知恵の連携
「それでエマニエルはどうだった?」
「うん。オジーの言葉がかなり響いてたみたい」
「ほう?」
面会を終え何度思い返しても、エマニエルのあの言葉を疑う気にはなれなかった。
きっと人より知恵の回るエマニエルは世の中を、人を、人生を舐めていた部分があるのだろう。(ちょっとわかる…)
だから一番大事なものを失って心底悔やんだに違いない。
「ならば良かった。たとえ囚われた罪人であっても救いはあったほうがいい」
「…」ポー…
ほんと人間が出来てるんだから。
こんな時、僕はつくづくオズヴァルトをファルセッティの子孫だと強く感じる。神の子ファルセッティはこんな人だったんじゃないかって思うんだよね。
だけどきれい事だけで人を信じすぎると、ファルセッティのように足元を掬われる。
だからオズヴァルトには僕みたいなのが側に必要なんだろう。
「思ったんだけど…」
「何をだい?」
「神バルデルスが罪人の生命力を弱った人に分け与えたのは、オジーが言うように罪人にも救いを与えたかったからなのかな?って」
「どういう意味だ?」
「最後に人の役にたてただろう?っ、ていうなけなしの救いだよ」
「…悪人が他人に命を差し出すことに救いを感じるかどうかは甚だ疑問だが…神の意図はそうかも知れぬな。さあウーリ、そろそろ静かに」
「あ…、うん…」
「私たちにも救いは必要だろう?」
「…」
もはや毎夜のお約束。
二人の時間はまだこれから。北の夜は長い…
そして二日後。
「さあ来たよエマニエル。良い策は出来た?」
「ええまあ」
あるのか…。本気ですごいなエマニエル。
何故その頭脳を商売人とか官吏になって活かさなかったのか。心底でそう思う。
そう言うとエマニエルは「僕の頭脳は清く正しいことには働かないのですよ。あなたと同じで」と笑ったのだが、なんか余分が付いてた気がする。
「まぁいいや。で?」
「…これは学生時代の出来事です」
エマニエルの話は何故か昔話から始まった。
「僕はある日教授から少々不本意な手伝いを頼まれました」
「ふんふん」
「彼はより強い小麦を作るための研究をなさっていた自然学の教授で、室内で小麦や大麦の粉をぶちまけてしまったというものでした」
「それ掃除しろって?まさかエマニエル引き受けたの?」
悪しき思惑のあった僕の世話係と違い、王太子の寵愛を受けてたエマニエルが部屋掃除?それも粉まみれになって?
ないわー…
「もちろん引き受けません。通りがかった別の学生にそのままお願いしました」
だよねー!
「足を怪我していたらしいその学生はブツブツ文句を言っていましたが足を引きずりながら教授の汚した部屋へと入りました」
つまり他の学生もエマニエルが王子殿下のお気に入りって知ってたわけか。
話が見えないな…、まだ続くのかなこの話。
「すると直後、まさに扉を閉めた瞬間部屋は爆発したのです」
「は?」
「まさにあなたの火薬爆弾のように」
「え!」
けれどその部屋には小麦の粉以外なんの可燃物も着火物もおいてはいなかったし、その学生も手荷物の類いは何も持っていなかったのだとか。
「が、学生は!」
「怪我は負いましたが生きていましたよ」シレッ
こ、こいつ!
「その話をアルトゥールは王の前でなさいました。すると王、いえ前王は「何による爆発か」と、たいそう興味を持たれたそうです」
「軍事利用できないか、だよね…」
「そうです。ですがアルトゥールはあっという間にその話を忘れました」
「あ…」
アルトゥールらしいな…
「そこで僕は王に取り入ろうと少しばかり自分で調べたのですよ」
ズイッ「なにが分かった!」
「大しては…。粉の舞う室内に火の気を持ち込むと時に爆発する…という程度ですかね」
は…!十分大した発見じゃん!何に役立つかはわからないけど…
「アルトゥールを通じて王にもお伝えしました。残念ながら到底兵器には出来ぬとそれきりでしたが」
前王…カカの国の火薬武器のほうが使えるって思ったんだな。
もっともあっちも硝石にたどり着けてなかったけど。
「どこかで皇帝とお会いになるのでしょう?どうにかして粉の舞う部屋を指定なさい。そして《《何もない》》その部屋で爆発させるといい」
何も…、埃のように舞う粉以外…ね。
「巨神は地下世界を司る神。そして皇国は火山を多く抱え、あの国で噴火は神の力と呼ばれています」
エマニエルが言うには、皇国はこの火山から様々な恩恵を受けているらしい。
火山の周囲には鉱物が集まり火山の灰は有益な肥料になる。
なによりあの力強い景観は勇ましい彼らの心に刺さるのだろう。
「ですが定期的に何もかもを燃やし尽くす炎と赤い川は繁栄の足止めにもなっているのですけどね」
「なるほど。だから安全なのに資源が豊富で土壌の肥えたアードラスヘルムにまで色気をだすのか…」
「いいですか、爆発は噴火を思い起こさせる。強大な自然の力、皇帝はあなたを信じ膝をつくでしょう」
ふんふんなるほど…って!
「ちょっと待った!着火は?肝心の部分を聞いてない!」
「フフ…、自分で考えなさい。目端のきくあなたなら気付けるはずです」
「で、でも…!」
「削った二年分です」
「な!」
エマニエルのケチ!
しかしこれは…
帰り道すがら僕はしみじみ考えていた。
「また爆発か…」
これは少々由々しき問題である。
これでは再生の奇跡より爆発の奇跡の方が印象付いちゃうんじゃないだろうか。
んん?爆発…倒壊…崩壊…
ああっ!神バルデルスって再生と崩壊の力を持つんだった!
あっちゃー…そういうことか。ならあってるじゃん!
くぅぅ!いっそ癒しの神子から爆破の神子に改名してやろうか!
「ウルリッヒ様ー!何ヘンな顔してるの?」
「あ、エミル…、なんでもないよ。それより楽しそうだね。どうしたの?」
「見てこれ」
クルクル~ン
「新しい上着?暖かそう」
「北の地の防寒着だって。羊毛なの。頂いちゃった」
「良かったねえ」ナデナ…
パチッ!
「あうち!」
「ああ…、この地は乾燥していますから」
エドが通っていた文法学校とは主として古代語を習う学舎だが簡単な科学も科目には含まれる。
「エド…。乾燥してるとパチッてなるの?」
「ええ。特に羊毛はこすれると起こしやすいのですよ」
「あのパチッていうのは何?」
「まだよくわかってはいないのですが…暗闇で見ると火花が見えますよ」
火花…
「あれ?エミル、それも貰ったの?」
「そう。羊毛のブーツだって。暖かいよ」
羊毛のブーツ…
温暖で湿度のある西の地には縁のない履物だが、東の冬ならこういった履物を好む人もいる気がする。
「ねえエド。文法学校って冬寒い?」
「校内ですか?ええとても。一つ一つの教室はともかく校舎内は開放的な部分が多いですからね。冬ともなれば半屋外のような所では外套を脱がない者も多くいます」
「羊毛のブーツは…」
「見目より実利を取るものは使用していましたよ」
あ、なんか…
羊毛の靴。足を引きずった学生。
こする…火花…火打石…
ピーン!
「分った!」
着火源は足元、火花にあり!




