどなんで?」
「決まりかけておりましたが…たった今王子殿下より再考を命じられまして」
何!?
結果には常に原因がある。つまりこれはたった今僕が王子を怒らせた故の因果なのだろう。
何を考えてる極悪王子…
そして二日後。予想の斜め上からそれは現れた。
「こんにちわ神子様。僕が今日から神子様のお世話係に任命された…ギーツェン男爵家の息子、エマニエルでございます」
「…エマニエル…」
「はい。エマニエルです。仲良くしてくださいね」
まさかのエマニエル!
奴らはきっと僕を誘導し懐柔するためにエマニエルを派遣したんだろう…が!むしろ望むところだ!
飛んで火にいる夏の虫…悪しき企ての発案者。どす黒い頭脳を持つ男、その名もエマニエル!
「…仲よくしてあげてもいいですよ…」ニヤリ「僕は身分差なんて気にしませんから」
ヒクッ「…」
これが意味するのは本当なら口もきけない立場だよ?ってこと。…言っとくけど…
わざとだよ?
毎日更新を目指しています。
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