15
目をゆっくりと開ける。
場所が変わったことだけはわかったがすぐにどこにいるかまではわからなかった。
ワマの方を見て目が合ったかと思うとそう言ってまたカンテラを振った。
今度の火はワマだけを包み、数瞬後に火が消えた時にはその場に誰もいなかった。
「そのトラブルの原因がわからないから困ってるんだけどね。」
そういう姉さんの視線は反対の方を見ている。
振り返れば、昨日訪れたユリ殿があった。
しかし門の前には落ち葉や空き缶などのゴミが散乱している。
「姉さん、動かないで。」
人の気配を感じた。
それも門の中からだ。
「捕まえるだけ。私は危害を加えられていないから、捕まえるだけお願い。」
地面に膝を着き影に話しかける。
そして、影が目にもとまらぬ速さで門の方へと伸びていく。
門は閉まっているが、影は一方では門の隙間を縫うように入っていき一方では壁を越えて中に入っていく。
悲鳴が聞こえる。
「中からよね?」
姉さんが一応確認とでも言うようにこちらに聞いてきた。
「そうですね。ちなみに学園内ってこう言う時どこに連絡するべきなんですか?」
先ほどのマーケットでは店の人が対応してくれていた。
しかしここは周りに人は見当たらない。
「街中なら一定の距離ごとに端末があるから、そこから緊急通報よ。」
「じゃあ、姉さんよろしくお願いします。たぶん動いても問題ないと思うんですけど、影がいつまで言うこと聞いてくれるかわからないので。」
正直なところ先ほどの男子生徒の時もそうだったが、人を捕まえておくのは少し集中力が居る。
影から伝わってくるのだが、飲み込んでしまった方が楽なのだ。
しかしティーだけならまだしも暴れる人を完全に中に入れてしまうのは、何が起こるかわからないことが多すぎる。
(ただでさえ、今この瞬間の感触が気持ち悪いのに…。)
手に、体に伝わってくる感触はなんとも言えない。
「わかった、すぐに行ってくる。」
眉間に皺を寄せた顔を見て察したのか姉さんが走り出す。
最初に聞いた悲鳴のあと何も聞こえないのは、感覚から察するに影が口も塞いだのだろう。
「現状維持、現状維持…。」
影に言い聞かせると言うよりは、自分自身に言い聞かせる。
姉さんはすぐに大人の人を2人連れて戻ってきた。
「ミリア、鍵はある?」
ポケットの中に入れていた鍵を姉さんにわたす。
「2人ともその場で待機してて。」
見慣れない制服を着た大人の人のうちの1人がそう声をかけて、姉さんからわたされた鍵を使って門を開ける。
2人で入ってすぐに1人が出てきた。
「このティーを解除してもらってもいいかな?中に居た生徒はもう1人が取り押さえてるから。」
そう声をかけてきたので再び地面に膝を着き影に話しかける。
「もういいよ、ありがとう。」
そう言うと伸びていた影はあっという間に戻ってきて、他の人には伝わらない奇妙な感覚も無くなった。
しばらく待っていると騒ぐ女子生徒を連れた大人の人が出てくる。
女子生徒の顔にはとても目立つ擦り傷があり血が滲んでいるのが少し離れたこの場でもわかる。
「君たちにも話を聞かなきゃいけないから、中で待っていてもらってもいいかな。」
「わかりました。」
そう答えたのを確認し大人2人と女子生徒はその場から消えた。
その瞬間ブーンという音が聞こえた気がした。
「瞬間移動?空間移動ってメジャーな能力なんですかね?」
「今その質問ができならメンタルは大丈夫そうね。それから今のはたぶん瞬間移動とか空間移動じゃなくて、目にもとまらぬ速さで移動したって言う方よ。」
なるほど、そう言う能力もあるのかと妙なところに納得する。
「とりあえず中に入りましょうか。」
姉さんに促されてユリ殿の中に入る。
門の内側も同じようにゴミが散乱していたが、入ってすぐのあたりだけで近くには大きなビニール袋がいくつも落ちている。
一応、建物の中や裏手も確認するが特に変わったところはない。
「これ、片付けていいんですかね?」
「いいんじゃない?さっきの2人が見て連れて行ったわけだし、掃除用具とってくるわね。」
そう言って取りに行こうとする姐さんを呼び止める。
「ちょっとやってみたいことあるんで待ってもらっていいですか?」
姉さんが足を止めて振り返る。
深呼吸をして息を整える。
(やりたいことを行程分けして順番に…。)
頭の中でイメージを少し時間をかけて整理すれば、言葉にしなくても影が動き出す。
「そう言う器用なこともできるのね。」
「初めてやったんですけど、けっこう疲れます。」
影の中に1度、ゴミも袋も入れてしまう。
そしてゴミを袋に入れた状態で出す。
目に見える範囲では残ったゴミはないように見えた。
袋の口も結べないかと思ったが、影の中ではできそうになかったので出してから伸ばした影で袋の口を結ぶ。
「もう少し細かいこともできるようになるといいんですけど…。」
しかし現状、何をさせればいいか思いつかないと言うのが正直なところ。
問題が起きる、怪我をする。
そんなことが起こってからでは遅いという自制心はあるつもりだ。
「それならうってつけの作業があるじゃない。ちゃんと私が監督してあげるから、花姫するついでにティーもステップアップしちゃいましょう!」
そんな話をしていると、門が叩かれる。




