全員集合、作戦会議
永遠子についていった璃沙は途中で海里を見付けていた。璃沙に近い人間は異変の影響を受けにくいと永遠子は言った。
どういうわけかわからない。だが、海里については例外のようだった。元々の彼の脆さ故にか、今にも心中させられそうな勢いだった。
携帯電話を奪い取ってメールを消そうにもロックをかけている。念じてはみたが、実際消えたか確認ができないし、説得は無駄だ。だから、首根っこを掴んで部室に連れて行こうとしているのである。
永遠子がそうしろと言ったからこそ、海里が暴れるのを無視している。最も、その永遠子は一人どこかに行ってしまった。
『あの、鬼海先輩は……?』
部室に近付いて、声が聞こえてきた。健心である。どうやら彼らは先についていたようだ。
「捕まえてきた」
扉を開け、璃沙は海里を部室内に放り込む。様子を見てみるが、暴れ出すわけでもなく。ちょこんと座って、きょろきょろとしている。大丈夫そうだ。
「こっちで何か話した?」
どれだけ話が進んでいるか璃沙は確認したつもりだった。
「今、この事態が《呪術師》と関係があるのか、メールが原因なのか皆で議論していたところだ。そこに神木とテラ少年がやってきた」
光明は言う。つまり、全く話は進んでないということだろう。奏人は部屋の隅で璃沙の浄化グッズを眺めている。明らかに休憩している様子だ。
「神木、あんたが纏めなさいよ。何の策がないって言うならぶっ飛ばすわよ。って言うか、全員に話しなさいよ。あんたの口で、きっちりとみんなが納得できるように」
璃沙は棚を開けて目当ての物を探しながら言う。
「いや、あのさ」
「それとも、あたしの口から言ってほしいわけ? この騒動の原因は他ならぬうちの生徒会長様のお家のいざこざが原因で、壮大なお家騒動にみんな巻き込まれちゃいましたー、って」
もう璃沙が秘密にしてやる理由はなかった。
「《呪術師》とお前……、何か関係あるのか?」
光明が訝しげに奏人を見る。否、彼だけではない。星河や蔵重、生徒会メンバーも一斉に奏人を見る。
「あちら悪意の塊《黒呪術師》さん、こちら自称正義の《白呪術師》さん。隠れでヘタレなサイキック」
「ほとんど君が言ってるんじゃん! しかも、ちょいちょい嫌みっぽいし!」
「だって、時間がないのに、あんたウジウジしそうなんだもん! 何とかしなさいよ、このへっぽこ《白呪術師》!」
「はいはい、そうですよ。俺はちょーへっぽこの《白呪術師》ですよー。だから、君の力が必要なんだよ。何で俺が頑張ってやっとできることを見様見真似でやっちゃうかな……泣くよ、俺」
奏人は普段の威厳はどこに消えてしまったのか、落ち込んでいる。健心が言ったのだろうが、彼のプライドを打ち砕いてしまったらしい。
「違う。ここにいる全員の力が必要なのよ」
奏人だけではどうにもできない。海里は力を使いこなせない。残りは霊的な力を持っていない。それでも、今は力を合わせる必要があると璃沙は考えていた。力がなくてもできることがある。
「言いたいことも聞きたいことも山のようにある。でも、それは後にしてやる」
「言えよ。俺らに何ができる?」
光明と星河の心は既に決まっているようだ。
「まあ、これまで使われてきたんだ。とことん使われてやるさ」
蔵重にも彼なりの覚悟があるようだ。
「まあ、俺ら、かいちょー様の無茶ぶりには何度となく耐えてきたからな」
「どっかのオカルト集団のせいで、なんにも驚かなくなっちゃったわよねぇ」
「金さえあれば何でもいいっスよ」
「どうせ、雑用ですから……」
生徒会メンバーもすっかり慣れてしまっているようだ。
「外は詐欺師達が今走り回ってる。あんたの家にはほとんどテロみたいな電話かけてある。すぐに動くでしょうよ。さあ、こっちの作戦は?」
永遠子は途中神木家に電話をかけて、一方的に暴言を吐きまくっていた。それほどまでに緊急事態ということになるわけだ。
そこでようやく、こちらの司令官は元気になったようだ。
「目には目を、歯には歯を、メールにはメール、白には黒、不幸には幸福を大作戦!」
奏人は壁から背を離し、ビシィッと指を突き付けるようにして、ポーズを決めた。
やたらと長ったらしい作戦名である。
「説明しよう。この作戦は……」
ポカーンとなる全員を見回して奏人は顎に手を当て不適に笑ったが、大仰に語り出そうとするのを璃沙は遮った。
「わかってるわかってる。幸福のメール作ろうって言うんでしょ?」
「さすが、璃沙。俺の言いたいことはお見通しだね」
「いや、今のは普通にわかったぞ……なぁ?」
「あぁ、作戦名に全部込めやがって」
