発展的会合
「ウル様…元気そうで良かった」
「エミル…ああエミル…会いたかった…!」
閉め切った部屋でようやく感情が溢れたのは僕とウル様、ほぼ同時だ。ウル様の瞳からは涙が止まらない。
「ウル様、両親のことありがとうございます。あそこで何してたんですか?」
グス…「父さんと母さんでパンを焼いて売ってたんだよ。ギーレン領都は窯のない家も多いから」
〝父さん母さん”…か。当たり前だけど変な感じ。
「母さんのパンは美味しいもんね」
「お店…残念だったな…。順調だったのに」
「ウル様…一緒に西へ来てくれる?西の神殿…嫌じゃ無ければ…」
「嫌なはずないよ。嬉しい!また一緒に遊べるんだ…う…」
また号泣。どうしよう。このままじゃウル様がパサパサになっちゃう!
コンコン
「ウーリ、神子ウルリッヒ、エドが来たようだ」
オズヴァルトの声に一瞬引っ込む涙。いよいよか…
これで事実知るべき人物は揃った。
僕、オズヴァルト、エミル(ウルリッヒ様)、エドウィン。
時は真夜中、日をまたいだ頃。
何から話そうか…
ウル様には馬車の中でオズヴァルトから、エドウィンの手紙がすでに手渡されている。
手紙の内容に困惑したウル様は、エドウィンと目が合うたび逸らしたり…僕の後ろに隠れたり…
自分の顔が二割増し可愛く見える…、いや、三割…ううん、五割か…
となれば先ずはエドウィンに僕とウルリッヒ様の秘密を明かすところから。
前世軸で行われた王子アルトゥールの非道さに、エドはエミルの顔を見て痛ましそうに表情を歪めている。
「…ま、さか…、そんなことが…」
「本当。だからこの入れ替わりと巻き戻しはウル様を憐れんだ神の救済だと僕は思ってる」
「そう…かも知れません…。いいえきっとそうなのでしょう。こんなの…ウルリッヒ様があまりにも報われない!」
あの手紙だけじゃなく、一か月を共にした道中でも感じていたけど、エドヴィン、彼を一言で表すと『兄想い』それにつきるだろう。伝わるといいな。ウル様にも…
「だからエド、腰を落ち着けたら調べたことひとつずつ教えて欲しい」
「もちろんです!そのためにここへ来たのですから…」
未だ瞳を潤ますウル様の隣へ移動するエドヴィン。背中に触れる彼の手をウル様は黙って受け入れている。
彼の顔立ちは少し旦那様を思い出させる。けどここにいるのは兄の為に涙を流す心優しき少年でしかない。
「己の命を懸けた復讐…か。だから躊躇なく斬られたのか?まったく君たちは…」
呆れたようなオズヴァルトの口調。しまった!肝心の謝罪を忘れてた!
「ウル様!お昼は酷いお願いをして本当にごめんなさい。怖かったでしょう…?」
「ううん。死ぬのは二度目だもの、怖くなんてなかったよ」
人生二度目の僕たちは少し怖いもの知らずだ。反省…
「まったく無茶をする…」
「だって合法的に足止めするにはあれくらいしないと無理だと思って…」
「エミル…僕は一日だって君のことを思わない日は無かった。僕の苦難を全て君に押し付けて…君が…君があまりにも気の毒で…君の役に立つならあれくらい何てこと無い」
「泣かないでウル様…僕は気の毒じゃないよ?ほら見て!」
「神子ウルリッヒ。神殿は彼の天下だった。安心するがいい」
横から援軍。オズヴァルトも涙は苦手らしい。
「ふふ、王城神殿にひっそりと咲く〝癒しの神子”がオズヴァルト様と王城を出ると噂が流れてきてどれ程驚いたか…開いた口が塞がらなかったよ」
ほっ…、再会からずっと泣いてたウル様がようやく笑った。
いやー、自分の顔だけに儚げなのは…ちょっとね。モゾモゾする。
「君の世話係は実に聡く忠義に厚い。彼を一人占めしていた君が羨ましいよ」
「は、はあ?オ、オジー?」
「私にもウーリのような存在が欲しかった。心底そう思うよ」
「オジー、買いかぶりだって…」
だって僕はウルリッヒ様を護れなかったんだから…
オズヴァルトは奇跡を手にした僕しか知らないからそう思うんだって。
「オズヴァルト様、今しばらく彼をお貸ししますからこれまでの鬱憤どうぞお晴らしください。エミルは愉快ですよ」
ウ、ウル様?これ褒め言葉…でいいんだろうか?
