迎えた正念場
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
「もう三時か…外が暗いうちに僕はもう行くよ」
「…送らなくていいのか…」
「平気」
「ウルリッヒ、私はこの後どうすればいい」
「何もしなくていい。全部僕が仕向けるから」
「ふ…、心強いな」
「じゃあまた連絡する」
「ああまた。また会おうウルリッヒ」
こうしてオズヴァルト最大の危機は一旦回避したわけだが…ここにいる限り同じことだ。
今回の墓守がそうだったように、オズヴァルトの姿を王妹宮以外で見かけた場合、密告すれば謝礼が出るというのは使用人の間では知られたことだ。
王妹宮を出たと知れればオズヴァルトの居場所は必ずバレる。彼は卑しい監視人によって包囲されているのだ。
そうして見つけさえすれば王妃は首尾よく事を運ぶのだろう。だって殺った理由なんて後付けで何とでもなるんだから。
王妃が王とオズヴァルトの面会を許さなかったのは、親子の情を芽生えさせない、その意味ではかなり成功している。
これは前世軸で本物のウルリッヒ様が何の気なしに聞いたことだが、「庶子とは言え我が子が王妃に命を狙われていることをどう思うか」そう聞いたウルリッヒ様に王は、「王族宮では手を出すなと王妃には厳守させている。あそこを出なければ問題にもならぬ些末なことだ」そう言ってのけたらしい…はー…駄王め…
今回、私兵が「墓所にはいなかった」と証言し、且つチクった墓守が姿をくらましてる以上、残念ながら王妃は深追い出来ないだろう。
そこにオズヴァルト本人が見え見えの態度で「ここに居ましたけど何か?」とかやったら王妃の怒りは倍増するに違いない。
『出し抜かれた』『笑い者にされた』あの王妃なら必ずそう感じるはずだ。
となったらあの短絡的で激情家の王妃なら次はどうする?
間違いない。なにがなんでもオズヴァルトを排除しようと、今まで以上にムキになるはずだ。王に物申せるブリッタ様が戻られる前にと。
けれど王妹宮は王命で護られている。そうそう何度もオズヴァルトを狩猟場へ誘き出せるだろうか?
…王妃は苛烈だが頭の回るタイプじゃない。それは今までの過去が物語っている。
王妃の手口とは、気に入らない人物がいれば有無を言わせぬ権力で潰すか、または己の手足である私兵に抹殺させる、それがいつもの定石。
そこに今までにない演出が加わったのは、そう!黒の知将、エマニエルの参画によってだ!
今世軸の対ウルリッヒ戦において奴の暗躍はほぼ無効となっているため分かりにくいだろうが、エマニエルはとっくに王妃の信頼を勝ち取っている。
例えば第二妃。その華やかな美貌と洗練された美的センスに敵愾心を隠さない王妃だが、相手は王のお気に入りである第二妃。下手な真似をすれば王の不興を買う。
その第二妃の鼻をあかすべくエマニエルが提案したのは王妃の評価をあげながら第二妃に恥をかかせるという、なんとも計算高いものだ。
第二妃の鼻を明かせたことに王妃は今までにないほどご満悦だったという。
ともあれ参謀はエマニエル。なら僕が考えるべきは、エマニエルならどうするか、ってこと。
エマニエルは王妃と違い直接的な手はくださない。
オスヴァルトを王妹宮から追い出す狩猟犬がエマニエルで、ノコノコ現れたオスヴァルトに矢を放つのが王妃だ。
現在エマニエルはどうにか僕を病に侵させようと悪戦苦闘の最中だ。
けれどこれという決定打を打てずエマニエルは手ごたえを感じられないでいる。
彼は焦れているだろう。そしてこのままじゃ埒が明かないと苛立っているだろう。
僕は神官長から持ち込まれる、《《選別された》》正規の依頼だけはお利口に受けている。これではいくら数が激減したとは言っても糾弾するには至らない。
僕がここにきてから半年以上が過ぎた。このままでは結婚可能な十六まであとたった二年。
どうするエマニエル。状況は揃った。ならこれでどうだ!
「エマニエルー!エマニエルー!」
「なんでしょうウルリッヒ様」
「僕から個人的に各神殿へ季節のご挨拶したいからご進物の手配してくれる?」
「各神殿…ですか?」
「うん。国中全部の。一か所残らず」
「畏まりました」
そして数日後…
「あれぇエマニエル。これ…贈答リストだよね?」
「ええそうですが」
「ナニコレ手抜き?全部じゃないじゃん!」
「…手抜きだなんて…。僕は手抜かりなく手配しました。人の居る神殿はそれで全てです」
「他は無人なの?」
「ええ。移築により放棄された神殿であったり朽ち果てた神殿であったり…」
「…《《西の神殿》》には修道士居るんじゃないの?人が住んでるって聞いてるけど?立派な神殿なんでしょう?」
「人が居るって言ったってあれは…」
答え始めた途端、何かに気付いたのだろう。ハッとして口をつぐむエマニエル。
「お、お待ちくださいウルリッヒ様。すぐに手配しなおしてまいります」
走っていった先は王宮方面。多分アルトゥールに、たった今思いついたご機嫌な思い付きを相談に行ったのだろう。
エマニエルには今の一言で、僕が西の神殿に詳しくないと印象付いただろうから。
西辺境はこの王城がある東側から最も遠い。移動には二か月前後を要するという。
さまざまな理由から西の辺境と王城含めたこの東には、今も昔も大した交流は無い。
この東で西の神殿、その歴史について知っている人などさほど多くない。
せいぜい人も住めないほどの辺境、その程度の認識だ。
王族…聖職者…国の重鎮などはもちろん知っているだろうが、貴族位でも他領に関心のない者、まして平民位はほとんど詳しいことなど知らないだろう。
それほど西辺境は東と関わりを持たない閉鎖的な地域だ。
けれどエマニエルは知っている。彼はここに来た当初「神殿について何も知らない素人が僕に仕える気?」と、煽られているからだ。ぼ・く・に。
むしろ今では僕のことを、口だけの何も知らない愚か者、と笑っていることだろう。
奴らは現在三人で悪だくみの最中だ。あとは王を説き伏せればいい。僕を西へ送ればほんの一、二年の不便は強いられるが…、そのほうが早く《《使い勝手の良い従順な神子》》が手に入る、と。
幸い今は内乱における粛清も終えたところだ。北の辺境においても、現在敵国レスプブリカは次の戦に備え長期の準備期間に入っている。
となればむしろ今のうちに神子を差し替えたほうが先々安心といえる。
賢いエマニエルあたりがきっと分かりやすく実数を並べ、どちらに利があるか王を説得するんじゃないだろうか?
ならば僕に出来るのは…決定打の提供!!!
毎日更新を目指しています。
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