最後の大仕掛け
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
さて、ここまできたら最後のエサをご進呈…っと。
上等なエサだ。かかれ…かかれ…かかれ…
「あーもう!ここまでコケにされて僕の方こそ二度と殿下の顔なんか見たくない!この不誠実な浮気者!」
「は!なんとでも言うがいい!」
「思いのほか中身空っぽだし…良いのは顔だけじゃない!」
「何だと!」
顔だって僕はこんな軽薄そうなの好みじゃないけどね!
「いいですよ!こっちこそこんなところ一分一秒だって居たくない!あそこは凄く立派な神殿だっていう話だし、静かな西で心の傷を癒します!」
「プッ、再生力でか?」
「あははは!癒しの力はそんなものまで治癒するのですね!初耳ですが!」
ムッカー!まあいい。言ってろ!
奴らは常に僕を〝いくら小賢しかろうが所詮十三の世間知らず”と侮っている。これは僕の持つ大きな武器だ。
だって僕の中身は《《人生二度目》》の、それも小賢しいエミルなんだから!
「でも一つ条件があります」
「なんだと?この期に及んでまだ我が儘を言うつもりか!」
そうだよ!このウルリッヒ様、王城最後にして最大の我が儘をね!
欠陥品でも神子は神子。もしも神子と王家の関係に不穏さを感じとれば、ナンナー家から責められるのはリンデン家だろう。神子の系譜に泥を塗る気か!と、…これこそが最後の仕掛けだ。
「おや?父は父、子は子と仰ったではないですか」
「そういう単純な話じゃない。これは今後生まれるかもしれない傍系神子に関わる極めて深刻な問題だよ」
「どうせ先に死ぬから関係ないのでは?」
「…」イラッ
…いちいち揚げ足とるな!
とにかく僕の要望とはこうだ!
「これが王家と僕のあくまで円満かつ高尚な考えに基づくものであると誰もが納得するよう、王族を一人、西の神殿に入るまで見届け人として同行させてほしい」
「お、王族を…だと?」
「誰でもいいよ。なにもアルトゥール殿下に来いなんて言ってない」
むしろ来るな!
「いや、だが…」
「なんでも歴史的価値の高い神殿なんだって。ついでに見てけば?」
「そ、それはそうだが…」
「王妹殿下は王の名代で北の辺境まで出かけたじゃない」
「あ、あれは叔父上の葬儀で…」
「道中有力当主を訪問するんだってね?西からの帰りもすればいいよ。巡幸は大切な公務でしょ?何か問題が?」
「…」
問題だらけだろう。なにしろ西の神殿は広く知られていないが…ニヤリ、入ったら死ぬと思われている禁忌の地なのだから!
「王妹…、待ってアルトゥール!」
か、かかったー!
よしよしよし!でかしたエマニエル!
こういう簡単にはわからない巧妙な誘い水ってバカには通じないんだよね。
アルトゥールみたいな。
そこへいくとエマニエルはさすがだ。
これが王妃のご機嫌取り、それも最上級のご機嫌取りに繋がるかもってすぐ見抜いたんだから…
ああそうそう。あの深夜の攻防に僕が噛んでることは気付かれてないからね!抜かりないよ!
「いいでしょう。その要望は王妃殿下にお願いしてみます」
「エ、エマニエル…」
「よいではありませんかアルトゥール。僕に婚約者を奪われた哀れな子供のこれが最後の我が儘。そのくらい聞いて差し上げても」
「だ、だが西は…」
「西は遠い、確かにそうですね。アルトゥール、それも含め王妃様に相談いたしましょう」
ほんとにアルトゥールはバカだな。エマニエルが余計なことを言わせないよう必死じゃないか。
こう言っちゃなんだがウルリッヒ様だけじゃなく、エマニエルはどうしてこんなバカが好きなんだろう?顔?ああ権力か!
こうして二人は言いたいこと言って王宮へと戻っていったが…
恐らくエマニエルは今から王妃にこう進言するだろう。「オズヴァルトを王城から追い出し始末する良い名目が見つかった」と。
そして王妃はその進言を受け、僕の随行王族にオズヴァルトを指名するだろう。
オズヴァルトは王の子。王族にほんの少しかすっている。
そして西の地までは手を出さないはずだ。だって僕が居る限りその攻撃は不毛だから。
後はお察し、西の地に放り出すのか…それとも帰路で狙うのか…
だがいずれにしてももう一声だ!こうしちゃいられない!手紙を送らないと!
「オズヴァルト様、庭に犬が迷い込んでおりまする…」
「犬?こんなところに?山犬か?」
「いいえ。あれは恐らく高価な飼い犬。犬猫と言えば今代の神子は神殿内に多くの犬猫を飼い入れておりますな…」
「…ではその犬はウルリッヒからの使者。招き入れよ!」
あの奇跡のような一夜から早やひと月近くが経とうとしている。
ウルリッヒは「僕が仕向ける」「また連絡する」そう言ったが以来音沙汰はない。
私は彼の考えを読みかねていた。
そんな時、庭に迷い込んだいかにも賢そうなシュナウザー。彼は白と黒の犬毛の間から何かを覗かせている。
私はそのシュナウザーを抱きかかえ、執事にヤギ乳を用意するよう申し付けると私室へ戻った。
「これは…ふふ、荷を背負っているのか。どれ…」
犬が背に乗せた筒のような荷物。そこには丸めた手紙が収められていた。
オズヴァルト
その後いかがお過ごしですか?
僕は絶好調です!
王妹宮に王妃からあの夜の確認があったことはすでに王妹宮の庭師見習いからうちのロバ係が聞いて知っています。
何食わぬ顔でとぼけたらしいですね。上出来です。
本題に入ります。
僕は近々精神修養のため西の神殿に神殿替えすることになりました。
その流れでそちらへ王宮から「随行の依頼」があることと思います。
「随行の依頼…?」
これは僕が条件に出した旅のお供のことです。何故こうなったかはまた今度。
王宮側からの依頼であれば、恐らく往路の安全は王の名のもとに確約してくるでしょう。
向こうは西の神殿にあなたを捨てるか、もしくは復路で仕掛けてくると思います。だから王宮の依頼書はきっと王妃の策略によって、往路の約束しか保証されないような、巧妙にごまかされた文章になっていると思います。
けどそこはどうでもいいことです。
ここで肝心なのは一度突っぱねることです。間違っても尻尾ふって二つ返事で受けちゃいけませんよ。そんなことしたら少なくともエマニエルは何かに勘付くでしょうから。
なのでこう言ってください。
「自分は庶子。王の子ではあるが王族ではない。私の供は神子への不敬、お引き受け出来かねる」
と。
「なるほど…」
どうせ始末するつもりでいるなら、王妃はあなたをその王妹宮から出すことこそを優先するはずです。何らかの形であなたは王族としての地位を認められるでしょう。
それを以てようやく依頼を引き受けてください。「父の愛を感じた」とでも言っておけば引き受けても違和感はないはずです。王宮側にとってもこれは美談。市井への宣伝にもなりますし。分かりましたね。
「…そういうことか…大したものだ…」
ああそうそう。この子は王妹宮までのお使いを想定して以前から訓練していた神殿一の賢い子です。ご褒美に乾燥肉を与えてくださいね。
「いつの間にそのような…。爺や!爺や!」
「何でしょうオズヴァルト様」
「乾燥肉を持て」
「ただいますぐに」
ウルリッヒ…憂いなく彼と話せるその日が実に楽しみだ。
毎日更新を目指しています。
お星さまをぽちっとしていただけると大変作者の励みになります(;^ω^)




