巨神の奇跡 ②
爆風により、ところどころで出っ張っていた飾り柱はその形を失くしている。
高めの位置にあった明り取りの窓も粉々に割れ、この焦げ臭い室内に新鮮な空気を運んでいる有様だ。
苦しそうに呻く二人の護衛、その背中からはプスプスと火が燻っている。おまけに衣類は一瞬にしてボロボロで、ところどころ見える素肌からは真っ赤な血が流れている。
彼らは皇帝を庇うように重なりあっているが、下で押しつぶされている皇帝自身は何が起きたかよく分かっていないようだ。その表情はボー然としていている。
皇帝は巨人の奇跡、つまり自然の脅威をその目で見たいと望んでおきながら、いざ目の当たりにすると余りの迫力にビビリ倒したのだ。
「立てますか?」
「…」パクパク…
あ、ダメだこりゃ。腰抜かしてるわ。
扉の吹っ飛んだ部屋へ駆けつけた大勢の皇国兵。けれど血まみれの三人に対し無傷のまま、それも胸の前で腕を組んで仁王立ちになる笑顔の可愛い可憐な神子、という目の前の異様な光景をみて足を踏み入れる事に躊躇しているようだ。
「これは一体…神子殿は何をされたのでしょう…」
「あなたたちの皇帝が望むままに自然の脅威をお見せしたのですよ。少しばかり空気を爆発させました」ニッコリ
「だ、だがこれはあまりにも不敬!我らが皇帝に傷を負わせるとは!」
「では神子を捕えようとした不敬虔はかまわないとでも?」
サッと上げられる右手。それを見た皇帝は二度目の爆発を危惧したのだろう。とっさに叫んだ。
「ば、馬鹿者!奇跡の神子に何を言うか!皆下がれ!」
皇帝の視界に入るのは床を流れる護衛の血。おそらく彼はどす黒い煙を吐き出しながら爆発する、赤い川の流れる自国の山が脳裏に浮かんでいるのだろう。
「もう何もしません。入っても大丈夫ですよ」
そろりそろりと部屋へ入った兵士たちは壁際沿いに移動しながら、つまり僕を大きく迂回しながら怪我人に近づいて行く。
人をまるで危険物みたいに…、もう何度目だろう。この扱い。
フー「すみません。こんなふうに奇跡をお見せするつもりじゃなかったんですけど…ここまで神を侮られては黙っていられませんでした。神子にも感情がありますから」
「…」コクコク…
「そのケガ…良ければ跡形もなくお治ししましょうか?」
再生の奇跡に関しては多少の知識があるのだろう。皇帝はさっきまでの恐怖を忘れ顔を上げた。
「ですが僕の持つもう一つの力、バルデルスの〝再生”は《《その者の》》持つ生命力を消費して怪我や病を治癒します。それでも良ければですけど」
「そ、それは怪我を治す代わりに寿命が減ると言うことか…」
「そうです」シレッ
皇国民が真実を知る必要はない。ホイホイ当てにされても面倒だし。
当てが外れガックリうなだれる皇帝。それどころかそれを聞いた途端にジリッと僕から距離をとる始末。
なんだかわかりやすい皇帝だな。いつも腹に一物もってそうだったアードラスヘルムの前王とはえらい違いだ。
そーいえば皇国の性質って猪突猛進の単純筋肉だったっけ。
「で、ではかまわぬ。軽傷ゆえわしは衛生兵から手当てを受けるとする…」
「ふーん、じゃ護衛の二人はどうします?」
呻く護衛は一目でわかるほどの重傷を負っている。この二人は皇帝の信頼篤き忠臣なのだろう。
「な、治してやってくれ。頼む、いや、た、頼みまする」
皇帝は間髪入れずそれを懇願してきたが…
寿命が縮むって言ったじゃん。部下思いなのかそうじゃないのか微妙なところだな。
護衛二人が癒しを受け昏倒したことで、皇帝、そして皇国の兵たちには僕がどうやって南西の海で皇国兵を、皇帝の従兄弟を捕えたかが理解出来たようだった。
「さあ。早くこの護衛二人を連れて行ってあげなさい」
「は、ははぁ!」
護衛を抱え通りすがる一般兵はよろめき僕に触れそうになると「うわっ!」と叫び思いっきり後退った。
失礼なことこの上ないが、これではとても拉致しようって気にはならないだろう。
「陛下には僕が手を貸しましょう。どうぞお立ちください」パッ
「い、いいやそれには及びませぬ!」サッ
うわ…両手とも後ろにひっこめたよ…
「…危害も加えられてないのに吸いませんよ?」
「いやいやいや恐れ多い!」
両脇を支えられ立ち上がろうとする皇帝。僕は肝心な主張を畳みかけた。
「これは侯爵にも伝えたことですが再度皇帝陛下にもお伝えしますね」
「な、なな、なんであるか」
「僕の主神はあくまで神バルデルスです」
「だ、だがその力は我が国の…」
「この巨神の力は遠い遠い遥か彼方、神話の時代にちょっとした不測の事態によってアードラスヘルム国の始祖が受け継いでしまった力なのですよ」
「不測の事態…と言われるか」
これは皇帝的に不満なところだろう。自分たちの崇める神の力をまるで不本意みたいに言われちゃあ…
「アードラスヘルムはアードラスヘルムで内政に色々ありましてね。過去の神子はそれゆえに皆短命でした。それが収束しなんとか無事成人を迎えたことでようやく表に出た力、それが巨神の力です」
というのがウル様と寝ないで考えた(お昼寝ね)、今代の神子である僕だけが巨神の力を持つ(持ってない)、もっともらしい理由である。
「ですがどういう形であろうと二神の力を受け継いだのはまごうこと無き事実。僕と現アードラスヘルム国王はどちらの神にも敬意を払います」
だからこその巨神像設置。信仰の自由化だ。
「ああそうだ」
「まだ何か!」
「これで僕の力を巨神の奇跡とお認めになりますか」
ズザ!「も、もちろんでございます!」
叩頭する皇帝。もちろん兵たちもそれに倣っている。
「ではこれで証明はされましたね。僕はもう行きます。あなたも早く手当てを受けなさい」
「寛大なお言葉ありがたく…」
「不可侵の申し入れ、返答楽しみにしていますよ」
「…う、む…」
そして停戦命令をそのままに半月ほど待った頃だろうか。
再び辺境伯の屋敷へと戻り寛いでいた僕とオズヴァルトに届けられたのは一通の書状。
そこにはあと二、三の要望はあるが概ね申し入れに同意する、と記されていた。
「オジー…!」
「ああウーリ。これで何百何千年にも及ぶ争いがようやく終わりを迎えるのだ…」
爆破の神子の活躍により…これにて一件落着!




