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第五幕

では、まずは千葉さんから一言.


世知辛い世の中になったもんだと思うが勘弁してもらいてぇんだわ。こいつぁ、いわゆるフィクションてやつだから、真に受けると後悔するからそのつもりでな。源さんも一言言ってやれよ。


俺?ん、あぁ、ふつうはあんな風に飯なんか出来ないから。2時間で50人分の朝飯を素人一人の手伝いで仕込むなんて、、、出来るかもなぁ。ただ、中華出汁は出来ない。煮込みが足らない。高津がいてもまずは無理。いなくても大した影響はないな。


源さん、俺ってそんなに役立たなかったのかい。必死になってやったのに、超絶重い寸胴をさぁ、司ちゃん、なんか言ってよ。


やだよ、俺、これから犠牲になるんだから。またなんで、的屋まがいの事やらにゃならんのよ。おりゃ、寅さんでもなんでもねぇ、音響屋だぜ。なぁ、神田さん。


そろそろ、あんたでシナリオ作れないかやろうかと思っているんだが、まずは、話を進めようか。さて、お待ちかね。第五幕の始まり始まり。

翌日から会館前は、祭りもかくやといったような様相を呈してきた。まだ時間があるというのに、すでに出店が出て、ライブの開催を知らせる立て看板が現れていた。さすが江戸町民。せっかちは今も昔も変わらない様だったが、その一角だけちょっと様子が違っていた。


「へいへい、寄っといで! 寄っといで!

ただの布っ切れと思ったら大間違い! 見ろよこの絵柄、異国の術で刷り込んだ、鳥獣戯画の印付き!手触りも最高の逸品でさぁ!


これを着りゃあ、祭りの中でも一目置かれること大請け合い!

旦那衆、これがかけそば十杯分――たったの百六十文だ!

え? 十杯分は高ぇって? 馬鹿言っちゃいけねぇ、今日びそばなんざ一日でぺろっと消えるだろうが!

こいつぁ布だから、洗っても破れねぇ、祭りでも寝巻きでも、孫子の代まで役に立つ!


さぁさ、残りわずか! 今夜のうちに手に入れねぇと後悔するぜ!

お揃いで羽織りゃ、町内の人気者よ!

旦那! 嬶さん! 若ぇ衆! みんなで一枚ずつ――鳥獣戯画の仲間入りだぁ!」


大場さんが寅さんに見えてきたと言ったのは、誰だったか。グッズ販売をする為に揃えた大量のTシャツ。この時代にはそぐわないが、ここにあっても仕方なしと、いっそのこと売りさばいてしまおうと、大場が呼び込みの時よろしく「柴又の某」の格好を再び身にまとい、町民が広げる店の一角に独自に店を開き、なんとテキ屋を始めたのだ。小遣い稼ぎもできるからと、まぁ、適当な値段設定だったのだが、江戸町民には物珍しく、あっという間に黒山の人だかりとなり、Tシャツも徐々に売れ始めている模様。いいのか?歴史。神田曰く、300年も残らんだろう。とのことだった。いや、歴史。


余談ではあるが、この様子に触発された源田が、昼飯調理免除の暇を持て余した結果、3日目から得意の中華がゆで屋台を出し、とんでもない行列が出来上がるのだが、それを見た大場が源ちゃんがみんな持って行ったと悔しがったのは別の話だ。


