最終章 島がおどる日 そのニ
翌日、全員早く起き、身支度を整え、朝食をとった。
今日は、対馬での探検最後の日だ。明日にはみんなそれぞれ、自分の家に帰る時がきた。
七つの秘宝がそろい、今日は、対馬の霊峰白嶽に登る。
崎村老人は車で白嶽の登山口まで子ども達を連れてくると、駐車場に車を停めた。
ここは登山口で、洲藻という場所。ここからは、白嶽の雄姿が見え、水も豊かで対馬の人々から愛される場所だ。
「さぁ、いよいよ今日は、霊峰白嶽に登るぞ!」
「白嶽に登るのは、俺も初めて! なんかドキドキすんなー」
雄太は嬉しそうに白嶽の頂上をみながら言った。
「わたしは違う意味でドキドキする―」
真理子が不安そうに言うので、みんな笑った。
「真理子ちゃん、大丈夫! 登れん時はじいちゃんがおんぶしてくれる」
雄太がいたずらっ子の顔で笑って言った。
「はー。こんな山でおんぶは大変じゃ。真理子ちゃん、頑張ってな」
崎村老人は真理子の頭をくるくるなでながら、顔を覗き込んだ。
崎村老人を先頭に、八人はいよいよ白嶽の頂上に向かって歩き始めた。
洲藻は水が豊富である。ここから登る道は水源の小さな沢に沿っている。歩き始めは、まだ歩きやすい道である。
そこを過ぎるとだんだん足場が悪くなった。ごろごろとした石が多くなり、急な坂道になっていった。
「慌てんでいいぞ。まだまだ先は長いからな」
「どんくらいかかると?」
「そうだな、片道が一時間半から二時間だ」
「ひえー。そんなにかかるとー?」
「あー、そうだ。しかし、歩けば歩くほど、残り時間は減っていく! はっはっはは......」
「そんなの、あったりまえじゃん」
雄太が宗太のまねをして言ってみた。
「ぷっ」
珍しく宗太がふきだした。
「雄太くん、なんばかっこつけとると! じゃんて、ははは」
真理子もお腹をよじらせるように笑った。白嶽に登る道中に、子ども達の笑い声が響いた。
しばらく歩くと、目の前に大きな岩があった。岩は、屋根のように横にかぶさり、狭いトンネルのようになっていた。
「これは行者の岩という。白嶽は霊峰だからな、多くの行者がここで修業したと言われる。
この岩場でも座禅を組んで何日も座っておったんだろうな」
「行者の岩、ここは有名だよ。ゴースト・オブ・ツシマっていうゲームでも出てくるよ」
「へー、さすが宗太くん、なんでも知ってるねー」
子ども達はいろいろな話をしたり、笑ったりしながら山道を進んだ。
途中から、笑えないほどに坂道が険しくなり、何度か足を滑らせたり、石につまずいたり、危険な目にもあった。
だけど、一人も根を上げることなく、頂上近くまでやってきた。
「もうすぐ頂上だ。みんな、よぉ頑張ったな」
大きな岩が目に付く。
「さぁ、この岩場が最後の難関だ」
「おじいちゃん、すごいですね。こんな高い山に登ったの初めてです」
たけるが疲れたような顔で言うと、下を見てブルブルっと身震いした。
もうすでに大パノラマが眼下に広がっている。
「さぁ、最後だ。この岩場を登りきれば頂上だ。頑張ろう!」
岩場には、ロープが垂れている。それにつかまなりながら慎重に崖を登った。
そして、ついに全員が頂上にたどり着いた。
「やったー。頂上だあ 」
「すっげー」
「真理子、息が止まりそう」
三百六十度に広がる海と山のパノラマ。
この世とは思えない解放感。
まるで、天空にいるかのように思え、八人は、目の前の景色に心おどらせていた。
崎村老人は一つ大きく深呼吸した。
「これまで、対馬の秘宝を探しにきた人たちは大勢おった。じゃが、なかなか形にならんこの秘宝に、これは絵に描いた餅だ。なんの価値もないと早々にかえった者。
秘宝の本当の姿が見えず、ただの財宝を探し続けた者。
対馬の秘宝など、はじめから無いと、まやかしだと言う者。さまざまな人間がこの島の輝きも力も見ないうちに退散した。
玉はのう、宝だとは限らん。恨みの玉というものもあるのじゃ。
何世代も時代を超え、受けつがれた恨みの怨霊だ。しかしこれはこれで、ものすごい力がある。
これを探して、消し去るというのも、じつはお前さんたちの使命の一つだった」
