出発前夜
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
あれから二か月ほどたっただろうか。その後のことは結果だけね。
諸々の細かい取決めを行い、大移動の準備をしながらなんとか人々への布告も済ませ…、あとは明日の出発を待つだけっていう…今ここね。
壁を飾っていた宝石は全部外して全て手荷物として詰め込んだ。その数トランク四つ分。これが僕の、国から支給される手当(生活費)以外の軍資金となる。
神子とは無垢であるもの…、そんなクソみたいな理由でウル様と僕は今までにタダ働きを強いられてきたわけだが、文字通り魂を削って人々を癒している神子が無報酬はおかしいでしょうが!
もっともこれは、どうせ王城から出ない神子にお金は不要だし何より…すぐ死ぬから要らないでしょ?っていう身も蓋もない理由ね。
けど僕は今後も長生きする予定だし、よって日々の貢ぎ物として受け取ってきたこれらの物品は全て持っていくつもりだ。
これは王家との話し合いで、エマニエルの妨害にもめげず勝ち取った僕の権利である。
こうなると宝石をおねだりしていたウルリッヒ様には隠れた先見の明(後見の明?)があったと言うべきか。
そして裏庭の小動物。ウサギやリスを連れてけないのは心残りだが、彼らはもともと水と餌の提供以外は裏の森で自由に暮らしている。神殿に居る修道士の中で、もっとも動物好きな男に「今後も餌やりよろしく」そう頼んでおいたので問題ないだろう。
あとは室内飼いの犬十匹、猫十匹は専用の猫用馬車、犬用馬車を用意して連れていくことにした。あ、あとロバも。
人の少ない西の神殿…癒しの動物は大切だ。
西への道は『ソルトロード』と呼ばれる立派な街道が切り開かれ整備されている。
距離こそ遠いが停泊の宿屋もあるし、北へ行った王妹ブリッタ様の、山岳地帯を進む道中より断然楽かもしれない。
ここで補足。ソルトロードの由来ね。
南西部の領は海に面してるんだよね。
海といえば…そう、塩だね。
それに僕が行く西の辺境でも中央部にある乾燥地帯では色んな鉱石が採れるんだって。
だから古の大移動の後も、それらを確保して運搬するためコツコツ街道だけは整備してきたってワケ。
本題に戻って…
随行者は王族一人、護衛五人。彼らは建前上、僕の神殿入りを見届けたら帰還ということになっている。けど…無事に帰り着くかは甚だ疑問だ。
そして僕の身の回りを世話する二十代から三十代の若き貴公子たち十余名。僕と共に駐留するのは彼らと神官だ。
こればかりは僕の予想をはるかに超えてきた驚愕の事実なのだが…
神官一名。これは何を隠そうカッパ禿げの現神官長だ!
「し、神官長どうして!もしかして癒しの依頼を減らしたことで王の不興でも買った?」
「無いとは言えませんな」
「断れるでしょう!神官長なら!」
「私は喜んでその要請を受けたのですよ」
「何故!」
僕はてっきり王家側が排除したい誰かに『神官長』の役職だけ与えて放り出すとばっかり…
それこそオズヴァルトだっていいんだし。
「神子ウルリッヒ。私はあの日猛省したのでございます。そして自戒いたしました。神子が魂の修練をされるのでしたら私めも同行いたします」
「神官長…」ジィィ・・・ン
新たな絆を確認。
あとの足りない人員は現地の領主に派遣を願えと書いてある。適当だな…。まぁ、くたばれ!って思ってるならこんなものか。
そうそう。大事な報告を忘れてたね?
オズヴァルトは無事随行王族に決定したよ。
彼は先ず一度目、王宮の慣例に従い打診された通常の公務依頼に対し
「私は王妹宮でのみ生きることを許された身。ここを出ればどうなるか。それは《《王妃殿下》》が一番ご存じのはずだ。こんな紙切れ一枚で保証された安全がどこまで信じられるか…官吏の皆様にもそれはお分かりだろう」
そう言ってきっぱり突っぱねたそうだ。
少なくとも王妃にはこれが暗に墓所での事をほのめかしていると分るだろう。
そして二度目、今度は王からの勅使が畏まって申し入れた王直々の公務依頼に対し、今度は僕の指示通り
「自分は王宮に母を持たぬ庶子。王の子ではあるが正式な王族ではない。私の供は神子への不敬、それは王への無礼も同じ。お引き受け出来かねる」
そう言って要請を慇懃に突っぱねたそうだ。
これに困ったのは王だろう。
何しろ僕の西行きはすでに決定、準備の段階に入っている。
だからって忌避される不浄の地〝西の神殿都市”に、由緒正しい本物の王族を同行させるわけにはいかないのだから。
そして王妃にとってもこれは全ての目障りを一度に片付ける二度はない好機!ここで引くわけにはいかないだろう。
王と王妃はもしかしたらエマニエル…、いや、ここは堂々と宰相辺りか…とにかく誰かから助言を得たに違いない。そして…
「お前の母は子爵家の娘。つまり貴族位。庶子といってもその身に流れるのは高貴な血、市井の落とし種と同じように考えてはならぬ」
王は自ら王妹宮を訪ね、そう言ってオズヴァルトに今まで彼に持たせなかった王子印をついに手渡したという。
おわかりかな?
これで「オズヴァルトは正式な王子であり王族だ」と、王自らが認めたことになる!
王妃にとってはさぞ不愉快なことだろうが、オズヴァルトを王妹宮から引っ張り出すにはこれもやむ無し、と唇を噛んだに違いない。
完…遂…!
これぞ僕が望んだ最終地点!どーよ!
後はまあ…
護衛に関しては五人と聞いた時から「あの五人か…」と予想していたので言わずもがなだ。
そして修道士の代わりに西の神殿へ入る官吏十数名だが…
こっちも思った通り、内乱時に処罰を免れた、または降爵で済んでた家門の…家門の…えぇーーー!!!嫡男たち…だと?
はぁぁ?年老いた現役当主じゃなく未来ある嫡男んん?あわよくば断絶しろってか?ほんっっっとサイテーだな腐れ王家!
と、その時!僕の目に入ったのは末尾に少し開けて書かれている見覚えのあるひとつの名前。
「え?え?ちょっと待って!これって…神官長!しんかんちょーう!」
「どうなさいましたかなウルリッヒ様」
神官長をあごで使って申し訳ないのだが…すでにエマニエルは世話係ではなくなっている。この質問に今ここで答えられるのは多分神官長だけだ。
「ね、これ、こ、ここ、この人物って…」
「そうです。ご実家の義弟殿でございます」
ウソでしょー!!!そこに書いてあったのはエドヴィン・リンデン、ドローテア夫人の愛息じゃないか!
そしてその横には…『オスヴァルト王子殿下従者』と記載されている!
「なんで?王家からの招集?」
まさかあいつらこんな姑息な嫌がらせを!ワナワナワナ…いや別に?リンデン家は僕の家じゃないし?リンデン伯爵にもエドヴィンにもなんの感情も湧かないけど?それでもだよ!
「誤解召されますな神子様。これは確かリンデン家からの申し入れだったはずですぞ」
「は、はぁ?」
「かような事態になったのは当家の不手際、責任を取る。そう申して何らかの任をと願い出たようでございます」
旦那様側から王家への配慮か!それでエドヴィンを?でも嫡男だよ?生贄にしちゃ犠牲デカくない?
いくらなんでも旦那様は何を考えているんだろう…次男が産まれたからもういいやってこと?それはそれでひどくない?
…ええい!考えたってわかるもんか!この件は直接本人に聞く!要確認で!
毎日更新を目指しています。
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