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数値がすべての世界で、僕にだけ『測定不能』の才能が見える 〜見捨てられた少女たちと成り上がる〜  作者: guil727


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第8話 杖の限界

咆哮が、腹の底を震わせた。

学生の何人かが、その場に尻もちをつく。杖を取り落とす音。誰かの悲鳴。

「――狼狽えるな!」

ユリウスの声が、それを切り裂いた。

「第一列、第二列、全員で詠唱! 炎槍を一点に集中させろ!」

さすがは首席だった。その一声で、学生たちが我に返る。震える手で杖を掲げ、詠唱を始める。

「セラ、まだ撃たないで」

僕は彼女の肩をつかんだ。大熊と僕たちの間に、学生たちがいる。今撃てば、彼らごと吹き飛ばしてしまう。

「……うん。わかってる」

セラは素手の両手を握りしめたまま、前を見据えていた。

「放て!」

二十本の炎の槍が、一つの流れとなって大熊の胸へ注がれた。

轟音。煙。焼けた毛の匂い。

――そして煙の向こうから、大熊は、何事もなかったかのように一歩踏み出した。

胸の毛が少し焦げている。それだけだった。

「嘘だろ……」

誰かの呟きが、絶望に変わるより早く、大熊の前足が薙ぎ払われた。

爪は届いていない。それでも、巻き起こされた風だけで、最前列の学生たちが木の葉のように吹き飛ばされた。

「第二撃だ! 詠唱を――」

ユリウスの号令に、学生たちがもう一度杖を掲げる。

だが、今度は揃わなかった。

ぴし、ぴし、と、乾いた音があちこちで鳴る。杖の先にひびが走り、せっかく形を作りかけた炎が、しぼむように消えていく。

「杖が……熱いっ!」「だめ、魔力が通らない!」

練習用の標準の杖は、続けざまに全力で撃つことを想定して作られていない。セラの杖が砕けたのと、同じだ。器の限界を超えれば、壊れる。

「うわああっ!」

一人が杖を投げ捨てて逃げ出した。それが合図だった。隊列が、一瞬で崩れた。

「結界を!」

教官が叫び、学生たちの前に薄い光の壁を張った。大熊の前足が、それを、まるで蒸気の膜でも破るように突き破った。教官の体が宙を舞い、大木に叩きつけられて動かなくなる。

「――グレン! 前へ!」

左の守りにいたアルベルトさんが叫んだ。

「正面で受け止めろ! その間に僕が――」

だめだ、と叫ぶ間もなかった。

グレンさんが大盾を構えて飛び出す。大熊の爪が、その盾に振り下ろされる。

金属の悲鳴。

盾は、真っ二つに割れていた。もともと入っていた古いひびに沿って。僕が毎週確かめて、「そろそろ替え時です」と言い続けていた、あのひびだ。

グレンさんの巨体が地面を転がる。

アルベルトさんは、剣を構えたまま、動かなかった。

その顔から、すっと血の気が引いていくのが見えた。

「……撤退だ」

かすれた声だった。

「『暁の翼』、撤退! これは勝てる相手じゃない! 学院の子たちは――彼らは自分で逃げられる!」

そう叫ぶと、アルベルトさんは蹵を返して森へ駆け出した。仲間たちがその後を追う。地面に倒れたグレンさんを、振り返りもせずに。

他の二つのパーティも、それに続いた。

一瞬、頭が真っ白になった。

でも、体は勝手に動いていた。五年間、こういうときにどう動くかだけは、嫌というほど学んできた。

荷物袋から煙玉を三つつかみ、大熊の鼻先、右側、そしてもう一つを頭上に投げる。白煙が草地を覆い、大熊が苛立ちの唸りを上げる。

「みんな、右の倒木の陰へ! 地面を這って、煙の下を通って!」

自分でも驚くほど、声が通った。

学生たちが、よろめきながらそちらへ動き始める。僕は足を挫いて立てない女子学生に肩を貸し、倒木の陰へ引きずっていった。それから取って返し、地面に倒れたままの大きな背中へと駆け寄る。

「グレンさん! 立てますか!」

「……ルーク……?」

グレンさんが、うつろな目でこちらを見た。額から血が流れているが、足は動く。

「倒木の陰に、動けない学生が三人います。一人担いで、森の外へ逃げてください。グレンさんならできます」

「お前……」

グレンさんは何か言いかけて、それを飲み込み、立ち上がった。

「……おう。任せろ」

煙が、薄れ始めていた。

その向こうで、僕は信じられないものを見た。

草地の真ん中に、ユリウスが、一人で立っていた。

その後ろには、足がすくんで動けない学生が五人。逃げ遅れたのだ。彼はその前に立ちはだかり、銀の杖を掲げていた。

「――炎よ、我が血に応え、槍となりて――」

さっきの、あの大槍の詠唱だ。

だが、杖の先に灯った炎は、さっきの半分にも満たなかった。それは形を成す前に揺らぎ、ちりじりと音を立てて、銀の杖に、細いひびが走った。

炎が、消えた。

ユリウスが膝をつく。その前に、煙を抜けた大熊の巨体が、影を落とした。

考えるより早く、僕は走っていた。

「――ユリウス!」

彼の前に滑り込み、その肩をつかんでこちらを向かせる。

「僕を見て!」

「な――」

冷たいはずの灰色の瞳が、恐怖で揺れていた。その目と、真正面から向き合う。

水色の光が、流れ込んできた。

――素質:水鏡の守り。

――開花の条件:攻めを捨て、誰かを守るためだけに杖を構えること。

こめかみに、釘を打ち込まれたような痛みが走る。一昨日の夜の痛みが、まだ残っている。それでも、僕は叫んだ。

「君の才能は、攻撃じゃない! 守りだ!」

「……何を、言って……」

「炎は君の光に合ってない! だから杖が悲鳴を上げるんだ!」

「黙れ……! グランツ家は、三百年、炎の魔術師を――」

「後ろの五人を守れるのは、今、君だけだ!」

ユリウスが、息を呑んだ。

その頭上で、大熊がゆっくりと前足を振り上げた。四本の爪が、天を切り裂くように光る。

そのとき。

背後で、草を踏む音がした。

逃げ惑う学生たちの流れに、ただ一人逆らって。

赤い髪の少女が、前へと歩いてくる。

学生たちはもう、射線の上にはいなかった。

セラが、素手の両手を、まっすぐに前へ突き出した。

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