両親に本当の事を話すかどうか、それはウル様に委ねるって僕はそう決めていた。だって今はウル様がエミルなんだから。
「エミル…彼らにはまだ秘密にしていたい」
そうだよね。うちの両親ってばほんとの事知っても隠し事とかうまく出来ないだろうし。
けどウル様が続けた次の言葉は想定外で、殊の外エドに刺さったようだ。
「ごめんね。でももうしばらく彼らの息子でいたい」
「え…?」
「エミルでいれば彼らは僕に軽口を言ったり悪さをすれば叱ったりしてくれる。一緒に火を起こして粉をこねて…雷が怖いと言えば間で寝かせてもくれる。それが僕は嬉しくて仕方ない」
ウル様…僕の顔で雷なんか怖がっちゃったのか…
「事実を知れば彼らはまた畏まってしまう…」
耐えきれなくなって嗚咽を洩らし始めたエドウィン。
そこへいくと僕は…しばらく両親に「ウルリッヒ様」とチヤホヤされるのも悪くない、そんなことを真剣に考えていた。
「なにオジー?」
クス…「いや、両親を騙すのも面白い、そんな顔をしていたのでね」
何故バレた…
その後、場を仕切ったのはオズヴァルト。彼は終始冷静だ。
彼は使いどころが無かっただけで、ブリッタ様から十分な王族教育を与えられている。
つまり人心掌握術は身につけているし弁も立つ。
「では改めて計画を共有しよう。聞いて欲しい。エミルの智謀その全てを」
ウル様は僕のヤンチャな対アルトゥール戦をいたく気にいられたようだ。
彼は終始声をあげて笑っていた。
「しー!しー!ウル様、今夜中だから!」
「フ、クク…だって…」
「いやわかるともエミル。私も全容を聞いた時は腹を抱えて笑ったものだ」
その意気投合要らないから。
「わかるね。私たちは西の地で新たな国を興すつもりだ。神の望んだ正しき国を取り戻す」
デカすぎる話にウル様はたじろいでいる。エドヴィンは震えるウル様の手をそっと握った。
「ウルリッヒ様、いえ兄様。私がお支えします。どうか私をお頼りください」ギュウ
「エドヴィン…」
お?なんかいい兆候?
「残った二人をなんとかするのは僕の仕事ね」
あとは東西の分断、最大の大仕事が僕の任務だ。
「それでね、ウル様とエドには僕の試作品を見本に西へ着くまでに予防薬を量産して欲しいんだけど…」
神殿に居たウル様も学校にいたエドも調薬の基本は分かるはず。
「お任せください」
「エミル、材料は?」
「抜かりないですウル様」ニヤリ「僕の家財の引き出しの中に…」
王城神殿からがっつり当座の分は拝借済みだ。もちろん無断で。
「オジー、残りの道中で貴公子たちを掌握して。出来たら心酔させてほしい」
「難しいことを言う…。私はそもそも人の世にはじかれたはぐれ者だといいうのに」
「その代わりお手本にしたのは道徳的な王妹ブリッタ様と理知的な王弟リュディガー様でしょ。オジーならいけるって。根拠はないけど」
「その信頼に応え必ずや彼らの心を掴んで見せよう」
「あれっ?自信満々?」
「ああ当然だ。私には君という根拠があるのでね。君が居れば何もかもが可能に思えるよ」
「ばっ!」
ちょ、やめて!
隙あらば差し込まれるオズヴァルドからの真っ直ぐな信頼が最近僕はくすぐったくて仕方ない。足が地につかなくてフワフワする。
ん?なにか視線を感じる…
じいぃぃ…
何その目!やめてウル様、こっち見ないで。




