目覚め
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
ガバッ!
「今のは…」
長い長い夢。ああ…僕はウルリッヒ様の癒しを受けて、そして眠っていたのか。
周囲にざわめきは無い。ということは異変にはまだ誰も気付いていないということだ。
お労しいウルリッヒ様…
彼は最期の意趣返しとばかりに、残る力全てを出し切り、〝高貴なる王家”でなく、助けたところでなんの得にもならない、ただの下級使用人である僕を救ってくださったのだ…
「う…グス…」
泣いてる場合じゃない!今すぐウルリッヒ様のお身体をベッドに横たえ、一番お気に入りにの服に着替えさせ、髪を整えうっすら化粧を施して……ああそうだ…神官の誰かを呼びに行かなくては…
「あ、あれ?ちょっと待って…」
こちらに背中を向けて横たわるウルリッヒ様の衣装はさっきまでとなんか違うような…それに…縮んだ?
「う…うん…」
ビクッ!!!
身じろぐ背中。生きてる!
良かった…生命力はまだ残ってたんだ…
いや、いいのか?むしろこれは最悪の展開なんじゃ…
「こ、これは一体…」
「あ、大丈夫ですか、ウル、…僕!」
何を言ってるかわからないだろう。僕にもわからない!
だって床から上半身を起こしたウルリッヒ様の顔は…十五年間眺めてきた僕自身、〝エミル”の顔だったんだから!
「ここは!」ガバッ!「うわっ!」
うわっ!って…人の顔見てうわっ!って…いやちょっと待て。ウルリッヒ様の顔が僕ならここでこうしてる僕は…誰?
「これは一体どういうこと?何故僕が目の前に?」
「あの…」ゴクリ「そこに居るの…ウル様でいいんですよね?」
「そうだよ!そうに決まってる!けどウルリッヒは君じゃないか!」
あちゃー…やっぱりか!
「その…大変言いにくいのですがウル様…今あなたは僕になってます…」
「え?」
「すみません…平凡極まりない僕の顔で…」
不敬罪とかにならなきゃいいけど…
けれど腐ってもやさぐれても彼は生まれた時から貴族、それも神子。これくらいで狼狽えたりしない。少なくとも表面は。
「何が起きたんだろう…とにかくここはどこ…なんだ神殿…」チッ「まあいいや鏡」
今チッって言った?あのウルリッヒ様がチッって?いや見た目は僕だけど!
「はいどうぞ」
「…ぷっ!ほんとにエミルだ」
そこ笑うとこ?
「ほら、鏡見て」
「はい…って、うわぁ 」
そこにいたのはウルリッヒ様になった僕。しかもこの顔は…何歳か前の顔だ。ますます状況がわからない。
「わ、若がえった…?」
「あっ、そうだ!」
言うが早いか僕の顔をしたウルリッヒ様がお持ちになられたのは白い子豚の陶器。
「宝石の数を数えてみよう」
「そうか」
この宝石はこの神殿に入った時から、毎月一つ僕への年金代りにとウルリッヒ様が入れてくださっているものだ。だからその数を数えれば今が神殿に来てから何か月目かがわかるはず。
「いちにいさん…六十九個、そのままだ」
「ど、どういうことですかウルリッヒ様?」
「わからない。けど君は同日同時刻、同じ敷地に産まれた僕の影。もしかして再生の力が君と僕で混乱したのかも…」
え?そんなことってある?
でも僕に何が言えるだろう。この力を理解できるのは制御なさっているウルリッヒ様だけなのだから。
「そもそも僕は初めから何もかもが異例だった。何が起きたっておかしくないよ。初めての傍系神子。初めての男神子。初めての…性格破綻神子」
「性格破綻って…あれは王家のせいじゃないですか!」
「王家だけじゃない。嬉々として僕を神殿に差し出したお父様や僕のいる屋敷で息子の嫡男決定祝いを行った夫人も僕は恨んでる」
「ごもっともです」
「ふふ…それ。エミルはいつもそれだね。けど僕はいつだって君に救われてた。君の「ごもっとも」が僕は大好きだよ」
だって本心から僕はそう思ってたから。
どれほどウルリッヒ様がワガママに振舞おうが、ウルリッヒ様の心情を思えば全部仕方がない…って。
「とにかくこれじゃ何も分からない。他に状況の分かるものはないかな…」
「調べてみますね」
座って待つ僕と室内を捜索するウルリッヒ様、奇妙な構図だ。そしてわかったこと。それは…何故か僕の私物だけが二年とえーと、八、九…ええい!およそ三年前、違った、三年先のままということ。
「ますますわからないな…」
「仕方ありませんね…奥の手を使います」
僕は扉を開けるとウルリッヒ様の口調を真似て、廊下を清掃する修道士を一人呼びよせた。
「御用向きは何でございましょう」
「甘いお菓子を持ってきて。ほら例の」
「例の?」
「えーと…アレだよアレ」
状況が分かるまで誰とも顔を合わせたくはなかったけど…如何せん。このままでは埒が明かない。
世間話をきっかけに流れで何とか第三者から暦を確認…とか考えていたのだが、修道士はあっさり答えをくれた。
「ああ!あれでございますねウルリッヒ様、婚約祝いで贈られたあのキュベルドン」
「…そうそれ」
僕はツイてる!
そして恭しく修道士がお茶と共に運んできたもの、それは…キュベルドンと呼ばれる砂糖菓子。
「その砂糖菓子覚えてるよ…。確か婚約のお祝いにって、どこかの司祭様がお持ちになられた門外不出の砂糖菓子だよね」
僕も良く覚えてる。だってそのお菓子は砂糖菓子の中から甘いシロップが溶け出してきて…あんな食感のお菓子初めてだったから。
あれはどこかの教会でのみ作られる特別製法のお菓子で、そのレシピは公にされていない。司祭は慶事の際に極めて少量だけをつくり、こうして自ら祝福の贈り物としてお持ちになるのだと言っていた。
「中のシロップは二週間以上たつと固まってしまうと仰っていたね。このキュベルドンはまだ液体のまま…」
これってつまり…
今はウルリッヒ様と第一王子が婚約の儀をすませて二週間以内ってこと…
婚約直後…ってことはまさに今から王妃と王子(背後のエマニエル)は悪辣な暴走を始めるってことじゃないか!
何より問題なのは…このままならあとたった三年で再びウルリッヒ様は生命の枯渇を起こしてしまう!
…って待てよ…?
今現在の状況を整理しよう。
僕の顔はウルリッヒ様でウルリッヒ様は僕になってる。じゃぁ…〝再生の力”はどちらのもの?
「……えいっ!」ピッ!
「ちょ!エミル!何するの!」
僕は思いっきり自分自身を切りつけた。…訂正しよう。ちょっぴり自分自身を切りつけた。
するとどうだろう。腕に走る赤い傷跡は見る見るうちに消えて…
〝再生の力”は僕のモノ。つまり名実ともに今僕はウルリッヒ様だということ!
毎日更新を目指しています。
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