「ぼく、はじめは嫌だったけど、今は、大事な役目だったとよくわかる。」
「みつる。よう頑張ってくれた。
お前のご先祖が、ずっと抱えてきた遺恨を今日ここで断ち切るんじゃ。
そのために、おまえのかあちゃんは、こんな遠く離れた対馬におまえを来させてくれた。
わしの祖先は、その昔、大宰府を治めた少弐氏という士族だ。
対馬に惟宗を遣わせ、治めさせたのもわしの祖先じゃ。
宗氏となった惟宗は結局、最後は、わしの祖先を助けてはくれ なった。その恨み節は、我が一族に幼いころより教えられ、伝えられてきた。
また、惟宗に敗れた阿比留氏の子孫。
雄太、お前の祖先だ。
阿比留氏はもともと対馬を長く治めた士族だ。
神事をつかさどり、阿比留文字や阿比留神楽という独自の文化も生み出した優秀な一族じゃ。
歴史は重要だ。 時代に翻弄されながらも、一生懸命に生きた皆々の姿があったからこそ、今の時代がある。
先日、行った小茂田浜でのこともそうだ。お前たちも見たじゃろうが。元寇というものがあったのを。
元寇で対馬の人々をはじめ、壱岐、博多湾での戦いで、日本は多くの被害をこうむり、悲惨な最後を迎えた者も大勢おる。
しかし、そういう時代だったんだ。日本人もかつて、朝鮮や中国を攻めて、苦しめたこともある。
いつまでも恨みを抱えるな。恨み玉は子孫末裔えいまで不幸にするからだ。
だから、わしは、韓国のイ・ミンジュン。中国のワン・ルイファにも集まってもらった。二人とも、朝鮮王朝、中国元の時代に縁のある子たちじゃ。
今日は素晴らしい日となる。
対馬の伝説の美しい玉、その七つの玉を持って、対馬の霊峰白嶽にお前たちと登ることができた。
さぁ、たける。お前の一族が代々受け継いできた箱を開ける時が来たぞ」
「えっ、開けるんですか!」
戸惑うたけるに崎村老人は悟さとすように言った。
「潮干珠と潮満珠。 さぁ、開けてごらん」
たけるが箱を開けると、ものすごい光を放った。あまりの輝きに八人の姿も見えないほどに。
「うわーっ」
みんなが一斉に驚きの声をあげ、のけぞりそうになった。
その瞬間、子ども達が持つ秘宝の玉が、きらきらと四方八方に、見たことのない輝きと光を放ち始めた。
そうして七つの秘宝は、子どもたちの手を離れ、空中に浮いた。
うわー。
一斉にみんなが叫んだ。
秘宝に手を伸ばそうとするが、体が固まったように動かない。
そのあと秘宝は、潮干玉と潮満玉が入っている箱と同調するように輝きながら、箱の上に集まると、スーっと箱の中に納まるように消えた。
箱は輝きを少しずつ失っていき、同時にその形も薄くなり、しまいには消えかかった。
「じいちゃん! 箱が! 秘宝が!」
子ども達の叫び声がひびく。
やっと体が動き始めたのか、秘宝を指さし、秘宝を掴もうと、何度も飛び上がったりして騒いだ。
崎村老人は何も言わずじっと海を見ている。
小波は光に照らされ、ダンスをするように踊っている。
崎村老人の顔を見た子ども達は、もう誰も声をあげなくなった。崎村老人が見つめる海を七人の子ども達も見つめた。
光を失いかけた箱は霧のように形が崩れ、いつしか雲が生まれた。
「じいちゃん、雲が光ってる! 雲が飛んでる!」
「おお、まるで鳳凰だ」
七つの秘宝は光り輝く雲になり、静かに消えていった。
消え去る光を見つめながら、雄太が静かに話し始めた。
「おれ、秘宝があるち聞いて、はじめは秘宝が見たかったのと......、本当はおこづかいが欲しかったけん宝探しば始めた。
だけど、今はようわかる。対馬の宝は宝石とかそういうもんじゃなくて、こん景色。きれいな海や山や、じいちゃんが連れて行ってくれた神社や歴史の跡。
これが本当の対馬の宝やったんやね!
おれは、対馬に生まれたからには、こん対馬ん宝ば守ろうち思うた」
「雄太。すごいぞ。じいちゃんは、みんなに来てもろうて本当に良かったと今思うとる。
さぁ、旅立ちの時だ。
歴史の中でのいろんな因縁や遺恨は、すべてこの秘宝におさめ消え去った。それをここで見届けたお前たち七人が証人だ。
そして、新しい時代の幕あけだ!」
崎村老人と七人の子ども達は、いつまでも光躍る海を見つめた。




