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数値がすべての世界で、僕にだけ『測定不能』の才能が見える 〜見捨てられた少女たちと成り上がる〜  作者: guil727


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第9話 測定不能の本当の意味

「――やめろ!」

ユリウスが叫んだ。

「欠陥品が、こんな場所で暴発させてみろ! 後ろの者たちごと――」

「うん」

セラは、穏やかにうなずいた。

「あたし、欠陥品かもね」

その声には、もう、あの乾いた明るさはなかった。

「でも、今ここで撃てるのは、あたしだけだから」

彼女が、ちらりとこちらを見た。

僕は、うなずいた。言うことは、一つしかない。

「大丈夫。君ならできるよ」

セラは、少しだけ笑った。それから、まっすぐに大熊を見据えた。

白金の光が、彼女の両手へと集まっていく。

森で初めて撃ったときとは、違う。あのときは、込められるだけの力を全部、ただ前へ叩きつけた。森に一本の道ができるほどに。

今は、そうじゃない。

光が、細く、細く、絞られていく。

「……魔力を、一点に」

セラが、小さく唱えていた。

「流れは細く。形は槍。先端に重さを。……先生、いつも言ってたよね」

それは、さっき学生たちが唱えていた詠唱の、骨組みだった。

一年間、一度も使えなかった教え。それを、彼女は自分の手で、今初めて形にしようとしている。

大熊が、前足を振り下ろした。

狙いは、僕とユリウスだ。その後ろに、動けない五人がいる。

ここからは、逃げられない。

とっさにユリウスの前に身を投げ出そうとした、その瞬間だった。

「――引け、荷物持ち!」

ユリウスが、僕の肩を後ろへ引き倒した。

そして、ひびの入った銀の杖を、前へ突き出すのではなく――地面に、突き立てた。

詠唱はなかった。ただ、彼は牙を食いしばって叫んだ。

「――守れ!」

水色の光が、彼の体からあふれ出した。

さっきまで、ずっと苦しそうにきしんでいた光。それが今、解き放たれたように広がり、杖を中心に、穏やかな湖面のような半球を描いた。

僕とユリウスと、後ろの五人を、すっぽりと包む水鏡。

大熊の爪が、それに叩きつけられる。

水面に石を投げ込んだように、波紋が広がる。轟音。足元の地面がひび割れる。

――それでも、水鏡は割れなかった。

「……これが、僕の……?」

ユリウスが、呻くように呟いた。杖に入ったひびは、不思議とそれ以上広がらなかった。

大熊が苛立ちもあらわに、もう一度前足を振り上げる。

そのとき、大熊の巨大な頭が、ぶるりと横を向いた。

そこに、もっと気になるものがあったのだ。

魔物には、素質の光は見えない。それでも、本能でわかるのだろう。今この草地で、何が一番危険なのか。

セラの両手に、細く長い光があった。

槍だった。白金の、一本の槍。さっきユリウスが放った大槍よりずっと細く、ずっと静かな槍。

でも、その光の密度は、見ているだけで目が焼けそうだった。

大熊が咆哮し、セラへ向かって駆け出す。地響き。三十歩が、二十歩に。

セラは、動かなかった。

その光は、もう揺れていなかった。

十歩。

「――いっけえぇぇっ!!」

光が、走った。

音はなかった。ただ、一本の白い線が、大熊の胸の中央を貫き、背中から抜け、そのままはるか彼方の空へと消えていった。

大熊の足が、止まる。

その巨体が、ゆっくりと前のめりに傾いていく。

セラの、ほんの五歩手前で。

地面が、大きく一度だけ揺れた。

それきり、大熊は二度と動かなかった。

静寂が、草地を包んだ。

倒木の陰から、ひとり、またひとりと、学生たちが顔を出す。そして、それを見た。

倒れた森の主と。その前に立つ、赤い髪の少女を。

「……うそだろ」

「あれが……測定不能の、暴発の――」

「暴発じゃない。完全に制御してた……杖もなしで……」

ざわめきが、波のように広がっていく。

その中で、誰かが、いやよく通る声で言った。

「ユリウス様の大槍でも、傷ひとつつかなかったのに……」

一瞬で、空気が凍りついた。

言った本人が、慌てて口を押さえる。だが、言葉はもう戻らない。

ここにいる全員が、見ていた。「これが本物の魔法だ」と言い放った首席の炎が、大熊の毛を焦がしただけだったことを。そして、「欠陥品」と笑われていた少女が、それを一撃で貫いたことを。

ユリウスは、杖にすがったまま、何も言わなかった。

水鏡の結界が、音もなくほどけて消えていく。

セラが、ゆっくりと振り返った。

その視線が、ユリウスを捉える。彼は身を強張らせた。何を言われても受け止めるという顔だった。

だが、セラの口から出たのは、予想とはまるで違う言葉だった。

「……ユリウスさま。杖なしの魔法は、下品で危険だって、先生たちは教えてくれたよね」

「……」

「でもね、魔力を細く束ねるやり方も、先生たちが教えてくれたんだ。あたし、全部覚えてた。一度も使えなかったけど、全部」

セラは、自分の両手を広げて見せた。

「学院で教わったこと、無駄じゃなかったよ。……使う手が、違っただけ」

その笑顔は、乾いても、強がってもいなかった。

ユリウスの顔が、引きつった。

罵倒されるより、ずっと応えたのだろう。彼が「欠陥品」と切り捨てた少女は、彼らと同じ教えを、彼らの誰も届かない場所で形にしてみせたのだから。

「ルーク!」

セラが駆け寄ってきた。そこでようやく、自分が地面に座り込んでいたことに気づいた。こめかみの痛みが、まだ頭の中で金槌を打っている。

「みてた!? あたし、ちゃんと制御できた!」

「うん。見てた。……すごいよ、セラ」

セラは「えへへ」と笑って、それから急に顔をゆがめ、僕の肩に額を押しつけた。

細い肩が、小さく震えていた。でもそれは、もう怖いからじゃなかった。

しばらくして、影が差した。

見上げると、ユリウスが立っていた。ひびの入った杖を握り、その顔には、もういつもの冷たさが戻っていた。

「……荷物持ち。さっきのは、何だ」

「……見えるんです。その人の本当の才能が」

ユリウスは、笑わなかった。

ただ、長い間、僕の顔を見つめていた。その体から立ち上る水色の光は、さっきまでよりずっと澄んでいて、だからこそ、その揺らぎがよくわかった。

やがて彼は、セラへと視線を移した。

「……平民の分際で」

絞り出すような声だった。

「このことは、家に報告させてもらう。――グランツ家にも、王都にも。血を持たない者が、あんな魔法を扱えるはずがないのだからな」

それは、負け惜しみにも聞こえた。

でも僕には、その言葉の奥に、もっと冷たいものが潜んでいるような気がしてならなかった。

「あんな魔法を扱えるはずがない」――それはまるで、「あってはならない」と言っているように聞こえたからだ。

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