最終章 島がおどる日 その一
「え !?」
みんなは驚いたように、イ・ミンジュンのほうを振り返った。
「イ・ミンジュン。倭館があった時、おまえの祖先が生まれたんじゃな」
「はい」
「倭館てなに?」
「倭館とは、朝鮮半島に作られた日本人の居留地だ。対馬と朝鮮は本当に近い。
民間レベルでは古代から日々、行ったり来たりということは行われていたであろう。
しかし、朝鮮は古くから外国だ。
朝鮮半島との貿易や交流するために、寝泊りする場所が必要となるので、昔から倭館というのは、場所や呼び名を変え、形を変えて存在した。
最終的には、プサンの港に近いところに、十万坪という広さ、といってもようぉわからんな、長崎の出島の二十五倍の広さをもつ......」
「そう言っても、ようわからん」
雄太の困った顔にみんなが笑った。
崎村老人も少しにこやかになり、続けた。
「とにかく、ものすごく広い場所を設け倭館が作られた。ここには、およそ五百人の対馬藩の武士や商人が住み、対馬藩と朝鮮王朝の外交の拠点となった。
ここではいくつかの厳しい規律もあったようだが、朝鮮王朝も認めた特別地区であった」
「わたしの家には、様々な日本のものがありました。その中でも一番の大切な宝ものをもってきました」
「それで、その秘宝は?」
イ・ミンジュンは部屋に行き、袋を持ってきた。
鮮やかな青と黄緑、黄色がグラデーションとなり、美しい光沢を放った布の袋。
みんなは、唾をごくりとのんだ。
布袋のひもをほどき、イ・ミンジュンが中から取り出したものは……。
「これは!」
「なんてきれいなブレスレット」
「いろいろな石が入ってるね」
「真珠も入っとる」
「朝鮮王朝が各国との貿易で手に入れた宝石と、対馬の真珠が組み合わされたものだ。
イ・ジュンミンの祖先が、朝鮮と対馬の間に生まれた子どものために作ったものであろう」
「これで、六つの玉ががそろった。あともう一つの玉って......」
「わたしがもっています」
「ルイファお姉ちゃん!」
真理子が大きく目を見開いた。
「わたし、ニッポンのみなさんにあやまりたい。
わたし、かなしい。こもだはま、くるしかった。ごめんなさい」
ルイファは、両手で顔をおおい肩を震わせてすすり泣いた。
「どういうことなの? おじいちゃん」
真理子が崎村老人をみた。
「ワン・ルイファは元の王朝を祖先にもつ...」
「ルイファお姉ちゃんは悪くない」
真理子が崎村老人の言葉をさえぎるように言うと背中をさすりながらなぐさめた。
「ぼくもおんなじだよ。ルイファの気持ちはよくわかる......。
でも、ルイファのせいじゃない。元気出して」
みつるもルイファのところにきた。
「そうだよ。ルイファのせいじゃない」
他の子ども達も全員がルイファの側に寄り添うようにあつまった。
ルイファは、みんなの方をむくと、
「みんな、ありがとう」
そういうと奥の部屋から、小さな箱を持ってきて、もう一度みんなの方を向くと、その箱を開けた。
「わー。なんだこれ! すごーい」
まるで目のように真ん中に黒いものが閉じ込められた透明の石。
「これは水晶だと思うが、真ん中に閉じ込められているのは何だ?」
「わたしもよくわかりません。ママが渡してくれました」
「たぶん、水晶が形造られる時に、なにかが閉じ込められたんじゃろう。珍しいものだ。
しかも、水晶の輝きがすごい。今まで見たものと比べ物にならないくらい輝いておる」
「おじいちゃん、これで、全部そろったと?」
真理子があどけない顔でたずねた。
「みんな、本当にありがとう......。ありがとう。
じいちゃんは、途中でもうだめかと諦めてしまったが、みんなのおかげで成し遂げることができた......」
崎村老人は深く目を閉じ、涙を流しながら、子どもたちに向かって、深くお辞儀した。
いよいよ明日は、対馬での最終日。
どんな一日になるのか、誰にも想像出来なかった。