未来予想図
「北ルートで出した手紙そろそろ王城に届いたかな?」
「落橋からまだ二か月。まだだな。手紙には何と書いた」
「えーと…これ下書き」ピラリ
「どれどれ」
橋が落ちてソルトロードは使えません。
海岸沿いの一般路も土砂崩れで使えません。
《《王から印を賜った》》オズヴァルト殿下は《《王のお認めになった》》高貴なる王族。その一団を徒歩で北の山越えはさせられません。
なので橋が治り次第ご帰還いただきます。
そこで誓約書にある第一条項に沿って誓約有効期間の延長を求めます。どうかお咎め無きようお計らいください。
それまでは騎士共々西の神殿で面倒を見ます。神の加護はここにあります。ご心配には及びません。
かしこ
「煽るな…」
「そーお?すごく気を使って書いたんだけど」
「ふっ」
南西の海岸沿いにあるフランケン男爵の領地は確か東寄りだ。あれだけの大災害。何らかの形で報告はおこなってるはずだけど…
「早ければ半年後には返事が来るよね?」
「来たらどうする。快い返事とは限るまい」
「あれだけ堂々と西の諸侯を訪ねてまわってるし…どうでるかな?」
向こうには策士エマニエルが居る。社交界を通じ騎士の動きが伝わればこちらの決起に勘づかれてもおかしくはない。
「そうだな…王は黙っていまい」
「どうせ橋が直らなきゃ手は出せないんだし心配いらないよ」
「いや、そうか…」
「何?」
「私の読みでは私と騎士の滞留許可は出ると見た」
オズヴァルトはこう続けた。
西の神殿に留まり、もし暑期に病で自滅すればそれでよし。
そうでなくもとも、宮廷は身動き取れないこの期間を利用しようと考えるだろう。
動きに気付かれていない、こちらにそう思わせ油断を誘いながら、西貴族の切り崩し、兵の召集など水面下で反乱制圧の準備に入るのではないか、って。
「王の手口ならあの内乱の折に多少の覚えがある。王は二度と逆らう気をおこさないよう先ずは心を砕くのだよ」
「いきなり最大戦力を見せつけて敵の戦意を失わせるってわけね」
「王妃にとっても私が反旗を翻したとなれば既に誓約など意味をなさない」
「むしろ勝手に私兵を動かせば王の戦略を邪魔しかねないってことか…」
けど僕たちにとってはまさにおあつらえ向き。
これは東で病が蔓延する前提のもとに成り立つ計画。
「橋の無い現状で病はいつ誰が運ぶのだろうか」僕の爆破計画を聞いた時にオズヴァルトが口にした疑問だ。
だから僕は敢えて騎士の動きを隠さなかった。
前世軸だともう少ししたら火薬が発見されるはず。僕たちの反逆を勘ぐったなら、王は間違いなく火薬武器で西の賊臣を脅そうと考えるだろう。
であれば決起前の今なら、北ルートだろうが何だろうが、グレーデン伯爵のもとにはヌケヌケと王から勅使が来るはずだ。一刻も早く硝石を送れ、と…
「北…いや、その頃には海岸沿いも馬が歩ける程度には復旧しているだろう」
大隊列じゃなければ馬の通れる細道があれば十分だ。
「いい?前世軸であの時期西から東へ病が運ばれたなら今回も必ずここで病は発生する」
「分かったぞ。その勅使を罹患させるのだな?だがそう都合よく罹るとは限るまい」
「やり方は分ってる」
前世軸のウル様が教えてくれたから。
「だから可能。唾液の採取さえ済めば罹患した西の誰かは僕が治す」
「なるほど…」
そして勅使は馬の背に乗せるだけ乗せて硝石を持ち帰るだろう。地に堕ちた王家を壊すための、鍵となる《《それ》》と一緒に…
蛇足だが、雨季に起こる蚊の大量発生に関して僕はすでに出来る限りの対策を講じている。水のたまりそうな不要な窪みの徹底撤去とか…ボウフラの天敵、ヤゴを池に大放出とか。
病の発生と拡大は別の問題だし、そもそも蚊は痒いしうっとおしい。
因みにヤゴの採取はここへ来る道すがらだ。抜かりなし!
ということで、乾期の終わりまでに十分な予防薬を作って、ここにいる彼らの実家には届ける予定だ。
前世軸であの伝染病が発生したのは夏に入った頃…つまりエルダーフラワーの咲く季節。それまでに予防薬を飲んでおかなくてはならない。
エドは申し訳なさそうに「リンデンの家へも届けてよいでしょうか」と尋ねてきたが、それを聞くのは僕じゃなく本物の息子だ。
ウル様は一日考えこんだあと自ら作った薬の包みをエドに手渡していた。
ほんと、…お人よしなんだから…
僕もお世話になった王城神殿の神官や修道士たちに送るつもりだ。
当然オズヴァルトも王妹王弟に送るわけだが、そこには「絶対王宮には知られないように」との一文が差し込まれる。
王城への手紙はいったん北の辺境伯に送られ、そこから辺境伯の名で届けてもらう。これぞ危機管理。僕は疑り深い男だ。
兄妹仲が悪かったわけではないブリッタ様はさぞお辛いだろう。
けど国を憂うのならば見限らなければならない。良い兄が良い国主とは限らないのだから。
そうなるとどうなる?
王と王子を失った宮廷には王家の血を引く統率者が必要になる。そこで王弟の出番だ。
王弟は物静かで理知的な方らしいが、所詮王兄の暗殺にビビって王族宮に引きこもった小心者だ。統治者には若干不向き。けど一都市を任された知事としてなら十分力を発揮できるだろう。
アードラスヘルムにはアルトゥールしか王子は居ない。
王妃は王太子アルトゥールの代わりは必要ないと考えていたし、第二王位継承者はアルトゥールの子であるべきだとも考えている。
その意を汲んでか恐れてか、第二妃第三妃には女児しかいない。
男児はことごとく死産と報告があったらしいが、そんな呪いのようなこと起こるはずがない。
多分私兵が暗躍したか、もしくは秘密裏に出産を済ませどこかへ養子に出しているのかもしれない。
僕はその両方じゃないかと思っている。神官長に聞いた話では、第二第三妃は僕たちが王城神殿に上がる前、順に半年ほどの里帰りをしていたことがあるという話だ。
王の後継を得るための後宮なのに姫しか居ない。なんの冗談だろう。
けど後継者がアルトゥールで終わりなのは実に都合がいい。
新時代、国の中心となるのはこの西側、いや、この神殿都市だ!
ここまで整って初めて西と東は手を携え一つになる。
「…そこまでいってもまだ懸念は残されているが…」
「んー、何の話しかな?」
「ウーリ、未来を手に入れるのが私だけでは意味がない」
これは僕の生命力枯渇のことだろう。正直…王城を出てからあの力はウル様にしか使っていない。
けど目の前で大事な人に何かあったら…
僕は躊躇しない。




