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「・・・・。」
それ以降言葉が出てこない。
姉さんの方を見れば思い詰めたような顔をしている。
「姉さんよかったら、花摘み手伝ってくれませんか?」
立ち上がり姉さんの腕を引っ張る。
そのまま2階の温室まで向かい扉を開ける。
「この部屋ずいぶん賑やかになったわね。」
姉さんがこの部屋に来たのはひと月以上前。
それから植えたり育てたり収穫して交換したり、主に彼女が頑張ってくれていたのだが今では部屋のほとんどを不思議な花を咲かせる植木鉢に占領されていた。
2ヶ所の出入り口とその間のスペースだけは空けてガーデンテーブルが居座っている。
キューイ。っと声がしたかと思うと姉さんのティーがどこからともなく現れて、花をひとつ掴んだ。
「姉さんのティーはこの花食べないんですね。」
「そんなことないわよ。いいって言えばすぐ食べるはずよ。」
姉さんの手に摘んだ花をわたしてから次はどれにしようかとフヨフヨ行ってしまった。
「でもねこの花食べると酔っぱらったみたいになるのよね。」
先ほど受け取った花の花弁を1枚ちぎって、次の花を持ってきたティーに差し出す。
キューーーーー。
差し出された花弁を口にした瞬間、大きな声で鳴き紫の煙をたくさん出しながらクルクルとそこら中を飛び回る。
そして一通り飛び回った後に満足したように姉さんの手に降りてきた。
煙は消えず部屋中に広がっていた。
触ってみると意外なことにしっかりとした弾力を感じられる。
姉さんの方を見るとティーをつつきながら起こそうとしているが苦戦している。
仕方がないので影の中に煙を入れる。
「本当に酔っ払いですね。笑上戸的な。」
「少量だったからすぐに起きると思うわ。煙は何かに使えるかもしれないから取っておきなさいね。」
そのうち使い方教えるわね。と言ってる間にティーが起きる。
「おはよう、いい夢見れた?」
ティーはキョロキョロしている。
「返したほうがいいですか?」
「それを食べてまた酔っ払うから返さなくていいわよ。」
姉さんのその言葉に理解したティーはがっかりとした。
「それにしてもすごい量ね、眩しいわ。」
まだ外が明るいためにキラキラと輝く花弁が時より目に痛いほどの光を当ててくる。
「夜になったら月の明かりで湖面みたいに輝くんですよ。」
「それはまた綺麗でしょうね。」
満開に開いた花だけを選び摘んだ花を1度籠に集めて、影の中にしまっていく。
「それどうするの?」
「今のところはティールームに飾ったり、時々頼まれて売ったりしてます。」
アダン経由でスミレのマダムから売って欲しいと連絡が来たことがあった。
一度お世話になったのであげますと言ったら、対価を貰うことを覚えなさいと強めに言われた。
「何か作りたいものがあればいいんですけど、今のところ思いつかないんですよね。」
「それなら、入れ物を作ればいいわ。」
唐突に姉さんがそう言う。
「入れ物?」
その言葉にピンとこない。
「ミリアはなんでも自分の影の中に入れちゃうけど、出す時のことを考えたほうがいいと思うの。」
確かに1つ2つと数がはっきりしているものならいいが、先ほどの煙のように不定形なものは出すとなったらいっぺんに出すしかないのだろうかなどと考える。
「私のティールームで煙が瓶の中では違う姿をしてたの覚えてる?」
そう言われてうなずく。
確かクッキーの入った瓶の蓋を開けると煙に戻ってしまっていたのを思い出す。
「中に入れたものを適切な形で保存するのにこれほどいい材料はないのよ。」
「たとえば、私の影も中に入れられるかな?」
「それはやってみないとわからないわね。そもそも切り離せるのかってところからだし。」
明日買い出しついでにギルドに頼みに行こうと言うことになった。
「そういえば、姉さんの煙って私にもあつかえるものなの?」
ふと疑問に思った。
使い方を教えると言われたが、どこまでのことができるのだろうか。
「難しいことはできないわね。でも目眩し程度なら簡単にできるはずよ。」
過去に何度か試したことがあるようで、数回練習すれば問題なくできるだろうと言われた。
「それも入れ物ができてからね。たくさん余剰の煙が確保できたんだから、ミリアの自衛用に持っておいて損はないわ。」
そう言う姉さんの顔を見て元気を取り戻したようで内心ホッとした。
翌日午後アダンのもとを尋ねると快く依頼を受けてくれた。
作業料の話になった時、料金は安くするから10個作る毎に12個分の材料をもらえないだろうかと交渉を持ちかけられた。
「私も1人から作業を請け負うより作ったものを元手に商売したほうが利益が大きいからね。」
割合的に2割の上乗せは果たして適切なのかわからなかったので姉さんに尋ねたが、悪くない交渉だという返答を得られたのでそれで契約を交わした。
一先ず20個依頼し25個分の材料をわたした。
「それにしても最初の依頼が入れ物とはね。大半の学生は髪飾りとかそういうのをお願いしにくるものだと思うんだけど。」
ここでできる手続きを終え内容を確認しながらアダンが言った。
「今の所必要がないので。」
「必要はあるでしょう。君、花姫に選ばれたんだよね?」
「あらもう噂がながれてるの?」
口を挟んだのは姉さんだ。
「商売してる奴らにとって情報は何にも変え難い。噂なんてものは1晩寝てる間にどんな動物よりも速く駆けていくものさ。」
君のことだと勘づいている奴らは一握りだろうけどね。と付け足す。
「必要になったらいつでも言うといい、君からの依頼なら私もこいつも歓迎するよ。」
ダンっとアダンのティーが尻尾をテーブルに打ち付ける音がする。
「それなら材料をもう少し出すのでついでにお願いしていいですか?」
その依頼の内容にアダンはまたしても快く引き受けてくれた。




