【BOX_10】消耗_02
竜崎を新たに仲間に加え、5人で活動することになった大和達。
しかし、アームをある程度扱える竜崎は他のメンバーの弱さを知ったことで徐々に苛立ちを露わにしていった。日が経つ事にそれは顕著になり、関係にほつれが生じ、次第に軋轢が生まれ始めていた。
死の境界線に送り込まれてから既に2週間。
皆にも苛立ちや焦りが生まれていた。
2日おきのクラッシャーの制圧はかろうじて対処出来ているが、疲労が抜けきれない状態での戦闘はこの先何らかの問題を引き起こす可能性があった。
現に、戦いに慣れていないヒョロや源五郎には精神的にも肉体的にも負担がかかっていた。
そんなある日、事件は起こる───。
「だからなんでそう勝手なことするんすか!!」
「俺は俺の戦いやすいようにやるだけだ」
「それが勝手なんすよ!俺達はひとりで戦ってたら死んじゃうんす、チームワークが大事なんすよ!」
竜崎のチームを無視した戦い方を見かねて、ヒョロが抗議をしたのだった。
「俺は別にこっちに来たくて来たわけじゃない。鉄壁にいたら殺されるからこっちに来ただけだ」
「だからと言って何してもいいわけじゃないっすよ!!」
「んだとぉ!?」
ヒョロの前に立ち睨み付ける竜崎。
体格は竜崎の方が圧倒的に上だ。
ヒョロでは手も足も出ないだろう。
竜崎の威圧に押されてたじろぐヒョロ。
「うっ、くっ……」
「やめろ竜崎、仲間同士で喧嘩をしている場合じゃない。ヒョロの言うことも確かだ。
俺達は人数が少ない、そこは戦い方でカバーしないとクラッシャーを倒し続けるのは不可能だ」
「俺は弱い奴と馴れ合う気はないんだ、だからジョナサンの方についた。
この世界がゲーム通りなら強い奴じゃないと生き残れねぇ。
だとしたら、こいつらは足手まといなんじゃないのか?」
竜崎はヒョロ、桂子、源五郎と3人を見渡す。
「このままお荷物抱えて敵と戦えっていうのか?」
「竜崎、それは言い過ぎだ。今、ここを生き延びるのに必要なのは強さだけじゃない。
智恵と忍耐、そして助け合う心が必要だ。現にヒョロの考えがなければ食料の確保は出来なかった。
桂子君にはエネルギーの補給を、源五郎さんとアイデスには周辺情報の捜索を。
そうやってこの2週間を生き延びてきたんだ」
「なら俺は必要ねぇな。綺麗事はいいんだよ。俺はそういった馴れ合いにうんざりしてるんだ!!
結局のところ、頼れるのは自分の力のみだ」
「おい、竜崎!!どこに行く?」
「やめだ、俺はひとりでやっていく。その方がマシだ」
「竜崎!!待て!!」
ひとり出て行く竜崎を止めようとするが、制止を振り切られる。
「竜崎さん!!せめて、あの…これを…」
桂子は竜崎に近寄り木の実、草と実を混ぜて固形にした食料の入った袋を渡す。
「……」
袋を黙って受け取り、そのままいなくなる竜崎。
「なんなんすかあいつ!!桂子ちゃんも、俺らが頑張って集めた食料渡すことなんてなかったんすよ!」
「でも、ひとりで生きていくって、そんな簡単じゃないから……」
「確かにあのままだと危ないだろうな。アイデス、彼の動きを捕捉できるか?」
「肯定です。トレースします」
「源五郎さん、アイデスが竜崎の場所を特定したら教えてくれ」
「わかったぞい」
「俺たちは明日のクラッシャー襲撃に備えてアームのステータス確認と食料を集めておこう。
それと、次に拠点を移した方がいいかもしれない。ここ数日でジョナサン達の機体がこの近くで何かを探していた。そうなんだよな、アイデス?」
「肯定です」
「そしたら彼らに見つからない場所を探しつつ、水場も探そう。流石に2週間このままではきついからな」
大和は上着を脱いでタンクトップ姿になる。
2週間汗だくでシャワーを浴びれない状態は色々と限界に来ていた。
「了解っす」
「私も賛成です。流石に臭いが気になっちゃって…」
「桂子ちゃんは良い匂いがするから大丈夫っすよ!俺らなんかは臭くてもう」
「ヒョロくん……変態です…」
「へ?」
「ヒョロの坊主、嬢ちゃんのフォローになってないぞい…」
「肯定です。変態です」
◇
大和達から離れ、ひとり歩く竜崎。
「クソッ、イライラするぜ。あんな奴らといるならひとりで安全地帯でも探しておいた方がまだマシだったぜ…。むしろ、機体のひとつでも奪ってジョナサンに渡せば鉄壁に戻れるか……」
独り言を呟き考える竜崎。
「……ないな、それじゃあ嫌いなあいつらと一緒だ…」
強い奴じゃないとこの世界は生き残れない─────。
竜崎がBOXを始めたのはラストミッションの1年前。
子供の頃から、正義感は人一倍ある子だった。
3歳上の姉を持ち、優しい姉には甘やかされて育った。
両親は仕事で忙しく、あまり相手にしてもらえなかったが姉だけは変わらず自分の面倒をみてくれた。
竜崎はそんな姉が嫌いではなかった。
唯一、心を許せる存在だった。
生活が一変したのが、竜崎が高校に入学した時。
姉が暴漢に襲われるという事件が発生した。
偶然、その場に居合わせた竜崎が犯人を返り討ちにし、殺される寸前の姉の命を救った。
正当防衛が立証され竜崎は罪に問われなかったが、その事件は瞬く間に校内や近所に広まり、
犯人を半殺し扱いにした高校生として周りからは腫れ物のように扱われるようになった。
悪いのは犯人だったはずだ。
どうして自分達の生活がおかしくならなければいけない?
