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 近隣の屋敷から婦人と子供が集まったものの、宴とはほど遠い悲壮な催しだった。常であれば陽気に笑い料理に舌鼓を打つはずだが、揃って黙々と口に運んでいた。

 無理もない。明日には官軍が攻め込んでくることを皆知っている。

「わたしたちは殺されるの」

 静かな夕餉に少女の呟きが響く。答を求められた四郎は、安心せよと言いかけ言葉を飲み込んだ。

 自信がなかったのだ。個々の戦いであればいくらでも守る手立てはある。しかしそれが力量共に秀でた集団であれば、守りたくても守りようを見つけられない。仮に一人助けても、別の場所にいる一人を確実に救えなくなる。

「お静、お客人を困らせてはなりませんぞ」

 少女の母親が窘めた。毅然としているのは、すでに自刃を覚悟しているからだろう。

 四郎はさせてはならないと思った。

 ――子供らを、一所ひとっところに集めれば救えますよ。

 これ以上のない名案だ。しかし問題は四郎の言葉を母親らが受け入れてくれるかだ。

「某に預けてくださいますか。必ず守って見せます」

 母にべったりの甘え盛りでもあるし、ことによると同意してくれるかもしれない。そんな望みも持っていたが、返ってきた言葉は素っ気ないものだった。

「なりませぬ。武家の者としての務めがありますゆえ」

 務めとは自刃だ。あれほど溺愛を見せるのに死に様に関しては頑なだった。四郎は一縷の望みを託して他の婦人らを見渡した。

 皆、唇を噛みしめていた。

「四郎殿。そろそろお暇致しますか」

 永倉が堪りかねて席を立った。

  

 城下に向かう足取りが重い。若宮には篝火が焚かれ、少年と思しき米沢兵が健気に立っていた。万一に備えて寝ずの警護をするのだろう。明日の早朝。かれらがどのような情勢に追い込まれるのかを考えると、無性に辛かった。

 どうしたら現状を打開できるのだろう。

「水鷗流の奥義を活かせばよいと思いますよ」

 敵に和する? 違う。その権限は四郎にはない。では何だ。相打ちの極意か。

「そうです。勝ちは相手に譲って逃げるのです。幼児を連れさえすれば負けにはなりません」

 最善策はそれしかない。しかし会津でもそうだと思うが、この地方には妙な家訓がありその呪縛を解くのは容易ではない。

「では、まず逃げ道を確保しましょうか」

「戦わずに逃げると仰るのか」、

 永倉が納得いかぬ顔を見せた。二本松には世話になった米沢兵もいる。見捨てるには忍びないのだろう。

「できたら大砲を壊したいですな。そうすれば、何か糸口を掴めるやもしれん」

「永倉殿。西賊は五千ですよ。対して二本松は老人と子供を入れても六百にも満たないのです。伝習隊のいる会津とは違いますよ。大砲を壊しても勝負になりません」

 イズミは有無を言わせない。永倉は納得するしかなかった。だがそれで問題が解決されたわけではない。お家存続の望みが断たれてしまえば、武家の婦人らは自刃する。

 先ほどの夕餉に集まった幼児は八人いた。救い出すには婦人らが寝静まってからが最善だ。が、それは押し込み強盗と変わりない行為。子供も泣き叫ぶだけで同行を望まぬに違いない。幼児が望み、渋々でも婦人が了承するには逼迫した情勢が不可欠になる。

「婦人らの自刃は官軍の砲撃が始まり、若宮口が破られた時点で行われるでしょう。ですので子供たちを救いだすのはその前です。二人で手分けして、無理やりでも抱きかかえてください。くれぐれも時期を誤らずに。早くても遅くても聞き入れませんから。首を落とされた子供は見るに堪えられませんよ」

「それでは四人しか救えぬ」

 永倉が不満そうに言い放つ。その通りだと四郎も思う。幼児を両脇に抱え、一人負ぶったとしても六人が限度だ。

  

「なら、拙者も救いだそう」

 突然、背後から懐かしい声がした。振り向くと軍服姿の伝八が姿を現わした。軍服の所々が破けているのは、待ち伏せする敵を強行突破してきた名残なのだろう。

「おお、須賀川から参られたか」

 四郎と永倉が声を合わせた。

「二本松の小隊も先ほど戻りました。拙者は会津へ向かう新選組と別れ、二本松勢と共にここへ」

 伝八が例の苦笑いを見せた。おそらく須賀川で、二本松に兵がいないと知ったに違いない。ここへ来れば死が免れないというのに何と肝のすわった男だ。四郎は目頭を熱くさせた。意気に感ずとは、まさに伝八のような男のことをいうのだろう。

 ただ現状は、伝八が一人加わったところで大勢に影響はない。しかし確実に救える幼児が三人増える。そのぶん幼児を連れての逃走は難しくなるが守りがいもある。

 一筋の光明を見出した四郎らは、城下の先の祠を一夜の宿とした。

 横になり格子の外を見た。藪が揺れていた。しだいに風は強まり、つかの間抱いた思いを砕くよう、祠の壁に吹きつける。藪の上の空に月も星も見えなかった。野犬の遠吠えだけがやけに空しく耳に入り込んできた。


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