第四幕
「今日は、突然にもかかわらずこんなに集まってくれてありがとう。俺たちの魂、届いたかな?」「応!」「合点!」
「じゃぁ、今度は讃美歌を歌おうかと思ってさ、皆判るかどうかだけど、トマトって知ってる?西洋の野菜で、ちょっとすっぱくて、いいものだと甘くもある。嫌いな奴もいれば、愛してやまないやつもいるこの野菜、俺は愛してるんだ。この愛、皆に届けたい。」
「兄ちゃん、受け止めてやんよ!」「がんばれ!」
「聞いてください。トマト賛歌。」
トマト賛歌(Tomaten-Hymne)
Tomate! Tomate! (トマーテ! トマーテ!)
Rot wie Blut! (ロート ヴィー ブルート!/血のように赤い!)
Tomate! Tomate!
Süß und stark! (ズィース ウント シュタルク!/甘くて強い!)
Unter der Sonne, im heißen Feld
(太陽の下、熱い畑で)
Wächst du leise, doch dein Herz brennt hell
(静かに育つが、その心は燃えている)
Von Regen geküsst, vom Wind umarmt
(雨に口づけられ、風に抱かれ)
Dein roter Glanz macht mich ganz verrückt
(おまえの赤い輝きが、俺を狂わせる)
Schneid’ dich auf – der Saft explodiert!
(おまえを切れば、果汁が爆発!)
Mein Mund bebt, mein Herz marschiert!
(口が震え、心が行進する!)
Keine Angst vor Spritzern, nein!
(飛び散りなんか怖くない!)
Tomate, du bist mein!
(トマトよ、おまえは俺のもの!)
Tomate! Tomate! Ich liebe dich!
(トマーテ! トマーテ! 愛してる!)
Rot wie Feuer, stark wie Licht!
(炎のように赤く、光のように強く!)
Tomate! Tomate! Für immer mehr!
(トマーテ! トマーテ! 永遠にもっと!)
Ohne dich ist mein Leben leer!
(おまえなしじゃ、俺の人生は空っぽだ!)
Links! Rechts! Links! Rechts!
(左! 右! 左! 右!)
Stampf den Boden, fühl den Saft!
(地面を踏み鳴らせ、果汁を感じろ!)
Sonne! Regen! Sturm und Nacht!
(太陽! 雨! 嵐と夜!)
Tomate gibt uns ihre Macht!
(トマトは俺たちに力をくれる!)
Tomate! Tomate! Ich liebe dich!
Rot wie Feuer, stark wie Licht!
Tomate! Tomate! Für immer mehr!
Ohne dich ist mein Leben leer!
Tomate! Tomate! Blut der Erde!
(トマーテ! トマーテ! 大地の血!)
Gib uns Kraft, oh rotes Herz!
(俺たちに力をくれ、赤い心よ!)
Tomate!
(Tomate!)
Tomate!
(Tomate!)
Für immer!
(永遠に!)
第四幕、読んでください。
さて、鳥獣戯画一同のタイムスリップは、江戸時代に殴り込んでいかに現代を押しつけるかをテーマにしているのだが、どういった話であれ、あらゆる出来事を話の中にちりばめなければならないのが、こういった娯楽小説の宿命でもある。この出来事をいかに現実めいて作り上げるかが鍵ともなるが、平たい話が設定のことである。今回のお話では、鍵となるのが、彼らの拠点である市民会館なのだが、現実世界の、市民会館のスペックが、実際のところとてつもなく好都合な施設だったこともあり、この話が書けると思った次第だ。会館の中にはかなり大きなものもあり、公民館も併設されているなど、ハイスペックなものが多く作られている。本作の立地モデルは、埼玉にあるとある市民会館だが、性能のスペックは、西多摩にある市営のホールで、市の主要乗換駅の目の前に鎮座している立地に加え、大小ホールを備え、レストランも併設、同じ建物に公民館もあり、和室、浴室を備えていた。屋根には大規模太陽光発電、水は地下水を中心とした水道系統をかつて持っていた。そのままの設定だと、インフラの独立性が途切れるため、都市ガスの設備をプロパンに変えた。非常設備も兼ねているとのことで、実際の設備には、500人分くらいが数日宿泊が可能な毛布や、水、下着、食料、衣料品の備蓄があり、まるで独立した要塞のような体を成していた。