2回目ライブ当日、神妙な面持ちで市民会館前に佇むモノノフが一人、その名を舟橋源太左衛門、上杉家に仕えしは上杉勝興附役(つけやく:代官補佐みたいなもの)を担う重鎮が、それは困り顔でうろたえていた。なんてことは無い。一緒にライブに行こうと誘った仲間、香坂帯刀傳役(ふやく:教育係)と蓼沼平太(たてぬまへいた)側役(そばやく:侍従みたいなもの)が予定の刻限になっても現れなかったからだった。市民会館前では、何やら楽しそうな出店や催しがあって、一つは、実際の人物が面妖に動く、色鮮やかな紙芝居。映す出されるのは、実際の侍だから、とかく面妖だが、話の内容は面白くてたまらない。待ち合わせの刻限だったので、早々に切り上げたが、続きが見たいのに待ち合わせ場所から離れるわけにいかず、愛用の手ぬぐいを咬みつつ、ひたすら耐えるしか無かった。あと、美味そうな香りがそこらかしこから立ち上っていく。粥、串焼き、団子など。普段は、読書や釣りで余暇を過ごす舟橋だが、祭りの雰囲気は嫌いではない。好奇心もあって、近づいて実際に食してみたい。色々な思いがいっぱいになって、もじもじそわそわ、特にあの粥の味を見てみたくて仕方が無い。先日、源田殿から頂き食したのと同じ粥だと思うが、さっきから妙に鼻に漂ってくる、微妙に記憶のある芳醇な香りは、さっき昼餉を頂いたばかりだというのによだれがこみ上げてきて「待たせたでござるなぁ。船橋殿。」「源ちゃん粥、終売です。」。はかなくも夢は散っていったのである。


ふぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


江戸町民にはどうにか耐えられた鳥獣戯画のライブであったが、真面目一直線で生きてきた江戸サムライにとっては刺激が強すぎた。香坂と蓼沼には耐えられたので、船橋一人に免疫がなさ過ぎただけかもしれない。が、耐えた香坂と蓼沼さえ、ライブ上がりの興奮が抑えられない。耐えきれずに終幕とともにひっくり返り、医務室に担ぎ込まれた舟橋を付き添ったが、付き添いにしては騒がしくてたまらず、ひとまず廊下にたたき出された。二人は、ひとまず廊下の椅子に腰をかけたが、とにかくこの会館に近づいたときから驚かされっぱなしで、落ち着く暇が無い。一通りわなわなしていると様子を見に来た鳥獣戯画のメンバーから差し出されたペットボトルのお茶に、これまた驚かされ、呆けた。かくも透明の玻璃に封じられた緑茶の温かく、旨いこと。演劇もよくわからない音楽がものすごい音量でたたきつけてきて、光も炎もその音楽に合わせて踊っていた。あんな演劇は、日の本どころか遙か南蛮に渡るまで、見ることのできないものでは無いだろうか。ふ、と冷静さを取り戻した香坂がそなたらはどこから来たのか、とメンバーに問うと、どこからって、東京ですが。と素直に答えるメンバーであったが、東京とはいずこだろうかと、余計に香坂を混乱させたのである。そして、香坂、蓼沼の頭の中から舟橋の存在はすっかり消えてなくなっていた。


さて、方や舟橋源太左衛門。医務室のベッドに寝かされ、hakko先生の診察を受けていた。血圧問題なし、瞳孔反応異常なし、貧血状態特に見られず、触診する限りでは倒れた際に頭を少しぶつけた程度か、念のためMRIを取りたいところだが、ここは江戸時代。ただ、こぶができるほどのぶつけ方でないのと、年の割には体がしっかりしている事から、しばらく様子を見れば回復するのではとにらんでいた。倒れた原因は、おそらくのぼせてパニックになり、そして失神。あれだ、女子高生とかが憧れのアイドルに抱きしめられて失神するのとおんなじやつ。事情を聞こうかと廊下に行ったら、居るはずのお連れの方たちはすでに帰った後で、鳥獣戯画のメンバーが佇んでいるだけだった。


「拙者、まだ夢を見ているのではござろうか。」

「いや、現実ですよ。」


目が覚めた舟橋は、開口一番夢かと語った。夢見心地にさせるのもライブの醍醐味だが、ここまで影響されても困ったもので、さて、どう話したものかとhakko先生はひとしきり悩んだが、無駄に終わった。はっきりと舟橋が話し始めたからだ。