竜崎は周りと関わるのが次第に億劫になり、いつしか学校にも行かないようになった。
その時、竜崎は思った。
真実を知らず、勝手なレッテルを貼られて阻害されるのなら、
最初から周りと協調する必要はないのだと。
その時、彼はBattle Order Xaxisに出会った。
レンタルブースというカラオケ屋のようにBOXのコクピットを時間制で貸し出す店が
広がり出していた時代、暇を持て余していた竜崎は自身がゲーム好きだったこともあり、
このゲームに没頭した。
周りのことを忘れ、ただひたすらに星を救うミッションにストイックに挑み続けた。
BOXは過去の自分に関係なく生きることが出来た。それは竜崎にとって、唯一自由と呼べる時間だった。
竜崎にとってBOXは現実世界の鬱憤を晴らす舞台だったのだ。
それ故に、過去がちらつくような人間や関係を強いられるのは我慢ならなかった。
所詮大和達も奴らと同じ────。
キュウィイイイン!!
突如響き渡る地面を滑る機体の音。
それに気付いた竜崎がアームを起動しようとするが、時既に遅かった。
3体のブラントに三方向からマシンガンを突きつけられる。
おとなしく手を上げ、その場に立ちつくす竜崎。
「動くな、動いたら殺す」
ブラントの外部スピーカーから響く男の声。
「今までどこに行っていた?97位のところにいたのか?」
「………」
「答えろ!!」
「…聞いてどうする?」
「勿論、奴らの全滅だ。奴らは着実にスコアを稼いでいる。鉄壁に更新される情報を見れば一目瞭然だ。ボスには敵わないが放っておくには面倒だと判断した。見つけ次第、殺す」
男は淡々と喋る。
「答えろ、答えなければ殺す!!」
「………あっちだ」
竜崎は指を指す。
大和達がいた拠点とは“反対の方向”を。
「本当だな?」
「知らん。拠点も移動する可能性がある、興味まではそうだった。それだけの話だ」
「…わかった」
「おい、こいつ。例のアレに使えるんじゃないのか」
隣にいたブラントが仲間に話しかける。
「アレか…。そうだな」
「おいっ!なにをするっ!!?」
ブラントに掴まれ動けなくなる竜崎。
「97位の場所も判明した。お前は作戦の役に立ってもらう」
「作戦だと!?」
「あぁ、俺らがトップになるためのな…!」
◇
場所は代わり、大和達の行動。
「前方500メートルに水源地を発見」
「アイちゃんが水のあるところを見つけたようじゃわい」
「本当か、源五郎さん!アイデスにそこまで誘導してもらえるようお願いできるか」
「うむ、アイちゃん。そこまで連れて行ってくれい!」
「了解です」
アイデスの誘導で小さな川があるところまで移動する。
「ホントに川があったっす!!」
「やった!!」
久しぶりの水にテンションが上がる4人。
「これでようやく汚れを落とせる…」
「水も確保できそうだし、なんとかなりそうだな」
「飲み水にする場合は水質を確かめないといけないっすけどね。ザリガニがいれば問題ないんすけど」
「水質に関係してるのか?」
「ザリガニがいれば一級品っすよ!飲んでも問題ないっす。まぁ、この世界にザリガニがいるのか疑問っすけど……」
「大和さん、あの、私、水浴びしてきてもいいですか?」
「ああ、そうだな。俺達で見張りをしてるから入ってくるといい」
「アイちゃんを連れて行くとええ。不審者がいたら教えてくれるじゃろうて」
「源五郎さん、ありがとうございます。よろしくお願いします、アイデスさん」
「了解です。警護します」
源五郎からキーホルダーを借り、川へと進んでいく桂子。
「源五郎さん、紳士っすね」
「娘より下の子じゃよ。当たり前じゃろうて」
「爺さん、娘がいるんすか?」
「おる。孫の母親がわしの娘じゃ。わしにとってはいつまでも子供じゃがの」
「なるほどっす。では……」
「…ヒョロくん、やめておいた方がいい」
川の方にこっそり近付こうとするヒョロを大和が止める。
「兄貴、ちょっとだけ。ちょっとだけっすから」
「ダメだ。こういうのは信頼問題に発展する」
いけない、と首を横に振る大和。
「桂子ちゃん、眼鏡取るとめっちゃ可愛いんすよ……お願いっす!!ちょっとだけ、下着の色見たら戻りますから!俺辛抱ならないんっす!兄貴お願ぐっ!?」
源五郎の拳がヒョロのみぞおちを的確に捉える。
「少し頭を冷やすとええ」
「お手数お掛けします……」