顔を見合わせる光明と星河の言葉に、奏人以外の全員が頷く。奏人はそれを《白呪術師》だからこそわかることだと思っていたのだろうか。
「って言うか、永遠子さんに言われて文面は作ってあるのよ。今、送るから」
行き着くところは同じだったというわけだ。永遠子が電話をしている間、璃沙はメールを打ち、その後で海里を回収している。すっかり彼は大人しくなっている。状況も飲み込みつつあるだろうか。
「あ、ああ…………完璧だ」
奏人はメールを確認して、満足げに頷く。
「よし、これからメールを送るから、拡散してくれ」
璃沙自身、こんなメールで、とは思う。しかし、呪いのメールも信じる心があるかどうかに大きく左右されるという。これはテロであるが、それほどの強い効果はないらしい。だが、混乱すればするほど、事態は広まり、大きな事件にもなるかもしれない。だから、ここで叩かなければならないのだ。それはもぐら叩きのようでもある。
「天神と光明、火爪は制圧班とする。暴れてるやつがいないか見て回ってくれ。もし、いたら、とりあえず制圧だ。メールを強引に見せれば落ち着くはずだ。この際、多少の暴力は致し方ない」
ちらりと健心が視線を向けてきたのがわかった。璃沙として嬉々として暴力を振るうわけではない。というか、守るためには仕方がないのだから暴力などと言わないでほしいものである。
「荒金と黒土、冷水、鬼海は拡散班だ。ここでメールを送って、後、サイトなんかにも書き込んでくれ」
奏人が指示をすると海里が動き出す。もう大丈夫だろう。ここに来るまでにあった嫌な空気はもうない。
「制圧班は外がある程度落ち着き次第、メール班に連絡。連絡を受けたら荒金と黒土は外に出て、怪我人や具合が悪いやつがいないか確認してくれ。ここにでも連れてくれば大丈夫だろ。対処は冷水と鬼海に任せる。それから、蔵重、お前は好きにしろ」
「いいのか?」
「お前は臨機応変に動けるからな」
文芸部の一件があるからか、奏人は蔵重のことを随分と買っているらしい。
ジャーナリストを自称する彼は嬉々として飛び出していくわけでもない。尤も、ここが最前線だと言えるのかもしれないが。
健心はそわそわしていた。制圧班でも拡散班でもない。だとすれば、あと何があるのか。それとも忘れられているのか。
そして、奏人が視線を投げる。
「璃沙とテラは俺ときてくれ」
「えっ、な、何で俺ですか!? 俺、ただの人ですよ! 期待値ゼロですよ!」
「うん、期待はしていないよ。一心さんが三人いるとか笑えないからね」
確かに、と璃沙は内心思った。三兄弟で随分とタイプが違う。皆、一心のようだったらやりにくいことこの上ない。
「ストーリーテラーが必要なんだよ。俺と璃沙の愛の……え、ちょっと、待って、何でみんなそんな怖い顔するの」
彼は確実に余計なことを言おうとしていたのだろうが、空気がそうさせなかった。
「この気を抜くと馬鹿になる《白呪術師》様が真面目に仕事するようにケツを蹴り飛ばしてればいいのよ。あんたは強い意志を持ってるから大丈夫」
「はい!」
「よろしい」
なぜか、璃沙は自分が彼の飼い主のような気分になってきた。しかし、そこで捜し物が見付かった。
「この際だから、これ、売りさばいちゃいましょ。作り溜めておいたのよね」
棚から出した箱をどんとテーブルの上に置く。
中には天然石で作った大量の天使のストラップである。
「こんな時に何考えてるんですか!」
「こんな時だから売るのよ。呪いのメールで不安になってる、そんなあなたにオカ研印の開運天使のストラップ。良心価格の五百円。ワンコインで幸福を、ってね」
璃沙もやりたくてやるわけではない。元々、文化祭での特需に備えて暇な時に作っていたものだ。
「わあ、可愛いですね、僕も買っていいですか?」
「僕もほしいです」
「あんたにしては趣味がいいじゃないの」
海里と冷水、黒土がまるで女子のようにキャッキャと言っている。
「冥加先輩は温いっスよ。もっとふっかけられますって」
「ボロ儲けしたってしょうがないでしょ」
こんな時でさえ荒金はキラキラの電卓をちらつかせる。
「あ、在庫のブレスレットも売っちゃっていいわよ。なくなったら、カタログとサンプルがどっかにあるから、予約受けちゃってもいいし」
商売する気満々と言われても仕方ないのかもしれない。だが、できることをするだけだ。永遠子の指示でもある。
若干微妙な空気になった中で、気を取り直すようにパンパンと手を叩く。
「じゃあ、作戦開始!」
「って、結局、君が仕切ってるじゃん!」
奏人は不満げだったが、今の彼にリーダーシップを求める方が間違っている。