500人が4日生活できるなら、2000日分の備蓄があり、50人が生活するなら、40日は余裕で暮らせる計算となる。レストランがあれば温食が食べられるとあっては、この市民会館に詰めるだけ詰めても違和感は感じなくて済む。ライブで使う極端な大電力は、発電車を呼んで発電させればまかなえるし、普段からそういった手を使うから問題なし。後は、タイムスリップをしてくれれば、江戸時代に現代ライブか可能ではないか、と熱い展開を思いついたのである。かくて筆者の妄想に、鳥獣戯画メンバーは付き合わされるのであった。以下本編の続きを楽しんでいただきたい。
夜、市民会館に併設された公民館を宿に仕立てたスタッフ一同は、江戸時代にあるまじき柔らかい布団に包まれ、床につくことができた。風呂は3日に一度、まとめてわかして一気に入るといった方式ならばと、貴重なプロパンガスを使って湯を沸かすこともできたので、最低限の衛生的な生活がしばらくできることが判った。タイムスリップという不幸の中に、ちょっとした幸せ。飯風呂寝るは人間の文化的生活においては最低限といえるが、この江戸時代にそれがまともに揃えられるのは、奇跡ともいえた。決して設定の妙では無い。
各々併設の公民館にある和室に布団を敷きつつ、スタッフは明日に備えて床についた。鳥獣戯画は修学旅行みたいだとはしゃいでいたが、千葉に静かに寝るようにと釘を刺された。まるで担任の先生である。先生のおっしゃることを素直に聞く生徒さながら、布団に入りつつ4人は、今日のライブを反芻していた。
いつの時代でも、エンターテイメントは不変、まさかコールアンドレスポンスが通じるとは思ってもみなかった。連獅子もよくウケたなぁ、あと、ドイツ語はどこでもかっこいいらしい。なんか、この今日ことを曲にできたら面白いかも。
メンバー4人が4人とも思い思いを述べていたが、何より技術スタッフのリスペクトも忘れていなかった。思いっきり火を噴かした源田の腕を絶賛し、その炎に合わせた音響、照明も凄腕ぞろいと一同は評した。支えた千葉も、魅せる美術を作り上げた高津も、何よりこの危機的状況の中で、ライブをやると決断した神田の度量もそれは大きいものだと、そして、この状況が続けば彼らの実力は全力発揮されることも無くなる。あと2回分をいかに悔いなくこなすのか、とにかく、頭の中をめまぐるしく回り続ける、彼らに課せられた課題は、収まること無く気づけば夜明けを迎えていた。考えるのをやめたメンバーは、ようやく眠りにつく。
本来であれば、狐之巣によく来ていた常連をはじめとして、テレビでも取り上げられたおかげもあって、8回行われるハズだった公演のチケットは、1週間前には完売となっていた。動員数8800人を予定していたが、すべてパァとなっている。そして、このエンターテイメント業界で積んできたキャリアもあと2回しか発揮できないかもしれないという危機感。市民会館に閉じ込められたスタッフ一同も、鳥獣戯画と同じように、夜明けを見るまで様々な思いをぶつけていた。泣き笑い、戸惑い、そして慟哭だろうか。そんな中、千葉、高津、源田、大場の4人部屋では、こんな会話が繰り広げられた。
大場「ローン!リーチ一発七対子清老頭ときた。いくらだ?」
源田「役満だな、親だから48000点、ほい、千葉さん振り込んだんだからとっとと払いなって。」
高津「悪いやつだな司ちゃん、千葉さん固まってるよ。」
千葉「俺はなんか悪い夢でも見てるんじゃ無いか。」
大場「悪い夢なら、とっくに見てるよ。ほれ、払った払った。」
千葉「だめだ、借金だわ。誰か貸して。」
高津「さっきまで大勝ちしてたってのになぁ。運が尽きたか。」
源田「おれ、これで勝ったら元の時代に戻るんだとか言ってたのに、残念だな。」
大場「あちゃぁ、そのまま勝たせればよかったか。戻れたかもな。」
千葉「しゃぁねぇ、明日の水くみは俺がやるよ。」
大場「悪いね千葉さん。俺も手伝うからさ。」
千葉「ポンプ回すだけだ。気にしなさんな。」
源田「手伝いなら、朝飯の仕込みがあいてるぞ。」
大場「あんな腕見せられたら、おいそれと手が出せないっての。」
高津「んじゃ、千葉が大負けってことで、今日はお開きだな。朝飯の手伝いは、まぁ、俺がやるよ。」
源田「頼んだ。それじゃ、今4時だから後2時間後に起床な。」
高津「なに、そんなに早いのか。」
源田「8時くらいから出し始めるとしたら、そんなぐらいから仕込まんにゃ間に合わないんだわ。どうだ、すげぇだろ。」
何やってんだ、こいつら。