「と、いうことは客席でひっくり返ってしまった拙者を、介抱して頂けたと。これは忝い。」


かたじけない、とは面妖な、とhakkoは思ったか思わなかったか。しかし、時代劇でしか聞いたことの無い台詞に、やはりここは江戸時代なんだなと、船橋が持っていた刀が本物だった事もあり、より確信を深めていった。さすれば、このサムライからいろいろ聞こうかと質問を考えていたところ、舟橋はやや慌てた様相で身なりを整え、急ぎ殿に報告をば、とお暇を告げようとしたが、残念ながら医務室の扉を開けたところで体が固まった。出口が判らない。


「では、改めてごめん。」


去りゆく舟橋をぬるく見送るメンバーとhakko先生。ライブ自体は大成功と言ってよかったが、残念ながらあと一回しかできないのと、今、見送った舟橋がなにか事件を持ってくるのではという予感を一同は抱いた。


夜、今日のライブの反省もそこそこに、早めに解散し、床についた会館メンバー。最終ライブはいつにするか、ひとしきり悩んだが、結論は出ず、明日の持ち越しとなった。一世一代の、そして、人生最後のライブとなるわけだから、今までを詰め込んだ最高の舞台にしたい。そういった思いが最後をいつにするか悩ませたのである。結論は、明日の昼にだすこととなった。各々の部屋では、深夜まで思い思いを語り、最後に備える。


さて、ここで部屋をのぞこうか。あいつらの部屋である。


千葉「ローン! リーチ一発ドラドラタンヤオ、司ちゃんから頂きましたっ。」

高津「出たな、満貫役者。ほい、司ちゃん振り込んだんだから、とっとと払いなって。」

源田「復讐ってやつだな司ちゃん。千葉さん、天を仰いじゃってるよ。」

大場「……俺はなんか悪い夢でも見てるんじゃないか。」

高津「親に振り込み、ひのふのみ――五翻四十符、一万二千ってとこか。たいした復讐でもなかったか。」

源田「あれか、千葉さんの優しさってやつか。」

高津「優しくないのは、顔だけだからな。」


大場「……なあ、おまえら。」

高津「ん?」

大場「もしこのまま戻れなかったら、どうする。」

源田「まずは腹が減らねえようにすることだな。朝は米の在庫で粥、昼は冷凍、夜は……まあ、俺の気分次第だ。特効は、卒業だな。」

千葉(静かに点棒を整えながら)「電気が無くても、生きてりゃ電設屋だ。火を灯せりゃそれでいい。」

高津「俺は、どんな時代でも舞台を作るさ。板と布があれば、なんとかなる。」

大場「……そっか。お前ら、やっぱ強えな。音響は江戸時代に存在しないから、おれは、、、テキ屋か?」


はははっ、そいつはいい、いっそ役者でもいいんじゃ無いのか。


源田「おう、次の半荘いくか?」

高津「決まってんだろ。どうせ寝れやしねぇ。」

千葉「じゃ、今度も俺が親か。みんな、覚悟しとけよ。」


誰も肝心な部分は口にはしなかったが、この夜、彼らの中でひとつの決意が固まりつつあった。明日をどう生きるか。どう締めくくるか。だが、今はまだ、ただの“夜”を楽しむ、それでよかった。


さて、翌日。早朝から朝餉を仕込んでいた源田の耳に、またもや「頼もう」、と誰かに呼ばれ、玄関に行ってみると、昨日ひっくり返った舟橋が手土産を抱え、立っていたのである。時は7時ちょっと前。早すぎやしないだろうか。


無碍に追い返すわけにもいかないので、舟橋をいつかと同じく食堂に通したのだが、早すぎる時間帯につき、神田が起きてくるまでここで待っていてくれと、源田はただ待たせるのも何なので、朝飯様の中華粥を差し出した。男舟橋源太左衛門。ここに来て自分の運が向いてきたと神仏に感謝をし、昨日鼻に残った香りに再会する事ができたのであった。




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