18
「しかし、相棒なしだと今年はともかく来年の授業は少し大変かもな。」
話題の切れ目にランが言った。
何人かはそれにうなずいた。
「そういえばそうね。」
姉さんが同意した。
「道具組に分けるわけにもいかないし、だからとって実体がないから別行動できるわけでもないしな。」
「その影って、このくらいの大きさに独立して動いたりできる?」
サクトの疑問は少し言葉が難しかったか要は姉さんみたいに意思を持った生き物であるかどうかという事だろう。
「それが…。」
そう言ってカップを置き、一度しゃがみ影を掴み引っ張りながら立ち上がる。
「どういうことかわからないんですけど、両手いっぱいに抱えてもまだ量に限界が見えないんですよ。」
そう言いながら掴んだ影をサクトに渡し、サクトが引っ張りながら横にいたランに、ランがシンに。
3人で持てるだけ持って引っ張ってみるがそれでもなお影は伸びてくる。
「それはそうよね。」
「影がひとりでに歩き出したらそれはそれで怖い。」
姉さんとライトが納得するように言った。
3人が手から離した影は3人それぞれの足元にある影に落ちて馴染みいつの間にか見分けがつかなくなっていた。
ココアを飲み終わり体が温かくなると、不意に眠気が襲ってきた。
その時、肩をポンポンと叩く小さな手。
振り返り見るとブラウニーズと呼ばれていた小人の1人が手を伸ばしていた。
気がついたとわかると今度は袖を引っ張ってくる。
「そろそろ寝る時間ね。後の事は任せていい?」
姉さんがそう言うと小人は頷く。
「お先に、おやすみなさい。」
小人に袖を忙しなく引かれてはいたが姉さんたちに一礼して挨拶をする。
何人かは手を振って見送ってくれた。
部屋に入ると有無をいわせず洗面脱衣所に押し込まれた。
姉さんに教えられた通り脱いだ服は置いてあるバスケットに入れて適温に沸かしてあった風呂に入っている間に寝巻きの入ったバスケットと入れ換えてあった。
洗面台の前に用意されていた椅子に座らせられると丁寧に髪を乾かされ再び手を引かれ部屋に入るとベッドサイドのオレンジの灯りが優しく灯っていた。
ベッドに上るのを確認すると小人は小さな椅子に腰掛け目を閉じてしまった。
(あの椅子はその為だったのか…。)
1日が長かった。
安直な感想ではあるが今はそれしか出てこなかった。
先ほどの姉さんたちのリアクションから分かることは、きっと明日も忙しい1日になるだろうと言う事だった。
鈴…?鐘というにはあまりに可愛らしすぎる音が聞こえる。
それに続いて肩を叩く振動で目を開ける。
小人が顔を覗き込みながら右手でベルを持ち鳴らし、左手で肩を叩いていた。
「おはよう…。」
その言葉を聞いてニコッと笑う。
起き上がると手を引きベッドから出された。
洗顔をし、部屋の中央に立たせられたかと思うとテキパキと着替えさせられる。
身支度が済むと背を押され部屋を追い出された。
「おはよう。よく眠れた?」
談話室に行くと姉さんだけが居た。
「姉さん、おはよう。」
食器を洗う音が聞こえる。
姉さんや他の人たちはすでに朝食を終えたのだろう。
「みんな先に出かけちゃった。今日の授業は9時から始まるから、そんな日は朝早いのよね。」
時刻は8時40分を過ぎたところだ。
「私たちは10時に12号棟に行けばいいからまだゆっくり時間があるわ。」
姉さんに促され椅子に座るとすぐに厨房から小人が出てきて朝ごはんをセットした。
スープから立ち上る湯気と匂いに食欲が刺激される。飲み物のオレンジの味がまだ起ききれていなかった思考を覚ましてくれる。
その後改めて身支度と忘れ物がないかをチェックして357棟を出た。
昨日は姉さんのティーで来たが今日は最寄りの停留所まで歩いて行く。
「あそこに見えるのが33号第4棟、このエリアにある1番大きな建物で100室以上の部屋があるわ。」
大きな集合住宅というものに縁がなかったので、規則的に並ぶ同じ大きさの窓や扉が各階ごとにきっちり同じもの積み重ねている巨大な建物に思わず見上げてしまう。
そんな建物のすぐ横に昨日乗り込んだ停留所より規模の大きい停留所があった。
「木曜日のこの時間は誰も利用者が居ないわね。朝の時間はこの辺りの寮生がみんな使うからすっごく混雑するのよ。」
姉さんがまた呼び出しと書かれた少し汚れの目立つスペースに黄色い札をかざす。
「その日の授業時間に合わせて大人数用のトロリーが移動してるわ。だから学生証をここに付けることで乗り込みますよって呼べるわけね。」
姉さんがそんな話をしている間に昨日乗った車と同じ物がやってきた。
「アズハー!!」




