北国での再会 ②
「ウルリッヒ様…」
「エマニエル久しぶり。元気だった?」
「おかげさまで。あなたの恩情でこうして何不足なく暮らしておりますよ。自由以外は」
嫌みかな?それは仕方ないよねぇ~?罪人だもんねぇ~?
「まさかこの小さな居室に訪れた初めての客があなただなんて…なんて皮肉なのでしょうね」
そうなのだ。
僕は窓一つない面会室、とか鉄格子越し、とかではなく単独で独居房の室内にいた。
もちろん格子には鍵がかけられエーリヒとフリッツがこちらに背中を向けている。
その部屋にイスを一脚持ち込み僕とエマニエルは向かい合っていた。
僕の単独同房入室が許可されたのは、僕に自己再生という不死身の奇跡があることと、その奇跡が昏倒武器として使用可能だということがすでに軍周辺では知れ渡っているからだ。
つまり最強ね。
「興味あったんだよね。北の捕虜施設の中がどんなかって」
ここに来るまでに見学してきた一般捕虜の使う大部屋は、窓のない一部屋に二階建てのベッドが三台、つまり六人が収容される仕様だ。
密集して暑苦しい、と思うじゃん?正面は鉄格子で開放的になっているから大丈夫。
そしてエマニエルが居るのは高位捕虜用のちょっと贅沢な独房。
が、ここは独房と言っても〝捕虜収容房”であって牢獄ではないので扉は小窓しかない二重扉ではなく普通の扉だ。腰の位置から上が格子状になっている。
内部には右手にベッド、その横に机、机の上に本が乗せられる扉の無い壁掛けチェスト、チェストの横に窓(鉄格子付き)、そして目隠しの室内植木がL字型にズラリと並んで向こう側がお手洗い、という仕様だ。
室内にいながら自然を感じられる…なんとも優雅だ。
また机の背後にあたる空間は、大の字に転がるには狭いが屈伸運動くらいなら出来そうな広さが確保されており、それでも一応晴れた日は一日一時間、足枷付きで中庭でのお散歩が許されている。
もちろん他の囚人や捕虜と被らない時間だ。
お湯は朝晩二回。けどエーリヒかフリッツが見張り番の時だけは、頼めば昼でもお湯がもらえるらしい。
まあ知り合いだし…昔のよしみね。暗黙のお目こぼしだよ。
食事は十時と十五時、ほとんどはパンとスープとソーセージ。祝いの日だけは甘味がつくらしい。
といってもエマニエルは極刑待ちではないためちょっとしたものなら買い入れることが可能だ。
これは食べ物とか本とか衣類なんかのことね。
後で分かったことだが、策士のエマニエルはアルトゥールから贈られた一部の宝飾品を密かに懇意の宝石商へ預けていたようだ。
なので捕縛後、エマニエルのもつ私物の中から王家縁のものは全て没収されたのだが、それらの一般宝飾品には誰も気付かなかったという。
全ての手続きを終えた頃合いを見計らい、宝石商がわざわざこの北辺境まで面会に来たらしいが、エマニエルは預けてあった宝飾品を全て売り払い(監視の話じゃずいぶん足元見られてたって)お金に替えたらしい。
何が言いたいかというと、彼はそこそこ小金持ちで外に出られない以外はまあまあの生活してるってこと。
「あなたを恨んでいないと言えば嘘になりますが一つだけお礼を言っておきます」
「なんのこと?」
「この指輪…」
「ああそれか…」
「あなたが口添え下さったと聞きました。どういう風の吹きまわしか知れませんが感謝します」
あれはエマニエルが大事そうに持っていた、例のあのアルトゥールの名前が刻まれた指輪だ。
愛しあってたのは本当だし形見は必要かなって…そう思ってエマニエルの私財が没収される時これだけは王家所縁のものだけど持たせてあげたんだよね。
「かなり貢献してるみたいだけどもしここを出られるようになったらどうするつもり?」
「そう…ですね。最近ではここの暮らしにも慣れてきましたし…いっそここでこのまま暮らしてもいいかもしれない、そんな風に思うこともあるんですよ」
「え?本気?」
「…思うこともある、そう言ったでしょう?」
「だよね…」
殊勝すぎて誰かと思っちゃったよ。
「ところでウルリッヒ様。オズヴァルト殿下、いえ陛下は皇国との和平をお望みだとか」
「まあ…、和平と言うか無期限不可侵条約ね」
「それが上手くいけば僕の役目は終わりですか?もう減刑の道は無くなると?」
なるほど。エマニエルにとってそれは命運を分ける問題ってことか。
「ここを出たい、その希望は捨ててないってことだね?」
「ええ」
真っすぐ僕を見据える眼。エマニエルの野心は消えてない!
「オズヴァルトに敵対するなら出せないよ。そんなこと分かってると思うけど」
「馬鹿なことを…、僕がしこりを持つのはウルリッヒ様、あなただけです。オズヴァルト陛下にはなんの遺恨もございませんよ」
あ…そう。僕にはあるんだしこり。そりゃそうか。
思えば僕は初めて会った時からエマニエルに相当嫌がらせを続けていた。アルトゥールのことが無くても好かれる要素は欠片もないだろう。
そしてオズヴァルト。
エマニエルは彼に言われたことをずっと考えていたという。
『知恵者であるお前は他の道へと導くことも出来たはずだ!』
「全ては因果…僕が選んだ道…、あなたが選び導いた男は王となり僕が導いた男は破滅した。ならば見てみたいのですよ。もう一つの道、僕が選び導いた男が輝かしい誉に身を委ねるその姿を。いつか…」
「それは国に仇名すものでは無くて?」
「あの王にあなたがついている以上そんな無益なことはしません。同じ轍を踏むのは…もう御免です」
頭の良いエマニエルだけに、そこには経験と結果に裏打ちされた損得勘定があるのだろう。
エマニエルが何を以て〝輝かしい誉”とするか、それは分からないが何となく見てみたいって、そう思った。
「わかった。他の減刑措置を考えてもいい」
「ありがとうございます」
小さく息を吐いたのが分かった。彼は皇国との和平案を聞いた時から不安を感じていたのだろう。
「じゃあその一環で。実はね…」
何の気なしの思い付き。僕はレスプブリカ皇帝を納得させる、特別な神子の演出を相談してみることにした。
「…よくもそのようなでまかせを…」
「あの場はイシュトバーン侯爵をビビらせるのが先決だったから」
「あなたは昔からそうですよね。本当に小賢しい…」
「やだなぁ、そんなに褒めないでよ」
一番の被害者がまさにこのエマニエルだ。
「この減刑は大きいよ?三年でどう?」
「十年、いえ、せめて七年寄こしなさい」
「さすがに許可が…じゃあ五年」
「いいでしょう。考えて差上げますから二日後もう一度ここへ」
「わかった。あ、それとは別で差し入れするなら何が良い?」
「では本を数冊。本は高いですからね。僕であっても気楽には買えませんから」
数冊って言うところがちゃっかりしてるよねー!