翌朝、翌朝?6時から仕込みを始めた源田が朝の仕込みをほどよく終えて、そろそろ皆が起き始めるかした8時前。テーブルをなんとなく整えていると、正面玄関から何やら声が聞こえてきた。たのもうたのもうってうちは出前なんぞやってねぇぞ、と源田が玄関まで出てみると、そこには昨日のライブで発狂というまで興奮しながら帰って行った町人が3人と、なんか偉そうなのが一人、表に待っていたのである。昨日、次はいつになるかと問うてきた庄屋、その人であった。
「して、次の催しはいつになるでござるか。」
身なりを整え、正式に伺いに来たとのことだったが、源田には次がいつになるかわかったものではない。そもそも、このタイムスリップに際し、ようやく事態が飲み込めて、ひとまずやることやってから考えようといった方針が決まったばかりで、おそらく神田が決めてくれると思うのだが、その神田は、昨日の打ち上げでビール3本を開け、酔い潰れて寝ている。よほど疲れてたんだなぁ。とりあえず、朝飯食うか?との問いに庄屋はすでに済ませてきたと素っ気なかったが、一緒に来た町人が頂きますと来たので、6時から仕込んだ中華がゆを出してみた。ついでに、ジンジャーエールも出してみたのだが、果たしてどんな反応を示すのか楽しみで仕方が無い。
「粥ですかい?」
「あっついからな、慎重に食ってくれ。あと、出した茶も一気に飲むと吹くから気をつけてな。」
「合点承知」
一口、二口と染み入るようにレンゲを動かす町人3人。朝から粥かといっていたが、この時代の朝食と言えば、玄米に粟や稗が混ざっていたような気がする。白飯なんかあんまり食ったこと無いんじゃ無いだろうか。しかも、鶏ガラで出汁を取り、ごま油で香り付けをしているので、もうちょっと煮詰めればラーメンの汁ができあがる様な材料で作ってみたものだ。ちなみに野菜の類いは生鮮品で、とっとと使う為、鍋にぶっ込んだ贅沢品でもある。そういったものが果たして江戸町民の舌にあうのだろうか楽しみでもあった。しばらくじっと見ていると、無言でレンゲをすすめる町民と、それを見てこちらをチラチラ見てくる庄屋のおじさんと、なかなか面白い。あんたも食うかい?と源田が声をかけると、カウンターに楚々と取りに来る。ついでなのだろうか、町民も一緒に来て椀を突き出してきた。その傍ら、仕込みを手伝わされた高津が部屋にも戻らず、いすを並べていびきをかいていた。後に高津は、この時の源田を超人と評した。宵っ張りの高津からしたら、重い寸胴を定期的に見たり、火加減を調整したりと、2時間の睡眠後にあんなに細かい事をやってのけるのは人間ではないと。いや、普段のあんたがいい加減なだけだから。
9時を回った頃だろうか。ようやく神田が朝飯をもらいに食堂へ来ると、庄屋とその一同は、悟りを得た仏のように後光をまとって佇んでいた。後ろには、にへらと笑う源田の姿。
「おう、まちかねたぜぃ。」
挨拶は適当に、源田から仏を紹介された神田は、何かまたやっかいごとが舞い込んできたのかと尻込みしつつ、まずは話を聞いてみることにした。源田の作った粥をすすりながら。
さ、腹も満たされたし、とりあえず周辺でも散歩に行くかぁ。いや、何卒、何卒、って正直めんどくさい。つか、江戸時代の人って普通に土下座するんだなぁ。
報酬は、定期的に米や野菜、獅子肉などの類いを持ってくる事で決着した。なんと、昨日のライブにいたく感動をした町人たちが是非にと、鳥獣戯画に対して支援を申し出てくれたのである。内容は、次回ライブ開催の時に、町内会のメンバーが出店や外の誘導をやってくれるとのこと、ただし、ライブの席を確保してほしいと。30人くらいだそうなので、まぁそれくらいならと思ったが、源田の一言によって、食料の差し入れも報酬に加わった。ついでに、次回開催も5日後に決まった。
次回ライブの開催がなし崩し的に決まったわけだが、決まった以上はスタッフやメンバーに知らせなければならない。神田は、朝の出来事を頭の中でまとめた上で、昼食の時間に関係者まとめて話ができるように手配をすすめた。さて、お立ち会いと呟いてみたが、神田の頭は全く見えないお先にあえいでいた。
源田は作るといっていたが、さすがに昼まで作っていると休む暇が無いと言うことで、当面は非常食からα米やら、レンチン品やらを保存庫から引っ張り出し、当面をしのぐ事となっていたが、手作り感の無い食事はなんとなく寂しくもある。一同、ぼそぼそと食事を始めるが、食べながら聞いてくれと神田が伝えると、一同は、食べながらといわれながらも手を止め、耳を傾けた。
「地元町民の協力もあり、2回目のライブを実施する。5日後だ。」
おぉ、と地響きのようなどよめきとともに、地元の協力という謎ワードに皆の気は引かれた。一部は、朝方何やら地元民ともめていたような感じだったと思っていたが、あれがライブ開催の直談判だったとは、思いもよらなかった。とあって、江戸時代でも自分らの魂は通じたんだとにじみ出るような歓喜がそこに表れた。




