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やり直しの神子は長生きしたい  作者: kozzy


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その頃の王妹宮…

「ドミニクしっかりしろ!」


そこに倒れていたのは後を追わせた王妹宮の近衛と外部の傭兵。


血に濡れ倒れているドミニクは胸を斬られながらも無事なようだ。が、傭兵はすでにこと切れている。


「す、すみません…。思った以上に手練れで…生きて捕えることは出来ませんでした…」

「かまわない!それで奴らはどこへ行った!」


「馬に乗ってその分岐を南西の方角へ…。奴らが口走ったのはハノーファーの領…」

「よしでかした。後は任せよ。誰か!ドミニクを運べ!」




この王城は西の神殿と同じく丘陵地帯の頂にある。眼下は放射状に広がり、城下へ向かう正面を除き、三方は森林に囲まれている。

また王城裏手は崖になっており、ここは今も手付かずの未開地である。

これは防衛のための地形だ。ゆえにこの崖、そして断崖下にある樹海は今後も手を付けぬのだろう。

王族宮内から行き当たる崖縁からは樹海が一望できる。

あれはまさしく緑の海。色こそ違えど、古の一族は樹海の広がる光景に故郷の海を見出したのだろう。



そして王城両側にはそれぞれに認可の商人や使用人などの出入りする通用門がある。

一方が本殿の奥にある、貯蔵庫などが立ち並ぶ北の門。この門からは森の中に城下の商業地区へと至る細い道が整えられている。


もう一方は墓所や王族宮のあるこちら側、南の門。これは古き時代の置き土産だ。

城下の商業地区が城下北側に栄えたことで、南側であるこの門は通用門としての役割を終えている。が、王弟リュティガー様の話によれば、この門は有事の際に開放するべく、山中には一部の人間しか知らぬ、城外へと続く密かな道があるという。


麻袋を抱えた賊の消えた森は旧使用人門への方角…


この国を護る頑強な二つの盾、それが手強い北の皇国からこの地を守る北の辺境軍と、国の内外に起こる様々な争いをねじ伏せる王城の正騎士軍だ。


北の辺境軍はその名の通り辺境伯が指揮し、聖騎士軍は軍務大臣の指揮下にある。つまり軍務大臣であるフォルスト候はその隠し道を知っているに違いない。


「よいか皆、黒幕はフォルスト候、そして賊が運び出したのは癒しの神子ウルリッヒ。私の妻となる人だ。心せよ!」


「神をも恐れぬ所業…なんと不敵な!」

「あの方の力は本物、候は神罰が恐ろしくはないのか!」


「…あの男は王妃エメリンと同じ、そもそも神など信じてはおらぬのだよ」


そうだ。神子を欲したのは王であって王妃ではない。

王にとって神子とは王を王たらしめる象徴であり、また自身と国益に有用な人物を永らえさせる道具でもある。

ゆえに神子を欲する。


だが王妃…、そして臣下であるフォルスト候はどうだ。


どれほど危険な欲望であっても王妃は私兵に命じれば良い。自ら手を下さずともそれは叶えられる。

侯爵もそうだ。軍務大臣として戦乱の地に赴きはするが、彼は安全が確約された場所から指示を出すだけ。だが兵たちの命と引き換えた勝利はフォルスト候の手柄になる。


己が望めば妙薬から他国の霊薬まで、ありとあらゆるものを手に入れられる権力者とその父親。

彼らはその健やかな身体すら容易に保持できると信じている。己の命が脅かされるなどと考えたことも無いのだ。老い以外には。


だからこそウルリッヒを西へ追いやる”、などといった前代未聞の提案を、「たった一、二年の不在」と高をくくり、嬉々として受け入れたのだろう。

それはアルトゥール、その横にいるエマニエルにも言えること。

若く生気に満ち溢れた彼らもまた、己の身に病魔が襲い掛かるとは微塵も考えなかったに違いない…


「であればフォルスト候にとってより実感のある危機とは権威の喪失。ウーリの糾弾こそがまさに脅威なのだ!」


「…あの男は我が弟リュティガーであれば制御できると考えているのですね…」

「なんとおこがましい…」


ドミニクの告げたハノーファー領とはフォルスト候の弟が治める土地だ。


高位貴族であり、且つ王妃の生家であるフォルスト侯爵領はもともと地位に見合っただけの領だが、娘の輿入れと共に王家から〝祝いの品”と称してさらに近隣領地を賜っている。


王領に面した広大な領地。

そのため領内には候に代わって領地の管理を受けもつ何人かの子爵家が存在する。

母の生家であるシャルム子爵家もそうであるし、このハノーファー子爵家もその一つだ。


母と邂逅を果たした後、私は母の生家であるシャルム子爵領についても詳しく訊ねていた。

シャルム子爵家とハノーファー子爵家は隣接している。だからこそハノーファー家に関しても偶然だが多少聞き及んでいた。


フォルスト候は弟をハノーファーの令嬢に婿入りさせ、まんまと実権を手に入れている。

フォルスト候の弟…そうだ!

ウーリは以前言っていた。侯は弟名義で投資用の商会を立ち上げていると。それはこのハノーファーではないのか!


「行き先が分かった!」

「殿下、本当ですか!」

「ウルリッヒ…、神子はハノーファー領内にある子爵名義の投資商会、およびその関連施設のどこかだ。直ちに調べよ!」

「ははっ!」



ただ一つ胸をなでおろすのは彼に自己再生の力があること。少なくとも生死の心配は無い。


私を信じて待っていろウーリ。すぐ迎えに行く。








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