気絶したヒョロを気の陰に置いて、大和と源五郎も座って休息をとる。
「…孫はこの世界に来なくて良かったかもしれんな。タフでないと生き残れん」
「お孫さんは病気でしたっけ?」
「喘息を悪化させていてな。元々体の強い子ではなかったが、色々あったんじゃろう。
このゲームがなくなる、ということをとても残念がっておった。
今となってはゲームではなくなってしまったがの…」
源五郎は空を見上げる。
「お孫さん、お会いしてみたいですね」
「きっと仲良くなれるじゃろうて。主も、若いなりになかなか落ち着いておる。判断も冷静なようじゃ、孫に見習わせたい」
「恐縮です。周りの見本になるようなことが多かったものですから」
「君は君で苦労してるようじゃの」
ぬるい風を感じながら、2人会話を交わす。
一方の桂子は川辺で靴下を脱ぎ、上着とシャツを脱ぎ、汗まみれのブラジャーを外していた。
なにかあった時に動けるように、下は履いたままにする。
「解析完了。水質問題なし」
「アイデスさん、ありがとうございます。ふぅ……あっ、冷たい」
イマジネーションドライブの成分分析をアイデスに使用してもらったところ、綺麗な水のようだった。
桂子は水を口に含み、久しぶりの潤いを感じる。
その実感がゲームではなく現実であることを呼び起こし、複雑な気持ちにさせる。
しかし、渇きに苦しむよりはいいと割り切る。
「気持ちいい……水を浴びるのがこんなに気持ちよかったなんて」
自分がここまでサバイバルを頑張れるとは思っていなかった。
人間、追い詰められればなんとかなるものだ。
地球ではノロマと言われ、置いてけぼりにされることが多かった日常にくらべ、
ここでは大和を含め自分を必要としてくれる人がいる。
皮肉な話だが、桂子にとってBOXの世界の方が自分の価値を感じられるのであった。
友達2人に誘われて始めたこのBOXも、仲間外れにされないためだった。
支援に回り続け、相手をサポートし続ける。
上手く立ち回れれば褒められ、余計なことをすると罵られる。
自分の立ち位置をつくるために好き嫌いではなくやっていたゲームだったが、
こういう形で違う人の役に立つとは思っていなかった。
むしろ、もう少しゲームについて勉強しておけば良かったのかもしれないと桂子は思った。
言われたことをそのままやっていた桂子にとってBOXはほとんどが未知のゲーム。
知っていればもう少し違う形で彼らの役に立てたのかもしれない。
「あまり待たせるのも悪いし、そろそろ上がらないと」
過去の思い出を頭から消し、
体の水を極力落として川辺から上がる。
「竜崎のマーカーが停止。不審点によりアラートを報告しました」
「竜崎さんが!?皆のところに戻らないと!」
アイデスの報告を受け、急いで大和達のところに戻る桂子。
「大和さん!!竜崎さんが!!」
「桂子君!?……って上、上!!」
「上?」
「見えてる!!胸、見えてるから!!」
慌てて出てきたために、シャツを完全に止めきれずブラジャーが見えているのを指摘する大和。
「えっ……キャーッ!!?」
「(黒っすか)」
「(黒じゃったか)」
「黒と断定します」
「アイデスさんは言わなくていいです!!そうじゃなくて、竜崎さんが危険なんです!!」
◇
竜崎のマーカーが鉄壁より離れたところで活動を停止。
その周りにもいくつか生命反応を示していた。
「この地点でずっと止まっているらしいんです」
「休んでいる、とかじゃないんすか?」
「ここは見通しのいい場所です。休むにしてはクラッシャーからもジョナサンからも狙われることになります」
「不自然じゃの……」
「捕まった、と考えるのが早いか」
「いい気味っすよ……」
「ヒョロ、それは違う」
「でも!あいつは俺らのことを馬鹿にしたんすよ!!」
激昂するヒョロを大和が諌める。
「確かに、それ自体は誉められたものではない。けれど、だからと言ってそれを見捨てていいという理由にはならないんだよ」
「そうかもしれないっすけど……」
「この件は…僕が確かめる」
ヒョロは大和の前に立ちはだかる。
「なんでなんすか!!見捨てない理由にはないかもしれないけど、兄貴が行かなきゃいけない理由もないじゃないっすか!」
「あるんだよ……」
「大和さん…私も反対です。私達が2週間生きてこれたのは大和さんの的確な指示と援護があったから!
