↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
数値がすべての世界で、僕にだけ『測定不能』の才能が見える 〜見捨てられた少女たちと成り上がる〜  作者: guil727


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/40

第7話 合同討伐

ホール中の視線が、セラに集まった。

僕の袖を、小さな手がきゅっとつかむ。一瞬だけ。それからその手は離れ、セラは一歩前に出た。

「……参加します!」

声は少し上ずっていた。でも、笑ってごまかしはしなかった。

「待ってください」

カウンターから、ノーラさんが立ち上がった。

「ギルド長。セラさんは登録上Fランクです。東の森の奥はDランク以上の区域。規則では――」

「学院の責任で連れていく」

ユリウスが、にべもなく遮った。

ギルド長は、少し考えるそぶりを見せただけだった。三倍の報酬と、伯爵家の御曹司。秤にかけるまでもない。

「……学院側の判断を尊重しよう」

ノーラさんが唇を引き結ぶ。それから、悲しそうな目でこちらを見た。

「僕も行きます」

僕は言った。

「セラとは、パーティですから」

ユリウスは、もうこちらを見てもいなかった。

「荷物持ちは好きにしろ」

出発は、二日後の夜明けだった。

学生が二十人。教官が一人。冒険者は三つのパーティと、僕たち二人。その中には、「暁の翼」もいた。

「ルーク!」

門の前で、アルベルトさんが手を振ってきた。

「君たちが参加するって聞いて、心配になってね。僕たちも受けたんだ。何かあったら、僕の後ろに隠れるんだよ」

「……ありがとうございます」

彼の後ろで、グレンさんが気まずそうに会釈した。その背中の大盾に、新しい傷がいくつも増えている。僕がいなくなってから、盾の入れ替えを誰も勧めていないのだろう。

東の森に入ると、ユリウスはすぐに隊列を組んだ。

学生たちを中央に。冒険者は左右と後方の守りに。そして、隊列のはるか前――三十歩ほど先を、セラが一人で歩かされた。

「斥候兼、囮だ」

ユリウスは当然のように言った。

「その距離なら、暴発しても隊列には届かない。それと、勝手に魔法を使うな。お前が撃てば味方まで吹き飛ぶ」

教官が何か言いたそうに口を開き、すぐに閉じた。この訓練隊で本当に力を持っているのが誰なのか、それでわかった。

僕は黙って、セラの隣に並んだ。

「……ルーク、後ろにいていいんだよ?」

「パーティだから」

セラは一瞬きょとんとして、それから小さく笑った。

「……うん」

森を進むこと一刻。最初の戦いは、森狼の群れだった。

十頭ほどの狼が、茂みから一斉に飛び出してくる。僕はセラの腕を引いて大木の陰へ下がった。狼たちが、そのまま隊列へと殺到する。

「第一列、詠唱始め!」

ユリウスの声が響いた。

学生たちが一斉に杖を掲げる。十本を超える炎の槍が、寸分の狂いもなく並んで飛び、狼たちを正確に穿っていく。

――きれいだ、と思った。

協調した詠唱。揃った威力。何年も訓練した人たちの技だ。彼らが笑っていた「辺境の冒険者」には、こんな真似はできない。

それを見つめるセラの横顔は、不思議と穏やかだった。

少し前の彼女なら、ここで光が乱れていただろう。でも今は、白金の光が静かに彼女を包んでいる。自分の力を、自分で抱えている。

「……先生たちの教え、ちゃんとすごいんだよね」

セラが呟いた。

「あたし、あの詠唱の仕方、全部覚えてる。一度も使えなかったけど」

その声に、もう悲しさはなかった。

狼の群れは、あっけなく片付いた。学生たちから歓声が上がる。

だが、僕は、ずっと別のものが気になっていた。

鳥の声が、しない。

森に入ってから、一度も。

さっきの狼たちもそうだ。好きでこの人数に飛びかかってきたというより、森の奥から外へと、何かに追い立てられていたように見えた。

足元の土を見る。鎧猪の蹄の跡が、いくつも重なっている。全部、同じ向きだ。森の奥から、外へ。

(一昨日の鎧猪も、もしかして――)

逃げてきたのだとしたら?

奥へ進むにつれて、「それ」は増えていった。

そして、ある大木の前で、僕は足を止めた。

幹に、爪痕があった。

四本。一本一本が、僕の腕ほどの太さ。その高さは――僕の背丈の、倍以上。

樹液がまだ乾いていない。

「……セラ、ここで待ってて」

僕は隊列へと駆け戻った。最初に話しかけたのは、一番近くにいたアルベルトさんだった。

「アルベルトさん。この先に、何かいます。鎧猪よりずっと大きいものが。森の魔物が、ぜんぶそいつから逃げてる」

アルベルトさんは一瞬だけ爪痕の方を見て、すぐに笑った。

「考えすぎだよ、ルーク。鎧猪が牙を研いだ跡だろう。それに、仮に何かあっても、これだけの人数だ。僕たちもいる」

「でも、牙の跡なら、あんな高い位置には――」

「ルーク」

穏やかな声だった。いつもの、あの声。

「君はもう、うちのパーティじゃないんだよ。口を出すのは、やめてくれないかな」

空気が、ひやりとした。

僕はそれ以上、何も言えなかった。代わりに教官のもとへ走った。教官は僕の話を青い顔で聞いたが、結局、そのままユリウスに判断を仰いだ。

「臆病風に吹かれた荷物持ちのたわごとだ」

ユリウスは、一瞥もせずに言い捨てた。

「進むぞ。この先の開けた場所で、最終訓練を行う」

セラのもとへ戻ると、彼女は僕の顔を見て、何も聞かずにうなずいた。

「ルークがそう言うなら、あたしは信じる」

「……ありがとう」

「だから、何かあったら、ちゃんと言ってね。あたし、すぐ撃てるようにしとくから」

そう言って、セラは素手の両手を、そっと握ったり開いたりした。

森の奥の開けた場所は、丸く切り取られたような草地だった。

そこでユリウスは、訓練の締めくくりとして、自ら大きな魔法を披露した。

銀の杖を掲げ、長い詠唱。頭上に、人の背丈ほどもある炎の大槍が形を成し、向こうの岩を粉々に砕いた。

学生たちが拍手喝采を送る。

ユリウスは杖を下ろし、ちらりとセラを見た。

「――これが、本物の魔法だ」

だが、僕はそのとき、彼の光を見ていた。

炎の大槍を放った瞬間、水色の光が、苦しそうにきしんだ。自分の形とは違う器に、無理やり注ぎ込まれた水のように。

そのときだった。

拍手が、止んだ。

誰かが止めたわけじゃない。地面が、揺れたのだ。

一度。二度。ずしん、ずしんと、足の裏から伝わってくる。

草地の向こう側で、大木が一本、ゆっくりと傾いでいく。それから、もう一本。

木々を、まるで草をかき分けるように押し倒して、それは現れた。

熊だった。

いや、熊と呼ぶには、あまりにも大きすぎた。立ち上がったその背丈は、人の三倍。灰色の毛皮に岩のような筋肉が盛り上がり、額からは、曲がった灰色の角が一本、空へ突き出している。

その前足から伸びる、四本の爪。

さっき幹に刻まれていたものと、同じ太さだった。

「……灰角の大熊」

誰かの声が、かすれて漏れた。

この森の、主。少なくともBランクのパーティが、一つ二つでは足りないと言われる化け物だ。

大熊は、草地の中央に密集する二十人の学生を見下ろし、ゆっくりと口を開いた。

森中の空気を震わせる咆哮が、轟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。