標的はこっちだ!
さて、警戒のあまり味の分からなかった宮廷晩餐会を無事に終え、日を改めて会議は続く。
「リュティガー様。宮廷の考えは他にあろうが…あなた様はどうお考えか、それを聞かせていただきたい」
冒頭一番、まずはオズヴァルトの問いから会議は始まった。
長い逡巡。
いくら小心の王弟だって王族としての矜持や使命感は持ち合わせているだろう。
だからと言って安易に引き受けられるほど王の座は軽くない。その肩には多くの民がのしかかるのだから。
フー「神は私に加護を下さらぬだろう。この国が神と共にある以上、私に王座は荷が重い」
「何を仰る王弟殿下!」
「リュティガー様!もっと自信を持たれよ!」
率直なリュティガー様に四方八方からかけられる叱咤と激励。これは…うう…うっとおしい!
「…そうだな…臣下、そして民の声が私を望むのであれば…そうでなくては国が成り立たぬというのであれば力を尽くさねばならないのだろうな。そう考えている」
周囲に負ける王弟の煮え切らない微妙な返事。これだからこの人は引き籠るしか出来なかったんだろう。
王弟が王位につけば宮廷は以前とは別の意味で制御を失うこと請け合いだ。
見ろ!東の臣下に漂う安堵感を。
彼らはいまさら最高権威を失いたくはないのだ。
どこか意思の弱い王弟なら操るのは可能、そう踏んでいるんだろうが断固阻止させてもらう!
「リュティガー様、私は東の統治を西を拠点に行うつもりはないのです。現実的に考えそれには無理がある」
「では何が望みであろう」
僕たちの要望。それは西の神殿都市サンクトアリウムを神バルデルスの住まう神域とし西の神殿を本殿、すなわち首都にすること。
これによって東は一公領として王弟が取りまとめることになるが、国庫の管理、他国との交渉などは西主動で行うことになる。
「国の財を西側で独占する気か!」
どうしてそうなる!その発想がすでに東の本性を現してるっつーの!独占する気なのはお前らじゃないか!
「そのような真似などするはずがない。私が考えるのは民の安寧と国の繁栄!」
「はっ!綺麗事を…」
「それ以外に神の望みはない」
「神…。ほほう?もしやそれは神子ウルリッヒの入れ知恵であるか?」
ほらまたきた。いちいちつっかかるんだから…フォルストのジジイめ…
「殿下!この国では聖職者の政治介入を禁じておる!神子様!弁えてもらえるか!」
「言い掛かりですよ…」ハァー…
確かに神子は政への関与を禁止されている。
それは過去に王と大司教、二大巨頭が国の在り方において相容れず何度も国が揺れたからだ。
それ以降、『統治に二人の絶対者があってはならぬ』と取り決められ、王は宮廷を、大司教は教会、修道院を束ねると、当時の王と大司教によって厳粛な誓いがたてられている。
因みに宮廷とはすなわち政を指し、修道院とは信仰だけでなく、教育や医療、法までを指す。
さて、本題に戻って。
どこまでを進言とし、どこからを介入とするか、僕は一貫して細かい政策に口出しなんかしていない。
神の名のもとに拡げまくったこの広大なアードラスヘルム国。
この国の西と東では風土を始めとして何もかもが違っている。が、全てにおいて豊かなのは東の地だ。
「ろくな貴族も居ない西にこの東側が治められるとお思いか。思い上がりも甚だしい」
「なるほど。フォルスト侯は東が真っ当な政を敷いている、そう言うのだな?」
ギリ「…王が亡くなられた途端大した豹変ぶりだ。オズヴァルト殿下。あなたは本気でご自分に王たる資質があるとお思いか」
「わからぬよ。だがリュティガー様が言われるよう私を王にと望む声あらば力の限り応えるまでだ」
「世を知らぬあなたにこのアードラスヘルム国が治められるか!」
「フォルスト侯!オズヴァルトから世を奪ったのはあなたの娘ではありませんか!」
「王妹殿下!女人のあなたはオズヴァルト殿下の付き添いにすぎぬ。弁えて頂こう!」
怒りに震える王妹。彼女にとってオズヴァルトは息子も同然。侮られることがないよう同席なされたが…フォルストのジジイにとっては敵にもならないのだろう。
じゃあ援軍ね。
「フォルスト侯…。さっきから自分が何言ってるか分かってます?」
「何のことだ神子ウルリッヒ」
「あなたがオズヴァルトに言ったことって全部王弟リュティガー様にも当てはまることでしょ?」
哲学と政治学に精通し下位官吏を集めては導いていらした王弟。
その志は立派だけど…王弟宮に引きこもってろくに城を出なかった彼も世の真実なんて知らないも同然。年齢以外にオスビーと何が違うって言うんだろうか?
「じゃあ僕も聞くけど…あなたは本気でリュティガー様に王たる資質があるとお思いですか?」
「なんだと…?」
「王弟リュティガー様は王の補佐すら放棄して王弟宮でお暮しだった。その理由に心当たりはありますから無理はないと思いますけど…表舞台に出ることを豹変って言い表わすなら同じでしょう?」
「ウルリッヒ!」
「神子様!」
くどいようだが僕は王弟を嫌ってはいない。悪しからず。
「こ…の…王弟殿下を愚弄するか!」
「へー?第一王子を愚弄するのはいいんだ?」
「第一王子は我が孫アルトゥールだ!」
「もう居ないけど」シレ
おっと。虎の尾を踏んだようだ。…わざとだけど。
ドン!
「全て貴様のせいだ!この腐れ神子が!」
ガタン!
「それが本音か!ホントよく似てるよ。僕を欠陥品と言い捨てた孫のアルトゥールに!」
ワナワナとこぶしを震わすフォルスト侯。いいぞその調子!敵はオスヴァルトじゃなく癒しの神子ウルリッヒ!それを理解するがいい!
「はっきり言う!神の裁きを呼び寄せたのはあなたのその思想だフォルスト侯!」
あの王妃を蛇のように育て上げ、王には軍務の長として人の命は空気より軽いとすり込んだ。
そして蛇を母に持ちキツネを側に侍らす王子の行く末なんかたった一つだ!
「何を根拠に、この不心得者が!」
「フォルスト侯!神子様に向かって何と不敬な!」
「いいんです。フォルスト候の言う通り、根拠ですね…、そう、根拠ですか…」
くどいようだが前世軸において僕の趣味はゴシップ集めだ。特にアルトゥールの意図に気付いてからは王家周りを中心に小さな噂まで一つ残らず収集していた。
王家周り…それには王妃の周辺も当然含まれる!
「フォルスト侯、いいこと教えてあげましょうか。傍系神子には神託を賜る力があるんですよ?腐敗の一端なら神が教えてくれました」
「な…に…?」
ザワ…
今こそ見せてやろう!このゴシップ(収集)王、エミル様の真骨頂を!




