計画の集大成
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
「ウルリッヒ様…いったい僕の私室で何を…」
「神殿は僕のもの。ならエマニエルの私室も僕のもの。違う?」
「ち、違いませんがこれはあまりにも無礼。すぐに出て行ってくださいませ」
「…こんなもの見つけちゃったんだよねぇ…」
「そ、それは!」バッ!
サッ!「おっと!」
ある日の昼下がり…僕が居たのはエマニエルの私室で僕が見つけたのはアルトゥールの瞳を模した…サファイアの指輪だ。
間違いない。これはアルトゥールからの贈り物……って知ってたんだけど。前世軸で見たから。
そもそも、ウルリッヒ様が気付いていなかったエマニエルの存在にどうして僕が気付いてたか。
それは僕がウルリッヒ様について王宮に出入りするたび、人気のないとこ、人目のないとこで何度も盗み見たからだ。アルトゥールとエマニエルの密会を。
けど僕はウルリッヒ様にそれだけは言わなかった。あんなクズでもウル様の想い人。あれ以上傷つけたくなくて…
王家のゴシップを集中的に集めだしたのは最初にそれを見た時からだ。いつか何かの役に立てば…そう思って。
…結局前世軸では使えなかったけど…、だからこそ僕は今世で、初めからずっとエマニエルを意識してた。
全ては僕の計算通り…ニヤリ
「これって…殿下から頂いたの?」
「い、いえ。それは自分で買い求めました」
「へー?そう?」
「そうです。さあ、お返しください」
「いやだ」
「なんですって!」
「自分で買い求めた?ウソばっかり」
「噓じゃありません。早く返して!」
「あのねぇエマニエル。僕が知らないとでも思ってるの?
「何をでしょう」
「指輪の内側に掘られたこのマーク…、これアルトゥールが持つ王子印じゃん!」
「!」
王、王子、王妃をはじめとした王宮に住む王族はみな、それぞれに個人の印を持つ。これは貴族家の家門印とおなじ意味を持つものだ。
つまり王子の印は王子を示す。他人は決して勝手に使用することは出来ないから(法的に罰せられるよ)これがエマニエルのものならアルトゥールが贈ったってことになる。そして…
「もし本当にこれがエマニエルの買ったものなら、エマニエルは王子印を勝手に掘った罪で罰せられるね」
「ち、ちが」
「じゃあアルトゥールが婚約者の僕にも渡していない指輪を世話係であるエマニエルに渡したってこと?」
「そ、それは…」
「さすがあの王の血を引く王太子、やることが同じ、よく似てるよ!」
わかる?これはオズヴァルトのお母さん、元侍女のゾフィー嬢のこと言ってるんだよ。
これはこの王城内においての禁句。大きな声では誰も口にしない王妃の汚点なんだから。
「そ、そのようなことを…」
「何?僕はこの国の唯一無二。偉いんだよ?」
「この怖いもの知らずの愚か者が…」
「文句があるならアルトゥールを連れて来て。それまでこの指輪は僕が預かっておく」
カッカッカッ…バタン!
ここまではよし。
エマニエルは一部始終を王妃に伝えるだろう。もしかしたら王の耳にも届くかも知れない。
王妃はただでさえ墓所の件でうっぷんを募らせている。そこにきてこの言いぐさはとても看過できないだろう。
王は王で、静かな湖面に石を投げ入れる僕の発言にいい気はしないだろう。たとえ僕が癒しの神子であっても。だってすでに僕は良い道具ではなくなっている。
かと言って、僕には最後の砦、神官長がいる。このために僕は神官長だけは本気で怒らせないよう、一応最低限の責務は果たしてきたのだ。
…だからこその〝西の神殿”。
癒しの神子とは、《《神殿に》》おいて神に護られ、《《神官長の》》管理のもと奇跡を人に分け与える、そう決められているが、何も《《王城の》》、と決められている訳ではない。そこに神殿があり神官が居さえすればいい。
彼らの中で西の神殿はすでに選択肢のひとつとなっているに違いない。
あとは最後の決断をするだけ。カモンアルトゥール…
バアァァァーン!!!
壊れそうな勢いで扉をあけ放ったのは、言わずと知れたアルトゥールだ。彼は日焼けとは無縁の白い肌を真っ赤にしながらズカズカと僕の目の前に立つ。
「エマニエルの指輪を返せ!ウルリッヒ!」
「おやおや、これは浮気者の婚約者じゃないですか?」
「黙れ!指輪はどこだ!」
「ここに。僕の指に」
バッ!
乱暴に引き抜かれるサファイアの指輪。その勢いで僕は尻餅をついた。
「いったいなぁ…」
「ちょうどいい!そのまま跪いていろ!以前より思っていたのだ!貴様には王太子たる私への敬意が足りぬと!」
「当たり前じゃないですか。僕は癒しの神子なんだから」
「はっ!欠陥品がよく言う!これだから傍系神子は駄目なのだ!」
いうに事欠いて何が欠陥品だ!そりゃお前だろ!
「傍系を馬鹿にしたら神官長に」
「言いつけるか?やってみるがいい」
「ふふ、ウルリッヒ様…今頃神官長のもとには王からの勅命が届けられているのですよ。そしてそこにはこう書かれています」
「勅命…?」
「教えて差上げましょう」
ドヤ顔のエマニエル。その内容とは要約するとこうだ。
『十の歳まで只人として過ごした傍系神子ウルリッヒは魂の修練が足りぬ よって神殿替えを行い成年となる十六まで西の神殿にて精神修養を命じる
その間新たな癒しは受けられぬが、我々にとってもこれは修行 これも神の導きと心せよ』
追い出す、とか罰する、とかの文面だったら神官長、もしくは大司教あたりが黙っちゃいないだろう。
けれど二年間の精神修養、それも宮廷にもデメリットのある神殿替え。これは痛み分けだ。
そして僕の〝癒しの軽減”は教会へもナンナーへもすでに何度も苦情が入れられている。
実質、僕がここにいようが西にいようが教会に大して損はない。
となると大司教はこれを了承するしかないだろう。
ってことで…
「なんで僕がこんな辺境に!悪いのは浮気者のアルトゥール殿下なのに!」ワナワナ
「それなのだが…ハハハ!たった今を以て私とお前の婚約は解消させてもらう!」
「えぇっ!」
「お前のような可愛げのない者を誰が正妃になどするものか!我が運命の相手エマニエルに対する悪辣な行いの数々…断じて看過できぬ!」
「…」フルフル…
アルトゥール、お前…
「…ウルリッヒ様の涙ですか…。フフ、こんな珍しいものが見れるなんて…アルトゥール、素敵!」ガバッ
「エマニエル…」
お前ってばなんて出来の良い道化なんだ!これほど上手くいくとは思わなかったよ!
ここまできたら我慢の必要を感じないのだろう。目の前で抱きつくエマニエルに目尻を下げるアルトゥール。ホント似合いの二人だよ。
「なに、対外的には「神子は魂を高めるため自ら婚約の解消を望んだ」ということになる。神子は民草にとって心の支え。名誉は傷つけぬよ」
「ここにもう味方はいませんよ。諦めて西の神殿に引っ込みなさい!」
ああ!誰に分るだろう?この達成感!嬉しくって涙が止まらないや!!!
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