大和さんがいなくなったら、私達は…」
「桂子ちゃんの言う通りっす!!俺らには兄貴が必要なんすよ」
「わしも同じ意見じゃ。彼をそこまで助けに行くことは必要なのかの?」
「必要とか、必要じゃないとか、そんなことじゃないんです。もうイヤなんです…同じことを繰り返すのは…」
大和は3人の制止を振り切り、ブラントを起動させる。
「なんでなんすか……兄貴…」
◇
鉄壁より3km離れた地点、竜崎は手足を縛られアームに乗せられていた。
アームには手足脚が無く、まるでだるまのように設置されている。
周りには3機のブラントが様子を見ている。
大和はブラントのステータスをモニターで確認しながら、
セットされたイマジネーションドライブに目を通す。
【弱点集中】
【背後視点】
【限界起動】
“全てを守る”ために、考え抜いたイマジネーションドライブ。
大和は覚悟を決めると操縦桿を握る。
「そこのブラント、アームを使って何をしている!」
「赤いブラント?97位か、面白い奴が連れたな!!」
「答えろ、そのアームはなんだ?」
「ふん、自分で確かめるんだな」
ブラントはマシンガンを大和の方に向けながら、アームを見るように促す。
アームに近づく大和のブラント。
「竜崎、竜崎が中にいるのか!?」
「その声は…お前、何故ここに来た!?」
「仲間が不審な動きを見つけたんだ。このアームはなんなんだ?」
「…爆弾だ……」
「何?」
「爆弾だ!捨てられたアームのイマジネーションドライブでつくられた使い捨ての爆弾なんだよ!!」
「何!?じゃあ早く機能を停止するんだ!!」
「やれるならもうやってる。俺は今、身動きが出来ない」
「残りエネルギーは?いくつだ!?」
「100%だ。それに補給付き。明日来るクラッシャー襲撃まで十分に保つ。
コクピットを開けた時点で爆発する条件に設定してある。どうあがいても無理だ」
「諦めるな!!なにか、なにかあるはずだ…」
大和は必死に爆弾を止める方法を考える。
「……どうしてそこまで他人のことで必死になれる?」
「他人だからだ!目の前で命がなくなるのは、なにもできないのは嫌なんだ!!」
「……そうか、残念だが無理だ。どうしようもない。そこにいる奴らを殺しても爆弾は解除されない。これは人間の悪意の塊だ。人は追い詰められれば悪魔にもなれる。人を使い捨ての駒にできるゴミ野郎どもの考えることだよ!!」
「それでも!!そうだとしても……俺はその悪意を受け入れるわけにはいかない。俺はそんなものに絶対屈しない…!!」
「………勝手にしろ」
「あぁ、そうさせてもらう……」
大和は竜崎の乗るアームの前に立ち、ブラントを省電源に切り替える。
クラッシャー襲撃予測地点を待ちかまえるように仁王立ちをし、その奥を見据えた。
「絶対に、守ってみせる………こんな馬鹿げたこと……あってはならない」
エネルギーの温存をしつつ、前方から襲いくるクラッシャーの群体200と後方から来るジョナサンのアームを退けなければいけない。
クラッシャー襲撃の時間は今から12時間後。
最悪の戦いまで12時間の、大和と爆弾の命懸けの勝負が始まった───。




