巨神の奇跡
二度三度の擦り合わせを経て、今日は奇跡の解禁日。実演の日だ。
僕は既に三日前から山を越え現在無主地に居る。
因みに隣にはオズヴァルト。エドとウル様は危険だから留守番ね。
「行くのだなウーリ」
「うん。行って来る」
「本当に大丈夫なのか…」
「予行演習も済ませたから大丈夫」
この予行演習とは火花の確認ではなく本物の屋内爆発のことだ。
僕はここへ来る直前、人気のない場所にある無人の小屋をお借りして(返せないが)一度どころか二度お試し爆発を済ませてある。
「いいか。我々は建物内へは同行しないが中央線のすぐ近くで待機している。何かあればどうにかして逃げ帰るのだぞ」
「分ってるって!」
皇帝と神子の会談とあって本日この無主地全域が停戦となっている。
どちらの陣営もそれを破れば『己の国の尊き存在を危険にさらした』という罪によりその場で死罪だ。
そして僕は万が一を考え、昨夜のうちに、何とは言わないが補給も完璧に済ませている。
加えてこのサラリとした、一見何も隠せなさそうな薄布の内側に、実は小麦の粉を隠し持っていたりする。
準備は万端!さあいざ行かん!皇帝の待つ奇跡の舞台へ!
というわけでここは皇国側。荷物をすべて移動させた指揮官私室の前である。
この部屋は僕が「自然の脅威に耐えうる部屋を」と注釈を入れたためで、戦局を左右する指揮官の部屋はもっとも頑丈なつくりなのだとか。
因みに皇帝の部屋はない。普通来ないからね。
入室前にまずは身体検査から。
「こ、これは…」
シャラララ~ン
「なんと!神子殿は女性であられたか!」
柔らかな二つの小山。もうわかったね?僕がどこに粉を隠し持ったか。
中身が僕なせいで忘れられがちだが、ウル様は透明感のある大変美しい容姿をしている。
うっすら化粧を施すだけで本物の少女だ。
いくら入室前に身体検査と言っても、さすがに少女の、それも神聖なる神子の胸は触るまい。
「迎えにも出向かずすまぬことをした。何故かこちらには少年と伝わっておってな」
「いえ、そういうこともあるでしょう。気にしていません」ニコリ
おや?照れてんの?無骨な割に意外な。皇国兵は女性に不慣れらしい。
「うむ、よし。何も持っておらぬな」
「さあ、こちらに参られよ」
彼らは神の子に礼を尽くしている。
もしかしたら自国の神、巨神の因子も持ってるかもしれないってんだから当然か。
「皇帝陛下はすでに待機しておられる。中に入るが良い」
促されるまま扉の向こうへ進む。
室内には四隅に大盛りの炭。そして指定した通り三人の男性が並んでいる。
屈強な二人の男に挟まれた豪華な衣装のヒゲ面、そいつは中央に居た。
頭には円筒のような帽子。服装は赤地に金の刺繍が見事な丈の長いブリオー、肩からは黒のマントルをかけている。
これらはアードラスヘルムにおいて一昔前に着られていた服装に少し似ている。
歩兵たちは両陣営ともにチェニック、タバード、レギンスの組み合わせが多いのだから、皇帝のこの衣装は富と権力を誇示するためなのだろう。
「お前がアードラスヘルムの神子か」
「あなたが皇帝陛下ですね」
「よくも我が兵を、我が従兄弟を弄んでくれたな…」
「退いていただくため苦肉の策です。仕方ありません」
「そのような狼藉を働きながら我が神である巨神の力を騙るというか!」
「真実です。僕の神殿都市には古の出来事が刻まれ風化せず残されていますよ」
「むぅ…信じられるかそのような戯言!」
カーン!
鳴り響いたのは床を打つ杖の打音。
こいつ…マントルに隠れて見えなかったけどメイスを隠し持ってたのか…
それは豪華な装飾の施された、大司教の持つ司教杖にも似た短い杖。だが杖と言ってもメイスは殴打武器に分類される。
この会談において室内に武器は持ち込まない、それが約束だったのに!舐めてんのか!え?僕?…あ、あれは小麦の粉だから…
ええい!
「…あなたは神子に危害を加えるつもりだったのですか!」
「これは王笏の代わりよ!まさか本物を戦場にもちだすわけにはいかぬからな!」
ぬけぬけと…、ふん!けれどこれは好機だ。いろんな意味で大好機だ!
巨神の意思…、やっぱり巨神はレスプブリカを信仰の拡大へと導いている。
となれば…もはや勝機しかない!
「申し訳ないけど灰を検めさせていただきます」
「なっ!神子殿は我々をお疑いになるか!」
「神子との会見に武器を持ちこんでおいて何を言うか!」
口調を変えた僕に怯む護衛の二人。
「何かを隠していないと何故言い切れる!確認が終わるまでそこを動くな!」
気色ばむ護衛、それを制止したのは意外にも皇帝だ。
「陛下!」
「まあよい、好きにさせよ。小細工はしておらぬのだし堂々としておればよい。それよりもこやつの戯言を確認せねば…」
「陛下…」
「もしも本当に我らの神子であるのならば…」
《《我らの神子》》
はっは~ん。こいつ巨神の奇跡が事実ならこのまま拉致するつもりだな?
…バカめ。
やっぱりフォルスト候はこいつらの血筋だわ!拉致とか…とっくに間に合ってます!
先ずは前方二か所。
バサッ!バサッ!モクモクモク…
「ゴホゴホ!」
「神子殿!」
「何もないですね…」
「そう言っておろう」
「まだ二か所残っています」
さて後方二か所。皇帝、護衛を背に胸から出したとっておき、一番着火が早かった、良質な小麦の粉を灰に混ぜ込む。
バッサバッサッ!モクモクモク…
「あと一か所!」
バッサバッサバッサ! モクモクモク…
「うぇっぷ!神子殿!そのようにかき混ぜても何も出てきたりはせぬ!」
「お控えください!」
よし、粉は全体に行き渡った!
「…ないようですね」
「だから言ったであろう!」
「ですが巨神の国の皇帝に僕は失望しましたよ」
ヤレヤレと言った風情で嘲笑しながら煙舞う中を正面に戻る。
再度向き合えば不愉快そうに顔を歪ませる皇帝。
「失望…だと?」
「だってそうじゃないですか。ただの乙女である神子の僕が身一つでここへ来たのに、一国の皇帝が護衛に殴打武器。アハハハ!ずいぶん臆病だと思って」
「な、なんだと!」
「これじゃあ勇猛な巨人の加護もいつまでもつか分かったもんじゃありませんね。アハハハハ」
「おのれ!この皇帝たるわしを笑いものにするか!!!」
「神子に不敬を働く不心得者が何を言う!!!」
メイスを握りしめた!今だ!
ガァーン!
室内に飛び切り大きな音が鳴り響く。
重なり合った二つの金属音。
一つは皇帝の打ち付けたメイスの音。もう一つは…
僕のこすり鳴らした鉄板、火打石の音だ!
そして同時に…
ドゴォォォン!
皇帝の背後で起こった爆発。
次の瞬間、そこに立っていられたのは僕だけだった。




