北国での再会
しばらくのち、皇国からは申し入れの返事がもたらされた。
この手早さを見るに、恐らくイシュトバーン侯爵と合流したか、そうでなくても何らかのやり取りがすでに可能となっているのだろう。そして聞いたに違いない。
〝癒しの神子”がもつ本物の奇跡とその力、奇跡の根源には神バルデルスのみならず、巨神の力もわずかに含まれているという事実を。ウソだけど。
そこにはこう記されていた。
巨神像の建造とは、どれくらいの規模のものをどの程度を考えているのか。
子供だましのような像であれば到底受け入れられない、ということ。
重ねて交易とはどこまで開放するつもりか、交易品目に有益な鉱物が含まれないのであれば到底受け入れられない、ということ。
そして…
神子が真実巨神を起源に持つのであれば、それをレスプブリカ皇帝の目の前で証明してみせよ、というもの。
うーん…
だけどこれは「これらに納得いけば受け入れる」とほぼ同じ意味である。
ここには北の全権を持つ辺境伯と国の全権を持つ王、オズヴァルトがいる。
そしてこの面倒な地の当主である辺境伯を支える参謀たちは皆ずば抜けて切れ者だ。
おまけに北と西の挟み撃ちによる前代未聞の侵攻とあって、北の地に関与しない東の宮廷でさえも、リュティガー様の一声で援軍を寄越している。
その中にはフォルスト候に代わる新しい軍務大臣もいた。
早速彼らは話し合いを始めているが、さすがに僕は門外漢だ。そこで北の地における僕のお楽しみ…
フフフフフ…
エマニエルの顔を見に行くことにした。
「ウル様一緒に行く?捕虜収容所だって」
「ううん行かない。エドと北の街を散策するって約束してるの」
「そっか。面白いものあるといいね」
「気を付けて行ってきてねウルリッヒ様」
「うん」
お分かりだろうか?
ウル様とエマニエルに面識はない。前世軸に置いては僕が徹底的に接近を避けたからだ。
ウル様はアルトゥールに自分以外の誰かが居ることはなんとなく雰囲気で察していたようだが、ウル様を操ろうと画策していたアルトゥールたちは、ウル様に対する外面だけは整えていた。
もっともその外面の範疇に世話係の僕が居ない時点で、アルトゥールのアホさ加減が知れるってもんだけど。
なので因縁を持つのは僕一人。
参謀の一人をお供に北辺境の捕虜収容所へと足を運んだ。
「こ、これはウルリッヒ様!ようこそお越しくださいました!」
出迎えたのは今では改心したエーリヒとフリッツ、元王妃の私兵二人だ。
彼らにはエマニエルの監視と保護(エマニエルは妖艶だからね。一応ね)を申し付けている。
「聞いております。西に現れた皇国兵を退けたとか…」
「分かっておりましたがますます感服いたしました」
「ま、僕にかかればこんなもんかな」
「さすがウルリッヒ様」
「お見事です」
一度身も心もへし折られた(比喩でなく)彼らは、復活した今では神バルデルスというよりウルリッヒ教の信者である。ちなみにウルリッヒ教の筆頭信者が西の神官長で次点が王城神官長ね。
「エマニエルの様子は?」
「日々落ち着いて過ごしております。なかなかの模範囚なのですよ」
「最近では手慰みに編み物などを嗜んでいるようですね。寒いからとひざ掛けを自作しておりました」
「エマニエルは存外適応しておるよ。此度の戦いでも彼の策でいくつかの罠を仕掛けた。大した頭脳だな、あれは。」
「エマニエルの処世術は美貌よりもあの頭脳ですからね」
参謀の一人、北辺境東部のキルステン男爵は言う。毛糸は成果の褒美として渡したものだと。
エマニエルは媚びへつらっているように見えて実はプライドが高い。
美貌で権力者にすり寄る…なんてしないんじゃないだろうか。
え?アルトゥール?あれはアルトゥールが言い寄ってるから。
エマニエルはいつだって、誰かを意のままに動かし一人ほくそ笑むタイプだ。
顔が良く権力を持ち、なのに扱いやすい単純バカのアルトゥールが、エマニエルには可愛くて仕方なかったのだろう。
ふっ…、それもまた愛のカタチ…か。
さて、どうでもいい戯言はここまでにして、ここ北の捕虜収容所だが、雪の多いこの北辺境では積雪に耐えうる石造りが構造の基本だ。
屋敷等々は急こう配の三角屋根が多く取り入れられている。
平らに近い屋根が多い西の建物との、そこが大きな違いだ。
けれど熱効率を考えると石造りはかなり冷えるのだという。
西、特に神殿都市では真夏の熱を遮断するため、石と白い漆喰で仕上げられた建物が多く残されていた。
そのため修繕増築された今も同じ工法が多く採用されている。
だけどこの北では一見石造りに見えて内壁には木材が取り入れられている。
北で伐採される木材とは北の風土に合わせて進化した、とても密度の濃い硬い木材が多い。
これによって冷気を遮断するのだとか。
これも西との大きな違いだが、この二重構造によってここの収容所は西や東に比べてもとても頑強な造りになっている。
エマニエルがいるのもそんな建物。独居房は木材で囲まれている。
「ほんとだ…、どこもかしこも木のぬくもり…意外…」
「代々の辺境伯閣下は皆人道的なお方々であられた。たとえ捕えた敵兵とは言え無体な真似はせぬよ。ここの冬は言葉に出来ぬ寒さだ。舐めてかかれば凍死もあり得る」
マジか…コワ…
「でも夏は逆に蒸れたりしないんですか?」
「この地に西のような夏はないのだよ。君たちの言う夏でさえも涼しい。朝晩は肌寒いくらいだ」
「へー…」
参考までに西から南西は年中温暖、北は年中寒冷、そして東から中央区域は夏はほどほどに熱く冬はほどほどに寒い、四季仕様だ。
「さあ着いた。監視兵!私だ!神子様をお連れした。ここを開けよ!」
ギィィィィ…
渡り廊下の向こう。そこには…
久々の対面となるエマニエルの姿があった。




